あの晩、いくら問い詰めても埒があかなかった。
続く3日ほど、似たような状態が続いた。
***
「こう見えても、小学2年生の時、読書感想文で市の特選に選ばれたのよ」
これが妻の自慢話。
文学少女だったといっていた。
1996年秋から、彼女は小説を書き始めた。
少なくとも僕には「小説」と言っていた。
「懸賞小説でひとやま当てるから楽しみに待ってて」
そう言って、仕事帰り、家事がひと段落がつくと毎晩のように書き物をしていた。
家にはちょっとしたバーカウンター風の家具があり、各種の酒やグラスを飾ってある。
簡単なオーディオ装置があり、その一角に入り音楽を流すと子育てや家事の雑事から解放されるような雰囲気がある。
妻はそこに入り込み、梅酒を飲みながら、ナットキングコールなどのボーカルを聞きながら何か書いているのだった。
急に覗き込むと、隠す様にする。
「今のところ見られたら、私、死んじゃうわよ」
「へえー、案外、ハードな話し書いてるのかな(笑)」
「ねえ、あなた? あなたって生き物に喩えると何って言われてる?」
「別に、なにってことはないけど・・・強いて言えば、鳥類に喩えられることがあったよ。髪の毛がぼさぼさに立っているからかなあ・・・ウッドストックとか、ビッグバードとか・・・」
「ふ~ん、そうなの・・・もっと植物っぽい感じだと思ってた・・・」
そう言って、書き物を続けている。バカな僕は妻は本気で懸賞小説を書いているものと思っていた。