(Seizo Trendの記事より)

「原発回帰する」日本…なぜ世界は原発離れ?

世界では再エネ電源が圧倒的で原発はさえない状況だ。各種のデータに基づいて、日本と世界の原発事情をまとめる。

知っておきたい日本の原発の現状

 まず、日本の原発の現状を確認しておこう。

 廃炉を除いた全36基中、2024年1月時点で稼働している原発は西日本を中心に12基にすぎない(図1の青い部分)。設備容量はおよそ10GW、発電量は全体の1割以下である。

 政府がよく言うように、建設中の3基を含め今後炉が新設がされないと、60年間の延長運転があろうといずれ原発は消えることになる。第6次エネルギー基本計画で示した原発依存度の低減は実現に向かう。

 しかし、第7次計画ではこれを推進することを明らかにしている。

「拡大」、「主力」とはかけ離れた世界の原発の現実

 一方、世界の原発は、正直言って、“さえない”状況である(図2)。

 世界の再エネ電源による発電量は、すでに風力+太陽光発電(VRE=可変的再エネ)だけで、原発を上回りその差を急激に広げている。原発の割合が比較的高かった欧州でも、10年前の2013年に原発と再エネの発電量が逆転している。世界のエネルギー機関や研究機関が示す2050年時点での予測では、いずれも再エネ電源が圧倒的な多数である。
 

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図2:世界の「風力+太陽光発電」と「原発」の発電量の推移

(出典:energy institute statistical review of energy 2024)


 よく米国や中国などが原発を積極的に推進しているように言い立てられるが、米国では、スリーマイル島の原発事故以来30年以上新設がなく、昨年稼働した原発の建設コストは当初の2.5倍に膨らんだ。AP通信によると、米国では嵩(かさ)んだ費用を取り返すために、電力の供給家庭の料金に月額500円以上を上乗せすることが決まっているという。

 フランスで先日新設の原発が稼働したが、建設開始から17年間もかかった。コストは1kWhあたり20円近い数字が示されている。さらに10基以上の新設計画を発表したフランスに加え、イギリスも2桁の計画を出しているが、コストも含め実現はかなり疑問である。

 中国は、米国、フランスに次ぐ原発大国(稼働55基)で、昨年は2基の新設が行われたが、圧倒的に比重を再エネに置いている。2023年の発電実績では、原発が全発電量の5%弱に対して再エネによる発電量が原発の6倍以上の3割越えであり、今年の導入量でも決定的な差がついている(図3)。中国では原発はワンオブゼム、その他の電源の1つである。

 昨年200GWを上回る驚異の導入量を果たした太陽光発電は、図のように今年さらにペースを上げている。ちなみに日本の昨年の導入は5GW程度にすぎない。
 

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図3:中国の今年1月から5月までの追加電源

(出典:中国国家エネルギー局)


 では、なぜ世界では原発離れが進むようになったのだろうか。

コスト、安全性、柔軟性における“三重苦”

 原発離れが進んだ理由として、何といっても「高い」、というのが1番にある。

 図4は、各電源の1kWhあたりのコストを示している。いわゆる均等化発電原価(LCOE)で、建設から維持管理なども含め、2024年内に新設した場合の数値をまとめている。

 1番右の灰色の棒グラフが原発のコスト、左側の6本のグラフが太陽光発電関連で、黄色がパネルのみ、オレンジ色が蓄電池併設である。
 

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図4:電源別の1kWhあたりのコスト(単位:ユーロセント)

(出典:Fraunhofer ISE)

 

  • 太陽光発電(全体):4.1~14.4ユーロ/kWh(6.4~22.5円)*1ユーロ=156円換算
  • 原子力発電:13.6~49.0ユーロ/kWh(21.2~76.4円)


 ちなみに、太陽光発電(蓄電池併設、オレンジ色)の価格幅は、特に蓄電池の値段の違いで起きている。原発でも大きな価格の範囲があるが、運転期間と投資コストが大きく作用している。投資コストは、建設期間にも大きく影響を受ける。

 太陽光発電と原発、両者の価格差は歴然としている。

 最近費用が上昇しているという、蓄電池併設の小規模の屋根置き太陽光発電(左から2番目)でも、十分競争力がある。

 データをまとめたFraunhofer ISEは、今後、世界の電力が再エネ電源中心に移ると、柔軟性に欠ける原発のコストはさらに上昇し、化石燃料による発電コストをも大きく上回ると予測している。

安全性確保における日本と他国の決定的な差

 続いて、安全性の問題である。これに関しては、世界と日本の間には立場の違いが存在する。福島事故を招いた日本は、安全神話を自ら破壊して各国での原発拒否の機運を高め、世界の原発のコストを大きく押し上げることになった。そして、地震大国の日本は、大きな事故リスクから逃れることは不可能に近い。これは他国との決定的な差である。

 ドイツの脱原発は、長年の市民運動と1986年のチェルノブイリ原発事故(当時の呼称)によって培われたが、決定的となったのは福島の事故である。

 それまで東京電力などが、安全対策として強調していた「5重の壁」があえなく崩壊したことは、ドイツの脱原発を最終的に後押しした。日本の一部で、脱原発の完遂を揶揄(やゆ)する言説も見られるが、多くのドイツ人にしてみれば、脱原発を結果としてサポートすることになった日本が、原発にこだわっていることの方がよっぽど不可思議に映る。

いまだに解決されていない、核廃棄物の最終処分場問題

 そして、いまだにほぼ解決されていない、核廃棄物の最終処分場も大きな意味での安全性の問題である。

 最終処分場は、現状フィンランドのオンカロ処分場しか存在せず、この9月に試運転が始まったばかりだ。しかし、操業許可申請の手続きが延期されたこともあり、年内の正式な稼働は無くなった。

 他国も見ても、米国のユッカマウンテンの計画がとん挫し、ドイツのゴアレーベンでの計画が白紙に戻っている。日本では文献調査がごく一部で行われているにすぎない。

脱炭素時代にそぐわない、使い勝手の悪さ

 世界が脱炭素の実現に向かい、そのツールとして再エネが主体であることに反対する国は今ほとんどない。欧米各国政府や日本政府(表向きは)も同様である。世界のエネルギー環境は、明らかに化石燃料から再エネにシフトしている。

 エネルギー源で起きているシフトは、そのプロセスやエネルギーの利用システムにも大きく影響している。

 今や再エネが変動することを前提として、どのように再エネを多く無駄なく活用できるかが競われていると言って良い。それを「柔軟性」と呼ぶ。かつてあったベースロード電源という考え方はすでに死語となった。

 分かりやすいのが、蓄電池の柔軟性としての利用である。

 図5は、米国・カリフォルニア州の8月全体の電源構成を24時間で示したものだ。

 最も特徴的なのは、真ん中に位置する黄色の太陽光発電である。蓄電池は、まず右側の最も上の部分(午後5時以降)で濃い目の青紫で示されている。一方、真夜中のごく一部と朝7時から午後2時くらいまでにゼロ以下の蓄電池の飛び出し(充電)が見える。黄色い太陽光発電のエリアの中を通る黒い点線は「電力需要」で、線より上の余剰分をここでため、そのあと先ほどの夕方以降に利用している。

 カリフォルニア州にはすでに10GW以上の蓄電池が設置され、毎日再エネの余剰分の充放電に使われている。ちなみに原発は灰色で示され、ゼロのすぐ上に薄く張り付いて見える。この程度であれば、原発は邪魔にもならない。
 

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図5:カリフォルニア州の電源構成(2024年8月トータル)

(出典:Engaging-Data)


 原発は、発電の増減の操作が簡単ではなく、需要とのバランスで余剰が生まれる。かつて日本で、夜余った原発の電力を揚水発電(ポンプで水を揚げてためておき、後から発電する)に回したり、夜用の電気料金を安く設定していたりしたのは、原発にいわゆる柔軟性がないからである。

 また、13カ月に1回の点検や何か事故が起きた際(福島での地震はその究極の例)のバックアップのために、大量の火力発電所を設置したことは同様の使い勝手の悪さを示している。細かい話になるが、世界のトップ企業が参加する「RE100」(2030年までに使用電力を100%脱炭素化する企業の集まり)では、原発は脱炭素電源とは認められていない。

 残念ながら、原発は脱炭素化時代のメインの潮流から乗り遅れてきている。

 

 

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