(共同通信ヘッドラインニュースより)

SNS投稿の岡口判事罷免 弁護団「結論ありき」

交流サイト(SNS)への投稿で殺人事件の遺族を中傷したなどとして訴追された仙台高裁の岡口基一判事(58)=職務停止中=の弾劾裁判で、裁判官弾劾裁判所(裁判長・船田元衆院議員)は3日、岡口氏を罷免する判決を言い渡した。SNS投稿などの表現行為を理由とした判断は初めて。

弁護団
「一番肝心なところについて完全な作文、駄文。信じられない判決」
「結論ありき。政治家の皆さんが、どちらを向いてこの判断をしたのか。権力のこわさを改めて感じた」

 

(東京新聞社説より)

<社説>岡口判事を罷免 制裁が苛烈に過ぎる

 

 交流サイト(SNS)への不適切な投稿で訴追された仙台高裁の岡口基一判事を裁判官弾劾裁判所は「罷免」と断じた。だが、本当に罷免に値する非行なのか。岡口氏の人格を裁いていなかったか。表現の自由や裁判官の身分保障の点からも疑問が大きい。

 岡口氏は既に今月半ばに退官することを表明していた。つまり、今回の判断は裁判官の身分を奪うだけでは足りず、法曹資格をも奪う意味を持つ。退職金も出ない。苛烈な制裁を国会議員が科したことに強い危惧と警戒感を持つ。

 女子高校生の殺害事件などで、13件の不適切な投稿があったとして訴追された。だが、表現行為と相手の不利益を考えれば、岡口氏は既に相応の制裁を受けている。

 最高裁から2度の戒告を受けたし、殺人事件の遺族が起こした民事裁判では東京地裁が名誉毀損(きそん)を認めた。本人も謝罪し、裁判官の職も辞す。これ以上の制裁は行き過ぎではないか。

 遺族らの苦しい気持ちは十分に理解するし、SNSでの不適切な発信に厳しい風潮もある。今回の判決でも繰り返し「(岡口氏が)傷つけるつもりはなかったとしても、結果として感情を傷つけた」と述べるなど、遺族らの心情に重きを置く結果となった。

 過去7件の罷免事案は買春などの犯罪や職務上の重大な不正の場合に限られた。それらに該当しないのに、政治家が裁判官に苛烈な懲罰を加えるのは疑問だ。

 表現行為で罷免された初のケースでもある。法学者からも「裁判官としての威信を著しく失うべき非行には該当しない」との趣旨の論文が多数、発表されてもいた。

 これでは憲法が裁判官に与える強固な身分保障も軽くなりかねない。大衆迎合的な乱用の恐れも出てくる。

 岡口氏は専門書を多数執筆し、積極的にSNSに投稿する、異彩を放つ裁判官だった。さまざまな社会問題を取り上げ、啓蒙(けいもう)的な投稿が目立った。社会の少数派に寄り添う市民派でもあった。

 今回の判決で、殻に閉じこもりがちな裁判官がさらに社会と隔絶した存在にならないか心配だ。

 差別発言さえ不問に付す政治の世界の人々が、一裁判官の表現の過ちを容赦なく叩(たた)き、法曹の資格まで奪う。裁判官がより政治の力に萎縮し、及び腰になっては三権分立さえも危うくなる。

 

(CALL4)

司法の独立を脅かす岡口裁判官の罷免訴追に反対します!弾劾裁判の弁護団にご支援を

 

岡口裁判官ってどんな人?

 岡口裁判官は、弾劾裁判所により職務を停止されるまでは、仙台高等裁判所の判事でした。勤続27年のベテラン裁判官です。

 脳脊髄液減少病という、医学的に証明するのが難しい病気を初めて日本で認めたり、新潟水俣病訴訟で原告の全員を水俣病と認めて救済したりするなど、複雑困難な事件に正面から取り組む裁判官です。

 法曹界では誰もが知る「要件事実マニュアル」シリーズというベストセラーの著者でもあり、またフェイスブックやツイッターで実名で投稿をしたりラジオ番組に出演するなど、積極的に情報・意見を発信する「物言う裁判官」でもあります。

 

何があったの?

 2021年6月16日、岡口裁判官は、裁判官弾劾裁判所に罷免訴追されました。弾劾裁判所とは、通常の裁判とは異なって、検察ではなく国会議員から構成される裁判官訴追委員会というところが訴追をし、通常の裁判官ではなく国会議員が裁判長や裁判官を務める機関のことで、訴追された裁判官を罷免すべきか否かを判断します。

 訴追状によれば、罷免訴追すべき理由としてあげられた岡口氏の行為は全部で13個ありますが、大きく二つに分けられます。一つは、女子高生が殺害されたある事件についての表現行為です。もう一つは、元の飼い主と拾い主との間で犬の所有権を争う民事訴訟についての表現行為です。

 殺害事件については、その判決を閲覧できる裁判所のウェブサイトのURLを引用し、「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男」に「無惨にも殺されてしまった17歳の女性」と投稿した行為や、その遺族の行動に「洗脳」などの言葉を用いて疑問を呈する投稿した行為などが問題視されました。民事訴訟については「え?あなた?この犬を捨てたんでしょ? 3か月も放置しておきながら・・」と投稿した行為などが問題視されました。

 これらの発言に問題がないわけではありません。当事者の方々からすれば許し難い発言かもしれません。しかし、これらの発言を理由に弾劾裁判をすることには、以下のように多くの問題があります。

 

何が問題なの?

①罷免は裁判官に対する究極の処罰

 弾劾裁判によって罷免された場合、法曹資格は奪われ、裁判官はおろか弁護士としても活動できなくなります。退職金も支払われません。とても重い処分です。過去に罷免とされたのは、児童売春、ストーカー、下着の盗撮などの犯罪行為をした場合がほとんどです。

 これに対し、今回の岡口裁判官の行為は、刑事犯罪になるものではありません。万引きで死刑にならないように、一度の遅刻でクビにならないように、処罰には釣り合いが必要です。犯罪にならない行為で罷免処分は釣り合いが取れていません。

②司法の独立に対する脅威

 先に述べたように、弾劾裁判は国会議員によりなされます。立法府の司法への介入を認める制度であって、司法権の独立に対する限られた例外です。国会が簡単に裁判官を罷免できてしまえば、裁判官は国会議員の顔色を見ながら仕事をすることになります。国会が作った法律が人々の権利を侵害するものであっても、裁判官はそれに異を唱えることが難しくなります。

 弾劾裁判が孕む立法と司法の緊張関係を踏まえて、これまでは、最高裁の訴追請求がなければ弾劾裁判は行われませんでした。いわば司法も訴追が相当と認めた場合に限り国会が罷免をしていたのです。しかし今回、最高裁判所の訴追はありません。

    もちろん、本当は訴追が当然なのに、最高裁判所が身内の裁判官を庇って訴追をしないようなことはあってはなりません。しかし今回はそうではありません。先述のとおり罷免という究極の処罰は行き過ぎなのです。最高裁はすでに、岡口裁判官のなした行為に対し、最高裁が釣り合いが取れていると考える処罰として二度の戒告処分を下しています。それにも関わらず国会主導で弾劾裁判を行うことは、司法権の独立に対する脅威となります。

③罷免訴追の理由そのものについても問題がある

 裁判官弾劾裁判法12条は、「罷免の訴追は、弾劾による罷免の事由があつた後3年を経過したときは、これをすることができない。」と規定しています。しかし今回罷免訴追の理由とされた岡口裁判官の行為の中には、3年以上前のものもあり、これらについては除斥期間がすでに経過しています。

 また、表現行為を切り取って訴追事由としたり、およそ不適切な表現行為と言えないものまでも罷免事由に含めたりするなど、他にも罷免訴追の理由自体にも様々な問題があります。

 

(弁護士ドットコムニュースより)

弁護士の緊急アンケート、78%が、「関口判事罷免判決、妥当ではない」と回答

 

 

 

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