そしてその明日の夜が来た。 目育の作った例のものをカマーベストの下のネクタイにつけ、小佐野真李を呼ぶ。
「どうでしょう・・・? 調査の方は・・・? あと、旦那の好きな酒は、ハイボールです。 容姿は174cmで細身、スポーツ刈りの頭をしています。 二重で鼻が小さくてあごがとがってます。」
「ええ。 上手く行きそうですよ。 証拠を取れそうです。」
そこまで詳しく教えてもらえるとは思わなかった。 何やかんやいって彼女は旦那のことをよく見ている。
「本当ですか?」
「しかし、真実を知ってしまってよいのですか? ちなみに今日、旦那さんは?」
「課長と飲みに行くと・・ どういうことですか?」
「いえ、仮に真実を知ったとして、その真実があなたにとっていいこととは限らないということです。」
彼女は俺の言葉を聞いてしばらく悩む様子を見せたが、直後に吹っ切れた表情になる。
「いえ、たとえ真実がどうであれ、調査を頼んだのは私ですから。」
「そうですか。 それならばこちらも遠慮なくできますね。」
俺が微笑むと彼女も微笑み返す。 俺は強気の足取りの彼女を見送った。
俺は今夜、博打をかけた。 もしかしたら成功するかもしれないし、失敗するかもしれない。 しかも、この作戦は、この探偵社でしかできないのだ。
なぜかって? それは・・・
そのとき、ベルの音がなる。 若いカップルのようだ。 男は20台中盤。 女は高めに見積もっても24歳。 カップルは俺の正面に座る。
「すいません、お勧めのカクテルありますか?」
男が聞く。
「オレンジリキュールなんてどうでしょう?」
女の方は食いついたが、男は興味を示さず、ウィスキーを頼む。
次々と客が来る。 ウォッカを3杯以上頼んで酔いつぶれる輩もいて苦労したが、俺は一組のカップルを見つけた。
「何を飲みますか?」
「ハイボールください。」
男が答えた。 目が大きくてすっきり短髪に整えた髪形がさわやかな印象を与える。 こういう顔をイケメンというのだろう。 女の方は流行のファッションに身を包んだいかにも若そうな感じだった。
残念だが女。 お前とこの店の雰囲気はあっていない。 ところが俺はこの男が探していた男、小佐野孝だとわかる。 俺はネクタイにつけていたネクタイピン型小型カメラを起動する。
そう、俺の目的は小佐野真李にこのバーについて伝える。 仮に小佐野孝が浮気をしていたのだとすれば雰囲気などがぴったりなこのバーにくるだろうと思い、あらかじめ容姿の特徴や好きな酒を聞いておいたのだ。
小佐野孝がこの店に来たと断定できた瞬間に、ネクタイにつけたネクタイピン型小型カメラを起動し、小佐野孝とその愛人の様子を撮影する。 そしてその映像を証拠として提出するのだ。
ちょっと盗撮かもしれないと思うかもしれないが、監視カメラだと言えばいいだろう・・・
後日、俺はこのカメラに内蔵されているSDカードを取り出し、小佐野真李に渡す。
「このSDカードに真実が書かれていますよ。 これで私の調査は終了します。 料金はいつでも構いません。」
「はい・・」
数日後、一通の手紙とともに5千円札が入った封筒が届けられた。 小佐野真李からだった。 どうやらこの証拠を小佐野孝に見せ、離婚することにしたらしい。
この証拠を提出すれば裁判では間違いなく勝てるし、慰謝料は確実に請求できるだろう。
彼女は上手い生き方ができる女だ。 きっとほかにいい男が見つかるだろう。
そんなことを考えながら俺は今日もカウンターの向こう側に立ち、昼は探偵として、夜はマスターとして、扉のベルがなるのを待っている。 終わり。