どんなに強い力士であっても、いつかは直面すること。とはいえ、栃ノ心(35歳)の引退発表には気持ちがざわつきました。
「自分の思う相撲が取れなくなった。恥ずかしいし、ファンに申し訳ない」という引退会見を聞きながら、一気に大関、横綱に駆け上がるのではと思っていた矢先の大けが、それを克服して幕内での初優勝(2018年)、大関昇進した時は一緒に喜び、興奮したことを思い出しました。
好不調の波があり、振るわなかったり、番付を下げても、彼の相撲を見続け、ひそかに応援してきました。
ジョージアという異国からの来日で、言葉や食べ物の違い、大けが。にもかかわらず、故郷の人や日本の多くのファンに励まされてまた立ち上がり、相撲に打ち込んできました。
二度、直接話を聞いてきました。
自分が取材するときはいつも限られた時間で、間近に迫る相撲のことばかり。じっくり話を聞く機会がありませんでした。
その後、女性ライターが書いた本を読むと、柔道好きの青年が相撲に打ち込む中で、最初いろんな面で違和感を覚えた日本を、だんだん好きになってきたことを知りました。
部屋でたった一人の外国人だったからこそ、日本語をものにしなければならず、上達してきたこと。それらの経験を通じて、引退したらジョージアと自分を育ててくれた日本との懸け橋になりたいと、以前から考えてきたそうです(『日本で力士になるということ』飯塚さき著)。
外国出身の力士はみな同じような体験をし、苦労しながら、世界中に相撲ファンを広げる役割をになっています。
自分や日本人が外国で生活するようになった時、異国で外国の人とつきあい、仲良くなっていく国際交流というのはどういうものか、を考えさせた力士でした。
相撲は一日わずか一番。そのために朝から稽古を頑張って、着物を着て、大銀杏を結って準備する。
「一日たった数秒のために、人生を懸けて準備するんです…そこが相撲の魅力かな」(栃ノ心『日本で力士になるということ』から)
度重なるけがを乗り越えて土俵に上がり続けてきた力士が、また一人去りました。
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