星の代わりに雨の降る | 読書日記

読書日記

神郡が読んだ本の感想や、諸雑記を書いていくブログ。
知り合いには見せられないなあ。

今日は七夕ですね。
小さい頃短冊に何か書いたような憶えはあるんですが、その内容を忘れてしまったので叶ったかどうかすら謎のままです。





・笙野頼子『絶叫師タコグルメと百人の「普通」の男』(06’河出書房新社)
・西條奈加『朱龍哭く 弁天観音よろづ始末記』(12’講談社)
・高橋源一郎『ゴヂラ』(01’新潮社)
・さだまさし『風に立つライオン』(13’幻冬舎)
・小林泰三『アリス殺し』(13’東京創元社 創元クライムノベル)



笙野頼子『絶叫師タコグルメと百人の「普通」の男』(06’河出書房新社)

――美少女vsロリヲタ最終抗争!? 悪徳栄える乱世の未来に、笙野頼子がついに放つ最狂の超哲学小説。アニヲタ必携! フェミ必携! 病的心性日本を告発する、新たなる文学の金字塔がここに。
「この愚鈍なナイーブさには苦笑する価値もない」❤出里田誤用之助
「こいつって結局はかまって欲しいんだよね」❤便壺泳之進
「こんな文学、いつ滅んだって惜しくはない」❤子犬坂哲郎
「ご安心ください笙野頼子さん、
 僕は決してあなたは襲いませんから」❤喪男山好三
各界の権威から祝福の嵐が…!――


久しぶりの笙野頼子です。相変わらず帯の煽り文句が素敵だなあ。まさに煽られて読んでしまいます。

今作は『説教師カニバットと百人の危ない美女』の続編です。知らずにこちらから読んでしまいました。前作から引き続き、主人公として八百木千本(なんて読むんだろう、はっぴゃくぎ・せんぼん?)が登場しており、彼女は以前読んだ『水晶内制度』の主人公と同一人物のようです。
時系列的には『説教師カニバット~』が始まりで、『絶叫師タコグルメ~』と続き、『だいにっほん、おんたこめいわく史』と『水晶内制度』が同時期くらいらしいです。

ストーリーは、「これは夢ではない。ふと気が付くと、私は「若く」、「美しく」、「有名」になっていた。しかも「痩せ」ていた。――」という、八百木千本の独白から始まります。ずっと独白です。
八百木千本は作者を投影したキャラクターのようです。女性の作家で、自らの容貌が他の追随を許さぬほど不細工であると称し、美貌ならぬ「ブ貌」を武器にして、作品を書いてきた、と。

今まで読んだ作品の中では常に「私」という作者の分身のような登場人物がいましたが、名前が付いているのは初めてですね。単にあまり著作を読んでいないだけということもありますが。
作中でも度々、作者と八百木千本は別人だということが強調されています。

それで、彼女はどうやら軟禁されているようだということがわかります。誰に、というのはこの国を支配している政府の「知と感性の野党労働者会議」略して「知感野労」、「知感」です。笑いました。
その知感野労のトップがタコグルメ(アメノタコグルメノミコト)で、徹底した男尊女卑社会を築いています。男たちは皆ロリコンで、ネット内にキャラクターを作り皆それを投影している。
生身の女性は怖いから、二次元美少女の着ぐるみに一生押し込んでしまうし、ネットキャラクターの為に現実の女性をキャラクターのパーツにしてしまう。
つまり冒頭の若く美しく有名で痩せて、と言うのは、生身の女性である八百木千本が、「美ガ原キレ子」というキャラクターのパーツとして供され殺されてしまいそうである、という状況のことを言っているものでした。

ストーリーだけ追えばおそらくそういうことなんだと思いますけど、実際この本の魅力と言ったらやっぱり過激で流れるような批判と痛罵です。
学がないので論じられていることを理解するのは難しいのですが、読んでいるだけでも面白いのでおすすめ、はしませんが、間違いなく一度読んだら忘れられない作家です。

初期の小説然とした作品も読んでみたいですねえ。



西條奈加『朱龍哭く 弁天観音よろづ始末記』(12’講談社)

――お侠な小町娘のお蝶と、物腰穏やかな色白美人の沙十。人呼んで“弁天観音”美人姉妹と、次々と現れるクセ者の男たち。一本気な枡職人、ワケあり破戒坊主、無愛想な若侍、好色な若旦那。かしましくも賑やかな日々の裏、お蝶を狙う影が迫っていた…。――

表紙から、美人姉妹が必殺仕事人的活躍をするのかなと思っていたら違いました。姉妹は姉妹でも兄嫁なので義理の姉ですし。

武家の娘ではあるけれど、長屋で長唄の師匠をしながら町人として暮らすお蝶。義理の姉の沙十はおっとりしていて方向音痴だけれど、実は薙刀の名人。この二人が色々な事件を解決するのが前半。
後半は、お蝶を狙う謎の人物が誰か、ということに焦点が移って行きます。事件は父の死の真相からだんだん政府転覆の大事になり、信頼していた人物が皆怪しくなりはじめ、誰を信じていいのかわからなくなり…。

逆ハーレムですね、お蝶ちゃん。お蝶自体は美人で気風がいいけど普通の人です。でもやっぱり周囲の人物が普通じゃないっていう。
読後感が爽やかでした。エンターテイメントとして面白く読めます。時代劇が好きで、どんでん返しが好きな人はおすすめします。あと女性向けかな。なんせ逆ハーレムー。



高橋源一郎『ゴヂラ』(01’新潮社)

――最近、どうもおかしい。世界全体が変なんだ。石神井公園の町に閉じこめられてしまった詩人。駅前で悪人募集のビラを撒いてる『影の総裁』。「正義の味方」をやってる作家のタカハシさん。“いけないこと”を唆す、本物の漱石と鴎外。でも、ゴヂラはなかなか現れない。いつになったらゴヂラは出て来る?どうしてゴジラでなく、ゴヂラなのか?謎を解きたくて、秘密を知りたければあいつの正体を突き止めるしかない。世界の秘密がわかってしまう、同時多発小説。――

実は再読でした。好きな作品です。ゴヂラがなんなのかは、わかりません。
でも間違いなくゴヂラがいないと成り立たない。そんな小説です。

石神井公園の周辺で起こる、事件ともいえないような日常。
うだつのあがらないサラリーマン(「起きて、我がために温かき朝食を作れかし!」に笑った。)に痴漢を唆す夏目漱石。竹ぼうきで掃除をし続ける詩人、疑心暗鬼の警官、悪人募集中の影の総裁、正義の味方のタカハシさんに森鴎外。ぬいぐるみと喋る女の子や、延々とカラオケを続ける老女たち、地球侵略を企む宇宙人連合。

そして唐突に挟まれる作家と編集者の会話。
最後に明かされた世界の秘密。でも何も変わりはしないという。

登場人物たちの気の抜けたような会話がいちいち愉快でした。掲載時から大幅に改稿したらしいけれど、どう変わったんだろう。良くも悪くも、連載作品だなあ、という印象です。




さだまさし『風に立つライオン』(13’幻冬舎)

――さだまさしが遂にあの「名曲」をモチーフに書き下ろした。80年代の長崎、ケニア、2011年の石巻をつなぐ、壮大な「希望」の物語。感涙長篇!

1987年、熱い志と明るいエネルギーを持つ日本人医師・航一郎は、恋人を長崎に残し、ケニアの病院に向かった。劣悪な環境で奮闘する航一郎の前に、激しい銃創を負った少年兵・ンドゥングが現れる。心を開かないンドゥングだったが、航一郎の熱さ優しさエネルギーを受け、少しずつ変わっていく。そして、遂に医師を志すことを決意するまでにいたる。しかし、その後、航一郎に哀しい運命が訪れ――。2011年3月、医師となったンドゥングは、津波に襲われた石巻を訪れる。そこで出会った避難所明友館のリーダー・木場に航一郎の面影を見る。木場と共に被災者に寄り添うンドゥングは、ある日、かつての自分と同じような目をした少年に出逢い……。ケニアの日本人医師から、かつての少年兵、そして被災地の子供へ。「心」のバトンが繋がった。――


実在の医師、柴田紘一郎さんの実話をもとにさだまさしが歌を作り、その歌をもとにして書かれた小説です。
さだまさしの小説を読むと、ちゃんとした人間にならなくては、という気分になります。人間と言う存在が尊く感じられます。

第三部に分かれており、第一部は1987年からの、航一郎青年がどう生きたか、どう考えたか、ということを複数の関係者の手記という形で綴られていきます。

誰にでもおめぇよ、と呼びかけ、なんでもオッケー、大丈夫と答える明るい青年。
でも悩んだ時には「ガンバレー」と大声で何度も叫ぶ。頑張れ、は他人ではなく自分に掛ける言葉。
歌のほうの、『風に立つライオン』部分ですね。
「――去年のクリスマスは国境近くの村で過ごしました
 こんな処にもサンタクロースはやって来ます 去年は僕でした――」
ここいいですよねえ。

第二部は、両親を殺され、姉を誘拐され少年兵として人を殺めた、傷ついた少年・ンドゥグが、航一郎に出会い変わって行く様子。
そして、航一郎との突然の別れ。

第三部は、2011年、大人になり医師となったンドゥグが被災地を訪れています。少年兵時代、9人の命を奪ったンドゥグに、それなら一生を掛けて10人の命を救わないといけない、といった航一郎。その言葉通り医師になったンドゥグは、避難所で出会った言葉を失った少年や、航一郎によく似た青年・木場と交流を深めていきます。

さだまさしって普段人間がどういう風に見えているんだろう。小説に出てくる人は、悪人もいるけれどそれは人間的と言ってもよく、性善説が根本にあるような気がする。
こういうふうに見れたらどんなにいいだろうなあ。



小林泰三『アリス殺し』(13’東京創元社 創元クライムノベル)

――大学院生・栗栖川亜理は、最近不思議の国に迷い込んだアリスの夢ばかり見ている。ハンプティ・ダンプティの墜落死に遭遇する夢を見た後大学に行ってみると、キャンパスの屋上から玉子という綽名の博士研究員が墜落死を遂げていた。次に亜理が見た夢の中で、今度はグリフォンが生牡蠣を喉に詰まらせて窒息死すると、現実でも牡蠣を食べた教授が急死する。夢の世界の死と現実の死は繋がっているらしい。不思議の国では、三月兎と頭のおかしい帽子屋が犯人捜しに乗り出していたが、思わぬ展開からアリスは最重要容疑者にされてしまう。もしアリスが死刑になったら、現実世界ではどうなってしまう? 彼女と同じ夢を見ているとわかった同学年の井森とともに、亜理は事件を調べ始めるが……。邪悪で愉快な奇想が彩る、鬼才会心の本格ミステリ――

最近読んで面白かった本は? と訊かれて、「小林泰三の、」と言ったら間髪いれず「渋いね」と返されました。むしろ小林泰三が通じて嬉しかったり。(蛇足かもしれませんが、こばやし・やすみ、です)

今回のナンバーワン。この作者の作品はSFかホラーしか読んだことがなかったので、ミステリーは新鮮だなーと思っていたらしっかりグロテスクでエグかった。もちろんそのあたりは期待して読んでいた面もあったんですが、予想以上にラストの犯人のくだりがキます。

夢の中のアリスのパートと、現実のパートが交互に展開していきます。
夢の中特有の不条理さと、原作のアリスに近いシュールさ。結構アリスをモチーフにした作品って多いですが、これは全く甘さのないアリスでした。『鏡の国のアリス』まで読んでおいたほうが楽しめると思います。
頭のイカレた登場人物と、噛み合わない会話を繰り返しながら犯人捜しをしていくのですが、犯人探しだけではなく、現実では誰がどのキャラクターなのか、を探すことも重要になってきます。

でもこれ注意していても確かに騙されます。叙述トリックとしてかなり完成度が高いので、読み直して感心しました。

表紙の絵も少し物騒ながらかわいく、女性や子供が手に取りやすそうな本なのですが、そこはやっぱり本業はホラー作家ですので、おすすめしたいけれど人を選んでおすすめしたい、そんな作品です。でも読んでみてほしいなあ。





ふと通りがかりに学校に飾ってあった短冊を見たら、「隈部が0点とりますように(笑)」と書いてあって、なんだか微笑ましくなりました。


では、また二週間後位に。
さようなら。


『それとも建物の一番奥に敵がいれば
 そいつが私だとでも思っていたのか?』