(文春オンラインより)

「人質たちは戦闘員もろともイスラエルの治安部隊に殺された」と生還者が証言……10月7日、ハマス主導の奇襲攻撃で本当は何か起きたのか

 

 2023年10月7日、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への攻撃激化のきっかけになった、ハマス主導の越境奇襲攻撃が起きた。これについてその後、日本で目にする報道や、イスラエル軍、あるいはイスラエル政府が発表している内容と、食い違うような証言が出てきていることを知っているだろうか。

『ガザとは何か~パレスチナを知るための緊急講義』(大和書房)より一部を抜粋

10月7日の攻撃が意味するもの

 10月7日、ハマース主導によるガザのパレスチナ人戦士たちは、彼らを16年以上も国際法に違反して閉じ込めていたガザを囲むフェンスを突き破って、あるいはパラグライダーで、あるいはモーターボートで、越境攻撃を行いました。それは、占領下に置かれた者たちの、占領者と占領軍に対する抵抗の反撃です。

 日本のメディアではほとんど報道されていませんが、まず、彼らはガザの周辺にある12のイスラエルの軍事基地(編注:編注:以下参照 Ilan Pappe, "My Israeli Friends: This is Why I Support Palestinians – ILAN PAPPE」")を占拠しました。そこにいたイスラエル兵を捕虜にして、その後、イスラエル軍との交戦になり、基地にいた戦闘員たちは全員殺されたのだと思います。このことにはほとんど触れられず、キブツと野外音楽祭が襲撃され、そこで民間人が殺されたことばかりが強調されて、報道されているように思います。

 占領下にある者たちが、占領からの解放のために、占領軍に対して武力を用いて抵抗することは、国際法上、正当な抵抗権の行使です。しかし、この時には守るべきルールがあります。民間人に対する攻撃や、民間人を人質に取ることは、国際人道法違反であり、戦争犯罪です。占領からの解放を目指す武装抵抗が正当なものであるとしても、戦争犯罪にあたるこうした行為は許されるべきものではありません。国際法に則って、戦争犯罪としてきちんと裁かれるべきことです。だからといって、占領下のパレスチナ人が、イスラエルによる占領からの解放を求めて戦うということ、それ自体が違法化されるわけではありません。

明らかになってきた事実

 アメリカのユダヤ系ジャーナリストが立ち上げた、「モンドワイス(Mondoweiss)」というパレスチナに関する情報サイトで、今日(2023年10月23日)、こんな記事がトップニュースになっていました。今回のイスラエル側の死者は、一体どういう人たちが、誰によって、どのように殺されたのかを分析した記事です。

 

「10月7日の攻撃でのイスラエルの民間人・軍人の死について、イスラエル軍に責任があるとする報告が増加」と題されたその記事によると、イスラエルは「ハマースが民間人を殺害した」と言っていたが、そうではないとする情報がどんどん出てきていると言います。

詳しいことはこの記事をお読みいただきたいのですが、簡単に言えば「ハマースが占拠したイスラエルの基地に対して、イスラエル軍の司令官自身が空爆を指示した。まだパレスチナの戦闘員が占拠してイスラエル兵を捕虜にとっている、あるいは交戦中の基地にイスラエル軍、治安部隊がやってきて、イスラエル軍が爆撃した可能性がある」ということです。

 つまりイスラエル軍は軍事基地のパレスチナ人戦士を殲滅するために空爆し、自国兵士であるイスラエル兵もろとも殺害したという可能性があるということです。数日前には、イスラエルの国営ラジオ放送のインタビューで、キブツで一旦は人質になりながら解放されたユダヤ人女性の証言が放送されました。自分たちを人質にとったパレスチナの戦闘員たちは人道的に扱ってくれたと彼女は語っています。頻繁に水もくれて、室内は暑いからと外に涼みにも出してくれたと。

 彼女とともに人質になっていた者たちは一人を除いてみんな殺されたのですが、殺したのは到着したイスラエルの治安部隊だったと彼女は証言しています。外で涼んでいたイスラエル人の人質たちはパレスチナ人戦闘員たちもろとも殺されたと。彼女は、一人のパレスチナ人の戦士が投降すると決めて、彼女を人間の盾にしたことで家を出ることができました。しかし、イスラエルの治安部隊は中にまだ人質が残っているその家を砲撃して、こっぱ微塵にしました。

 パレスチナ側の攻撃で殺された民間人がいなかったわけではありません(AP通信のファクトチェックでは、3件の民間人殺害が確認されています)。しかし、それは、イスラエル軍、あるいはイスラエル政府が発表しているような内容とは、だいぶ違うのではないかという情報が出てきています(筆者注)。

 今回の奇襲攻撃におけるいくつかの行動が国際人道法違反で戦争犯罪を構成するものであることは確かです。ここでご紹介したいのは、ガッサーン・カナファーニーという作家の言葉です。彼は1936年、パレスチナのアッカーに生まれ、12歳の時にイスラエル建国によって難民となり、のちにジャーナリスト・作家となって、1972年、36歳でイスラエルの諜報機関に爆殺、暗殺されました。

 カナファーニーは、遺作となった『ハイファに戻って』という中編小説の中でこのように書いています。

 きみたちはいつになったら、他者の弱さや過ちを、自らの特権を裏書きするものと見なすことをやめるのだろうか。(……)私たちがずっと過ちを犯し続けるとでもきみは思うのか? ある日、私たちが過ちを犯すのをやめたら、きみたちに何が残るのだ?(著者訳『季刊 前夜』12号)

 イスラエル側は、パレスチナ人が犯した過ち、それだけを口実にして、自分たちの犯罪行為をずっと正当化してきました。

 たしかに私たちは過ちを犯した。それは認めよう。では、私たちが過ちを正したなら、あなたたちにはいったい何が残るのか――カナファーニーはイスラエルにそう問うています。まるで、今日の事態を預言していたかのような言葉です。

 

筆者注 現段階(2024年2月11日)までに、10月7日の「ハマスによる残忍な行為」としてイスラエル政府が世界に喧伝したこと(赤ん坊の斬首、焼き殺したこと、音楽祭での大量レイプ……)は、ZAKAという遺体回収ボランティア団体のメンバーが広めた偽証であることを、パレスチナのジャーナリストたちは伝えていましたが、イスラエルのハアレツ紙もそれを報じました。

 

(ロイターの記事より)

ガザで人質新たに7人死亡、イスラエルの砲撃で=ハマス軍事部門

 

 

イスラム組織ハマスの軍事部門アルカッサム旅団は1日、イスラエル軍の砲撃によって、パレスチナ自治区ガザで拘束されていた人質7人が死亡したと発表した。

死亡の時期は明らかになっていない。

イスラエル軍の軍事作戦によって、これまでに人質70人以上が死亡したとも明らかにした。

 

 

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