夏場所が始まった。
4日目をゆっくり観戦できた。
1人横綱が休場し、4大関中心とした優勝争いが期待される。
初日と4日目は安泰だったが、常時安定しているには照ノ富士くらいである。
台風の目になりそうなのが、新三役を狙う若隆景。
先場所に続いて上位で通用。
大関を連破、さらに、大関時代以上の貫禄を示している3連勝の関脇高安にも、
真っ向押し相撲で対応して勝ってしまった。
軽量ながら正攻法で上位に対抗できる日本人力士が、ついに出てきたかという感じだ。
師匠となった蒼国来とも少し重なる部分もあるが、離れても本領を発揮するあたりが地力の高さを感じさせる。
ところで、NHK解説の舞の海さんに首を捻らせる場面が続いた。
天空海ー大奄美
左を差した大奄美が巨腹を利して一気に寄る。
巨体に似合わず柔道仕込みの大技も繰り出す天空海だが、こう胸が合っては得意の掛け投げも出せない。
右を内掛けに入れてみたものの不完全で、真後ろに倒れる形で土俵下へ落ちた。
ところが、物言いがついた。
最後まで足で腕でしがみついて倒れたため、大奄美も巻き込まれて落ちたように見えたが、大奄美も一気に土俵下へ飛んでいったのではなく、右足を俵の外で踏ん張ってから飛んでいる。
これが天空海のかかとが俵の外について、ひっくり返るより早いのでは、というわけだ。
舞の海さんの見解では、すでに天空海の体はなく、大奄美が足をつかなければ重ね餅になってしまうため、かばってついたと言えるのではないかと。「かばい手」はあっても「かばい足」はあまり聞かないが、この場面は手をつける状況でもないため、反射的に相手を下敷きにするのを避けるには足を踏み出すしかない。天空海がうっちゃりを仕掛けていたのなら、そこに足をついたために体が割れなかったのだと勇み足を主張しても良いが、何とか粘ろうとはしているものの何とかできる体勢でもない。悪く言えば相手を巻き込んでいるだけにも取れる。それなら、足を出す前に体が死んでいるという判断をすべきであるということだろう。
それとも、あくまで天空海が逆転技を仕掛けていると見て、足を踏み出さなければ体が割れてうっちゃりが決まっていたと言い張って(ちょっと無理があると思うが)、足がついた時点を勝負と見るか。
ところが、錦戸審判長によるいつもながら簡潔な説明は、「かかとと爪先が同時で取り直し」。
かかとと爪先なら、ビデオ室の情報で、大奄美のつま先がわずかながら先なのはわかっていただろう。
あえて同体と見るのなら、「爪先がつくのと体がなくなるのが同時」だろう。ただ、死に体と見ているのなら、爪先がついた時点で体が死んだというのも変な話だ。もう少し前の時点で死んでいると言えるだろう。
ちなみに、この一番を評したAbemaTVの記事はこちら。
https://times.abema.tv/news-article/8657943
やっぱり浅い、ここは。
先場所の力士の死亡事故で、安全問題も出てきているが、危険回避のためにも、勝負が決まる間際には、暗黙の了解があるべきだ。
立合いが駆け引き先行になったと言われて久しいが、これも勝負ごととはいえ、互いに呼吸を合わせて立たないことには始まらない。ハッケヨイで立つアマとは違い、阿吽の呼吸で立ってこそのプロの相撲。互いのベストのタイミングが合わないときには、お互いの歩み寄りが必要。
同様に、ここからはもう逆転不可能という体勢のときに、掛け逃げのような技を仕掛けて道連れにしては、互いの危険を増大させる。ここらが潮時というのは、稽古を重ねたプロの力士なら体で悟るはず。勝った側も、だいだいわかるはずだ。
そのためのにかばい手や送り足といった勝負判定の例外を設けている。
中には、北の富士ー貴ノ花のように、常人なら死に体と思われる体勢から技を仕掛けられる力士もいる。むやみに死に体を適用しては勝負の面白さを削ぐ、という意見も理解できるが、そこは審判の腕の見せどころ。ビデオの時代、聴衆からどっちが早いと批判されても、プロの目で堂々と勝負判定すれば良い。それでも判断の分かれる微妙なものは、みなであれこれ言えばよい。多少の微妙な判定も大相撲の一部と受け止めたい。
舞の海さんがまだ言い足りない感じながら、次の相撲へ気持ちを切り替えていたところ、またまた。
隠岐の海が前に出て、千代翔馬が引いて呼び込み、苦し紛れの投げを打って土俵を飛び出しつつも、片足は俵の内側で粘る。大股開いてもう片足は、土俵外の空中へ。ビデオで見ると、土俵の高さを下回ったあたりで隠岐の海が落ちた。さらに千代翔馬の俵の内側の足も、出足に持っていかれる形で出た。確かに体が飛ぶ前に投げに行っているが、吹っ飛びながらなので、どこまでを体が生きていると判断するかは微妙なところ。
こちらは物言いの末千代翔馬の勝ち。
どちらが先に出たか、ついたかの判断は重要だが、流れを加味しない判定が続いて、冷静で饒舌な舞の海さんが、ついに無言になってしまった。
おそらくこういうことが言いたかったのでないだろうかと勝手に代弁した。