Mが帰ってきた。昨日のMは、私が空港へ送ったMじゃないみたいな感じがした。だけどまさに、2ヵ月の間メールをやりとりしたMではあったみたいだった。スカイプで話すよりもずっとずっと、in person のMの方が好きだった。私は仕事が夜の8時くらいまでかかる予定だったので、Mにはそう伝えてあったけれど、いろいろとシフトが変わって私は結局夜6時くらいには家に戻って、ちょっと着替えたり、ゆっくりしていた。でも7時ころにふと外を見たら、もうMの車がとまっていたので、外へ出た。Mは車から降りてきて、再会のために私の体をぎゅっと抱きしめたけれど、そうそう、この人はとても、背が高かったなぁ、と思いだした。
その日は思っていたよりも話すことがたくさんあった。というか、思っていたよりも、Mはたくさん話しをしていた。でもMは、せっかく戻ってきたオーストラリアの天気の悪さにとてもがっかりしていて私はそれならノースへ行くのがいいんじゃないか、なんていう提案をした。私は今、Mの年齢を知っていて、彼も今、私の年齢を知っていて、それは彼にひつこくひつこく、どうして教えてくれないのか、って聞かれた結果なんだけれど、それで私はMが私の10こ下だと知った。
Mにノースへ移動して欲しくなかったけれど、だからと言って、Mがここに残って不幸せなら、ノースへ行くのがいいでしょうし、10こ離れたMとなにかを始めるような気持ちは、ない、と思うにして、ノースをすすめた。Mは、それもいい考えだ、っていうようなこと言ったり、でも移動するのはどうかなって、ここで仕事をするつもりで帰ってきたのに、僕のアイデアは、ここに戻ってきて、君にもう一度会って、というような話しを、何度か繰り返した。
それから突然、きょろきょろとして、夜、海はどこだ、って言うので、すぐそこだよっ、行こうか?って言ったら、行こう行こうってなって海へ出た。そうしたら途中警察に車をとめられて、Mが財布ごと免許をなくしていたことを知っていた私はあわてた。でもMはじっと車のシートに座って、警察が来るのを待って、警察が彼に、どうしてあそこの曲がり角で長いこと車を止めてたの?って聞くと、「それが、海へ行きたかったんだけど、道がわからなくて、GPSを見てたんです。」とか言って、頭をかいて、次に、「免許は持ってる?」と聞かれて、「それが、僕、今日旅行に出ていて旅行先で財布をなくしちゃって、免許はそこに入っていて、どうしたらいいですか?」と、質問を返していて、私はちょっと、すごい、と思った。なんて、普通にとても、正直なのかと。
すると警察の人が、「じゃあなにか他のIDはある?」と聞いてきて、彼はパスポートをみせて、そうしたら警察の人が「海へ出るにはね、ここをまっすぐ行って、右へまがって、左へ行って。」と、説明してくれて、私はあれれ?と思ってそんなやりとりを見ていたら、Mが、「僕はどうしたらいいですかね?運転していいですか?」と聞いているので、私ははらはらして、このままやりすごせばいいのになんて素直なんだろうかと、ちょっと感激もして、すると警察の人は、「そうだね、運転しない方がいいね、そっちの彼女は免許を持っている?」と言うので、私が、「はい。」と言うと、じゃあ彼女が運転するのがいいね、なんて言って、警察の人は、去って行った。
「オーストラリアの警察はいいよね。優しい、good people だよね。」とMは静かに何度か言って、私はどうしてやっぱり、Good person は good people を引き寄せるんだな、って、納得して、そんなことを、言った気がする。でもMはよくわかっていないみたいで、運転を私に変わって、海への道を、説明してくれた。
海でたくさんの話しをしながら、タイやスリランカのマッサージの話しになって、Mは私の手とか、足を、マッサージしてくれたんだけれど、すごくすごくすごく上手で、とても丁寧にマッサージしてくれたので、私の体はすっかり軽くなった。彼の手と、私の手や足が重なるを見ていたら、私は自分の手足をとても小さく感じた。本当に普通に、私の手足はとても、小さいんだけれど。
不思議な気がした。
特別などきどきや期待はなくて、ただ、とても普通のことみたいに、ずっとマッサージしてくれた。だけどさすがに、Mが私のピアスに触れるのに、耳に触れてきたときは、ものすごくどきどきして、心臓はとまった。彼はとても concsious に、自分の魅力を、知っている気がした。僕の髪と髭がこうやってぼさぼさにはえているのを、女の子たちは好きだ、と言ったのは、私は好きじゃなかった。彼が私の過去の恋愛を聞くので、カナダで恋人がいたこと、その彼とは、日本の彼と出会ってしまって、別れたことを、少しだけ話すと、遠距離で離れていると、みんなだめになるよね、僕はそれは好きじゃないなって、言った。誰かを愛していたら、他の人は、愛さないでしょ、とも言った。
そう思う。誰かを愛するその愛が本物だったら、本当にきっと、そうだね。心は閉じて、その人だけに、向かうね。まっすぐに。曲がることも、できずに。
彼は、私とフラットに住みたいなぁっていう話をした。私はOKだと言った。OKなんだろうか。間違うことより、flowしてみたいと、思った結果の、OK、だったけれど、彼は、もっとちゃんと言ってと言った。私もフラットに一緒に住みたい、か、私は住みたくない、とか…それで私がしばらくなんて言おうか考えいると、ちぇー、まぁいいよいいよ、みたいな態度になったので、私は、そうじゃなくて、私も、フラットに一緒に住んでみたいような気がするよ、と、言った。
でもMの顔は嬉しそうでもなく、ちょっと、なんていうんだろうな、少しの目をひらいて、本当?、みたいな、静かな感じで、それから私は車を走らせて、私の家に戻ると、おやすみと言って、車を降りた。
それがほんとうのflowなら、flowしてみたいと思う。
わからないんだけれど。
私がヨーロッパで勉強がしたい話しに、彼はときどき、人生を、毎日ただ楽しむのも忘れないでね、ここで働いても、いいんだし、というようなことも、何度か言った。けれど、火がつくみたいな恋の気配は、私にも、彼にも、ないような気がする。
火がついたらいいのにと、思う私がいる。
