横綱照ノ富士が初場所千秋楽、若手の琴ノ若を退けて見事な復活優勝を遂げた。
場所前、出場か欠場かと話題になった横綱が、ここまで活躍するとは思わなかった。
昨年名古屋場所で途中休場して以来、3場所ぶりの出場。ひざの故障に加えて腰を痛め、さらには糖尿病に苦しめられ、場所前は満足な稽古もできなかったという。
二日目、関脇を陥落した若元春に敗れたときには、稽古を積んだものと、そうできなかった力士との差を見た。横綱は千秋楽まで持たないのではないか…。
ところがどっこい、彼は必死に土俵に上がり続ける。気鋭の新人らを次々に下し、ついには優勝争いにも加わった。千秋楽には横綱を目指す霧島に満足に相撲を取らせず、優勝決定戦では琴の若を圧倒した。
その相撲を見ながら、人間とはなんと不思議な生き物か、とまで思ってしまった。
横綱だから強いのは当たり前、とか、もともと力のある力士、という説明では言い尽くせない気がする。
知られるようにモンゴルで生まれ育った照ノ富士は、日本出身力士では考えられない苦労を重ねながら、持ち前の努力であれよあれよという間に大関まで駆け上がった。
横綱間違いなしと言われたものの、けが、故障が続いて一気に番付は下降。2019年3月場所には序二段まで陥落した。
けがもさることながら、昇進のスピードに心がついていけず、慢心してしまったことも大きな原因だったと、彼自身、のちに語っている。
月額250万円の給料が一気に無給。その落差がすさまじい。普通のサラリーマンでもここまではない。何度も引退を考えながらも、師匠らの励ましもあって一歩ずつ復活の階段を駆け上がり、ついに相撲界頂点の横綱を引き寄せた。
これだけでも壮大な人間ドラマだ。が、名古屋場所以後の連続休場、故障続きに、〝不死鳥の照ノ富士もこれまでか〟と思った人は、自分を含めて少なくなかったはずだ。
しかし今場所、横綱は満身創痍の体にむち打ってもう一度立ち上がった。その姿はかっこうよかった。
どん底に追い込まれ、給料もなくなり、病気だらけの体にむち打ち、自身を励ましながら這い上がるさまには、心揺さぶられる。
近年、「もう限界です」と、自分の実力に早々と見切りをつけ、相撲界を去っていく力士が増えている。現役力士は減少する一方だ。
ただ、あまりにも早く、自分の可能性を閉じてしまってはいないか、などとつい思ってしまう。
〝照ノ富士は別格〟と言う前に、彼が発しているメッセージを、力士、指導者がもう一度見つめてもいいかもしれない。
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