知られるように、外国出身力士は現役を引退した後、日本の相撲界で指導者の道を歩もうとすれば、国籍を変えて(帰化して)日本国籍にしなければなりません。相撲協会が「日本人でなければならない」と定めているからです。
この規則をめぐっては長いこと議論されてきました。
「大相撲は日本の伝統文化。日本人でなければだめだ」「これだけ国際化している中で、相撲だけが国籍にこだわるのはおかしい」云々…。
いま相撲界で活躍する力士や、すでに国籍を変えて指導者となっている人はどう考えているのか。
『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』(飯塚さき著)は、このテーマでも力士たちに聞いています。
ブルガリア出身の元大関琴欧洲(現鳴戸親方)は、祖国の家族、身内の人も巻き込んで心を痛めながら、つらい決断をしたといいます。
ジェシーの愛称でも知られたハワイ出身の元関脇、高見山さん(元東関親方)。外国出身力士の先駆者ですが、国籍の変更は協会の決まりで仕方がない、それよりも帰化して親方になりたい、弟子を育てたいという思いの方が強かったそうです。
モンゴル出身の元横綱鶴竜(鶴竜親方)は、日本人でなければ親方になれない決まりだから仕方がないが、「自分の意見で言えば、なくてもいいんじゃないかと思うところがある」。国籍を変えることに関しては、母国モンゴルでも厳しい声が上がったといいます。
元大関の栃ノ心は、帰化する予定はないとしながらも、引退後は故郷ジョージアと日本をつなぐ架け橋になると語っています。
鳴門親方や鶴竜親方の話からは、相当深刻に考え、悩んだ末の決断だったことが浮かんできます。
いま米大リーグで活躍する大谷選手などが、〝アメリカに残りたければ国籍を変えろ〟と言われているようなものです。そう簡単なことではないことが伝わってきました。
自分も、以前から国籍変更問題を考えてきました。最近、ヨーロッパ出身の元力士をモデルに、このテーマで本も書きました。
ただ、この元力士は引退ー帰国後、違法カジノの宣伝マンになり、インターネット上で日本に向けた宣伝マンになっていたことがわかりました。こうした力士をモデルにした本を出すわけにはいかない、でも、この問題はどうしても書いておきたいと、身内、知人に贈呈する限定本になってしまいましたが…。
考えながら行きついたのは、日本の力士には考えられないような苦労、努力をしてきた外国出身力士が、国籍を変えなければ指導者になれない、大相撲の魅力を世界に広げたいと思っているのに、その道を閉ざすのは、大相撲の発展にとってもあまりにももったない、大きな損失ではないか、ということでした。
今後も、もっと立ち入って議論してもいいテーマではないかと思っています。
それにしても、自身の海外留学の経験などを通じて、日本で外国人として暮らす力士の心情に少しでも共感し、寄り添えれば、という気持ちで若い女性作家が書いたこの本は、男性ライターにはない感性にあふれた読み物でした。脱帽です。
![]()
↑ランキングに参加していますので、ポチッと応援していただけると嬉しいです