※『(メモ書き)に関する注意』も必ず参照してください。ハーブティーはともかくとして人体に関わる安易な利用には注意してください


[英名]Larch
[学名]Larix decidua
アルプス・チェコ・ポーランド・カルパチア原産
マツ科/落葉高木
高さ40mまで
[樹皮]:黄色を帯びる/若い木は平滑(後に灰色)/内皮は赤味を帯びる/非常に厚く亀裂がある
[葉]:長枝が針葉を単生/短枝は針葉を束生でつける/葉は柔らかく痛くない/淡緑色/秋に落葉する
[花期]:3~5月/雌雄同株
[雌花]:赤紫色/直立毬果/自家受粉しないように雄花より2週間早く咲く
[雄花]:赤味を帯びた黄色/卵形の尾状花序,垂れて咲く
[毬果]:小さい/卵形/最初は淡褐色で次第に灰色/種は10~11月に熟する/翼のついた淡褐色

【分布・育て方】
◆ほぼ全ヨーロッパ/イングランドへは1620年頃に移入された
◆標高2400mまでの山林/単生を好む/アルプスでは標高1000m以下の落葉松の林は植林によるもの
◆生長が早く(オークの6倍)生育条件は難しくない。

【民俗学的なこと】
◆[森の妖精伝説]:森の精/森の乙女(ゼーリゲ)と深く関連していた。いつも人間に好意的で人間が助けると何千倍にもしてお返ししてくれる/難産時に手助けする。これらは南チロルのものらしい〔※優しすぎるので近世の伝説のような気もするが〕
◆[屋敷の護り木]:落葉松は善良な家の精が宿るとされた(アルプス)
◆[豪胆の象徴]:他の木が育ちにくい高山でも堂々と伸びるから
◆[カラマツ引き]:フィス(チロル地方の山中)での古くからの行事。謝肉祭の日に行われ、様々な仮面を着けた村の男達が橇に乗せたカラマツを村中引き回す。豊穣祈願の意味があるという
◆[仮面]:アルプスの高山に閉ざされた村では、カラマツで様々な仮面を作って家に飾っている。仮面は悪魔であると同時に家に魔物が近寄らないように守ってくれる存在なのだという

【特徴と利用法】
◇簡単に葉を落とすので森林の土壌を肥沃にする
◇(他の針葉樹と違って)充分生育するのに光が必要なので落葉松林は明るい
◇堅牢な材が採れる:トウヒ材・松材・樅材よりも強靭で強い/イチイ以外の針葉樹では最も耐久性に富む)
◇松材よりも樹脂に富むので虫害・気象変動に強い
◇水腐れに抵抗力がある/火にくべても燃えにくい
◇針葉を5~6月に収穫/木に樹脂・精油・琥珀酸・苦味素・色素が含まれる
◆[落葉松樹脂]:植物系生薬で最も需要があり、5~10月に「木に孔を開けてそこから流れ出す樹脂液を集め精製」して“テレピン油”の名の下に売り出した
◇蜂蜜のようにどろっとした/黄色か褐色の液体/他の樹脂より香りが良い・風味もある/少々苦い
◇ヴェネツィアが積み替え地だったことから“ヴェネツィアのテレピン油”と呼ばれた
◇テレピン油(松精油):元々は地中海に生える「テレビンノキPistachia-terebinthus:ピスタチオの仲間」の樹液のこと
◆[屋根葺きに]:落葉松の丸太をこけらに割って使う(かつてアルプスではたいていが落葉松のこけらを使った)
◆[坑道の支柱][水利工事][給水管][ヴェネツィアの建築の基礎の杭][桶][たらい]:水腐れに強い
◆[搾乳桶]:アルプス
◆[家具][壁の張り板][ドア]:外壁への使用にはコンラート・フォン・メーゲンベルクが勧めていた
◆[お香]:良い香りは災厄から身を守ってくれる

【症状と薬効】
◇落葉松樹脂は医薬品として、血行促進/傷を癒やす/殺菌/喀痰の作用を持つ
◇体を温める/症状を和らげる効果がある
◇樹脂は腎臓を刺激するが過度の使用は×
[肺の病][利尿][便秘]:内服する
[インフルエンザ][風邪]:口の中で硬い樹脂を少量かみ砕いて服用する
[淋疾]:オオバコの汁/琥珀と併用する
[外傷]:膏薬に混ぜて塗ると膿が止まる/かさぶたがてきて治る
[咳][気管支炎][リウマチ][ぎっくり腰][神経痛]:外用する/胸部に塗れば喀痰を和らげる
[血行促進][風邪][膀胱炎][おりもの]:針葉を使った薬浴の効果
[堕胎薬]:針葉を煎じて使う
※『(メモ書き)に関する注意』も必ず参照してください。ハーブティーはともかくとして人体に関わる安易な利用には注意してください


[英名]Scots pine
[学名]Pinus sylvestris
マツ科
40m
[樹皮]:厚い/上部が赤味を帯びる
[針葉]:長さ5~8cm/1つの葉鞘に対になってつく
[花期]:5月
[花]:雌雄同株
(雌花)赤/若枝の先に2~数個ずつ咲く/球状→(後に)毬果
(雄花)卵形/黄色を帯びる/細い若枝にかたまってつく
[果実]:へら状/翼つき/約4cmの大きさの堅果/毬果の中にある

【分布・育て方】
◆ほぼ全ヨーロッパに分布/イギリスでは北部にしか見られない/アルプスでは標高1800mまで
◆ほとんどは砂質土壌の上に植林されたもの(元々の自生地はずっと限られている)/ドイツ語圏で拡大が始まったのは近世の終わり頃から
◆日向/水はけのよい/中性~アルカリ性の土地を好む(酸性でもよく育つ)
◆葉はカサアブラムシ・マツメガの青虫・ハバチの幼虫・癌腫病・枝枯れ病・ボトリチス菌・サビ病に侵されることがある,幹はナラタケに侵されて枯れることがある

【伝承など】
◆[古代ケルト]:女神ドルアンティアをモミの女神・マツの女神として選んだ/冬至の木として新しい太陽に捧げた/聖マルティンによって切り倒された
◇民間伝承では針葉樹をあまりキチンと区別しないので、モミ・トウヒ・マツに関する風習は重なることが多い
◆[重要な木として]:ゲルマンはマツのルーン文字を持っていた/古アイルランドの樹木アルファベットにもマツ・モミがあった
◆[北イタリアの地名に残る]:ガリア・キサルピナ(アルプス山脈とアペニン山脈との間のガリア地域)のケルトは、ポー川(マツの川)・パドゥア(マツの都市)と名付けた

【花言葉】
 『哀れみ』『大胆と誠実』

【民俗学的なこと】
◆[火花を作る]:雄花が放出する大量の黄色い花粉を、シャーマンの集会・ドルイドの儀式において残り火の中に投げ込んで、ドラマチックな炎を噴き出した・火花を雨あられと降らせた
◆[天候予測]:屋内に吊した松かさが閉じるのは冷雨/開くのは暑い乾いた天候の予兆(イギリス)
◆[枝の主日](復活祭1週間前):北欧では教区ごとに(棕櫚の代わりとして)モミやアカマツが教会で用いられる
◆[あらゆる祝祭]:松明を灯して行進する・振り回すといった行為は当たり前のように行われる

【特徴と利用法】
◇苦い/芳香性
◇葉・若芽(と芽)・タール・オイルを利用
◇葉・若芽は生長期に摘み取る/(普通)生を煎じ薬・シロップにする
◇根からタール(不純物を含むテレピン油,色は黒褐色)を蒸留する
◇タールを蒸留した後に残る黒いかすがピッチ/黒い樹脂でほとんど流動性がない/樽や船の防水に用いる
◇テレピン油(松精油):元々は地中海に生える「テレビンノキPistachia-terebinthus:ピスタチオの仲間」の樹液のこと
◇松脂(樹脂)からテレピン油(turpentine)へ:
1.樹皮を一部剥ぐ
2.杉綾模様に溝を刻んで刻み目が幹の根元で合流するようにする
3.流れ出た樹脂が桶に溜まる
4.これを精製するとテレピンが作れる
5.テレピンを蒸留してテレピン油が作れる
◇[利用の順番]:松脂利用で枯死した木を燃料材として伐り倒す。木の中の松脂含量を増やすために、倒す1年前から樹皮を少しずつ剥ぎ取る
◇[樹脂]:中世後期には商業流通していた/ユダヤ人商人マルドッヘ・ヨゼフはマルセイユ付近にヨーロッパアカマツ・モミの森林を所有し日雇い人に樹脂を採取させていた(1374年)
◇[中世の貿易]:タール・ピッチは中世ノルウェーの輸出品目の1つ/イングランドが輸入していた
◆[木こりの滑り止め]:松脂を手に擦り込んで斧が滑り落ちないようにした
◆[ミイラ]:エジプト人は竈で作ったテレピン油を用いた
◆[ラックニス][油性塗料]:松脂で作る
◆[ビール樽][造船][ボート][屋根]:漏れ防ぎにピッチを塗る/しかし葡萄酒樽ではピッチ(木タール)の樹脂の味が嫌われた(そこで樽の内側にはピッチを塗らなくなっていく:カロリング期以降)
◆[豚の屠殺]:屠殺したての豚の毛を抜くのに屠殺業者はタールを使った
◆[皮なめし]:革を膨らまるのに皮なめし工はタールを使った
◆[漁業用具][車輪の潤滑油]:タールを利用する
◆[黒い色素]:燃焼過程で得られる副生成物である煤から作る
◆[松の油煙](ユエン):松が不完全燃焼して発生する微細な炭素粉。インクなどの原料になる
◆[松明]:“炎の木”“松明の木”と呼ばれた/たっぷり含まれる樹脂のおかげで長時間明るく燃える/騎士から農民まで家の中を照らしていた
◆[燃料材]:松かさを使った
◆[殺菌剤][洗浄剤][育毛剤]:タール/オイルから
◆[家畜の薬]:中世ではタールが使われていた/荘園での購入記録が残っている
◆[浴剤]:若枝を使って全身浴をする/風邪・咳・インフルエンザ・高ぶった神経の鎮静に有効/鍋で枝を煮て漉したものを浴槽に加える/オイル・タールも使える
◆[吸入剤]:同様に若枝を鍋で煮て(火から下ろした後に)上で深呼吸する
◆[帆船の帆柱]:最適とされた
◆[建材]:強い・木目が真っ直ぐで最適
◆[窓枠][扉][敷居][家具]:柔軟/軽い/湿気・天候変動に相対的に強いことから、これらに適している
◆[松葉綿]:布張り家具・クッション・マットレスに詰める/貧しい人向け
<作り方>
1.松葉を枝から摘み取ってぬるま湯に漬ける
2.液が発酵するまで置く
3.発酵して硬い外皮がはじけて内部の柔らかい繊維が露出する
4.外側の殻を完全に取り除く
5.できた“松葉綿”を太陽のもとで乾かす

【症状と薬効】
◇加温性ハーブ,利尿/去痰/末梢血流改善/神経系の強壮作用,強い殺菌効果
◇モミ・トウヒ・マツの蒸散物質は気管支を蘇生する・たまった痰を切るとして、肺疾患の治療薬に定評あり(浴剤・吸入剤・ハーブティーを併用する)
◆皮膚アレルギーのある患者に外用しない
[尿路の感染症][呼吸器系の感染症][胆嚢機能不全]:内服する
[咳止め茶]:松の若枝,フキタンポポの花・葉,ジャコウソウから作る
[関節炎][リウマチ][座骨神経痛][循環器機能不全][気管支炎][カタル][副鼻腔炎][喘息][肺炎][神経痛][ニキビ][疲労][精神消耗]:外用薬として有効
[松軟膏]:テレピン油/オリーブ油/ローズマリー精油/蜂蜜から作る
[アロマセラピ]:上記症状にオイルを使う
※『(メモ書き)に関する注意』も必ず参照してください。ハーブティーはともかくとして人体に関わる安易な利用には注意してください


◎ウラジロハコヤナギ

[英名]White-poplar
[学名]Populus alba
ヤナギ科
落葉性高木,耐寒性
[樹皮]:灰色/滑らか
[葉]:表は黒っぽい/裏が白い

【分布】
◆他のポプラの種より乾燥に強い

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◎セイヨウハコヤナギ
(ヨーロッパクロヤマナラシ)

[英名]Black-poplar
[学名]Populus nigra
ヤナギ科
落葉性高木,耐寒性
35m
[樹冠]:大きく張って形成する
[樹皮]:灰黒色/裂あり
[葉]:互生/卵形/葉柄あり/縁か波打つ/先端は尖る/鋸歯あり
[花期]:3~4月開花
[花]:雌雄異株
〔雌花〕ほっそりした黄色/尾状花序
〔雄花〕赤い柱頭を有する/太い・垂れ下がった尾状花序
[果実]:朔果/緑褐色/長い翼毛あり/小さな種

【分布】
◆北部地域を除く全ヨーロッパ,渓谷にて生息する

――――――――――

◎ヨーロッパヤマナラシ

[英名]Aspen
[学名]Populus tremula
ヤナギ科
落葉性高木,耐寒性
30m
[樹皮]:金灰色,平滑
[葉]:互生/菱形/先端が尖る/縁が荒い歯牙状/偏平な葉柄
[花]:雌雄異株
〔雌花〕ほっそりした黄色/尾状花序
〔雄花〕赤い柱頭を有する/太い・垂れ下がった尾状花序
[果実]:朔果/黄色を帯びる

【分布】
◆全ヨーロッパに分布
◆皆伐地/低地林/標高1000mまでに生育する
◆日照以外は特別の生育条件は必要ない

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【伝承など】
◆[古代ローマ]:ラテン語Populus(人民)の由来はローマ市民がこの木陰で集会を開いたから/家々の前庭に植えられた
◆[ギリシア神話]:ヘラクレスは巨人カクスを倒した後、ウラジロハコヤナギの葉の冠を着けて下界に旅に出た
◇「葉の表が黒っぽいのは下界の業火で黒く焦げたから」「裏が白っぽいのはヘラクレスの光(or汗)を受けたから」とされた
◇無事に帰還したことから“死後の生の約束”の象徴ともされた
◆[キリスト教]:森を通りかかったキリストに礼を尽くさなかった唯一の木として、ヨーロッパヤマナラシは常時震えている罰を課せられたという

【花言葉】
 『嘆き』『過敏』

【民俗学的なこと】
◆[魔女の木][死者の木]:水辺に育つことから/若芽は魔女の軟膏に入っている
◆[女の舌の象徴]:ヨーロッパヤマナラシの絶えず葉が揺れるのを、女性のお喋り・気まぐれの喩えにした
◆[熱病に効く]:ヨーロッパヤマナラシは震えているから/真夜中に切った病人の爪をこの木の穴に入れて(病魔が外に出られないよう)穴を塞いだ(これは1例)
◆[5月祭]:ボダイジュ・オークなどと共に使われた

【特徴と利用法】
◇若芽:2~3月に収穫
◇樹皮(主にウラジロハコヤナギから)
◇ドイツの有用材の中では最も生長が早い/(その反面)材は軽い・柔らかい・淡色/非常に割れやすい
◇水を好み(ハンノキ・シラカバ・ヤナギと同じ)遠くまで枝分かれした根の組織によって、小川の流れ・沼沢の縁・川などをしっかり固めるので、短時間なら氾濫にも耐えられる
◇生長によって地下水を吸うので、他の樹木に悪影響を及ぼす場合があるという
◆[ポラードによる利用]:木の幹を地上から2~3mのところで切ってしまって幹の成長を止める。木は翌年の春に、幹の切られた部位から何本かの若枝を出すので.それを数年後に利用する
◇この高さは、シカなどの野獣/牛・馬などの家畜が若芽を食べない高さだった
◇しかしこの高さに梯子を掛けて斧を振るうのは楽な仕事ではない
◆[入植植物]:荒野に植えられる
◆[投げ槍の木][矢]:材を使う/矢以外に用いる(例:木靴)ことをヘンリー5世の時代には禁じた
◆[木靴]:セイヨウハコヤナギの材を使う/軽くて抵抗力がある/最も安価/加工が簡単として
◆[ろくろ細工][床板]:セイヨウハコヤナギは火に強い
◆[木彫り師が使う]:ヨーロッパヤマナラシは材質が(特に)柔らかで軽いから
◆[皮なめし]:樹皮からなめし剤を作る
◆[染料]:樹皮から黄色を作る/麻を染色
◆[浮き袋]:セイヨウハコヤナギの樹皮は特に軽い/漁師が使った
◆[蝋]:1.春にセイヨウハコヤナギの落ちた雄花の尾状花序・新芽を集めて圧搾/2.出てきた水分を洗い流して搾る/3.緑の柔らかいワックス状の物質が得られる。これで作った蝋燭は心地よい匂いがする
◆[クッション・掛け布団の詰め物]:熟した種の綿毛を苦労して集めて作った
◆[家畜の餌]:葉を使う

【症状と薬効】
[リウマチ性関節炎][痛風][発熱][腰痛][尿器機能不全][消化管不全][肝臓機能不全][衰弱][拒食]:樹皮を内服する/若芽のハーブティーも有効
[霜焼け][内痔核][傷の化膿][捻挫]:外用薬として有効/軟膏を使う
[ポプラ軟膏]:〔古典的製法〕ポプラの若芽・ラード/〔代用〕若芽100g・オリーブ油(常温搾り)250ml・蜜蝋45g
1.芽を乳鉢で潰して瓶に詰めてオリーブ油を注ぐ
2.密閉してときどき混ぜながら暖かい所に保存する
3.鍋に入れて温める(2週間後に)が油は絶えずかき回して温めるものの沸騰させてはならない
4.約15分後に鍋を火から下ろして油を漉す
5.再び熱して蜜蝋をよく混ぜ入れる
6.軟膏壺に入れて冷暗所に保存
[包帯]:内皮を乾燥して押し潰して作る
※『(メモ書き)に関する注意』も必ず参照してください。ハーブティーはともかくとして人体に関わる安易な利用には注意してください


◎Ulmus campestris(Ulmus minor)

[和名]ヨーロッパニレ
落葉高木
30mまで
[樹皮]:初期は灰褐色/後に暗褐色/矩形に割れ目が入る
[葉]:互生/左右非対称/卵形/表面は平滑・暗緑色/脈腋は有毛/5~8cm
[花期]:3~4月
[花]:淡黄色(or)赤味を帯びる/両性花/短い柄つきの花芽/もつれた塊状
[果実]:6月/大型のターレル貨状の翼の中に平たい痩果

【分布】
◆ヨーロッパ中・南部,アルジェリアなどに分布
◆低地/川のほとり/海岸地帯/標高1300mの所にまで生育する,
◆オーク・セイヨウハシバミ・ポプラとともに川岸の混合林を形成

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◎Ulmus glabra(Ulmus montana)

[和名]セイヨウハルニレ/オウシュウハルニレ
高いものは30~40mほどになる
[葉]:楕円形/長さ9~12cm
[花期]:3~4月
[果実]:径2cmほどの円形

【分布】
◆ヨーロッパの中部・北部まで/ドイツでは最も多い
◆ニレの生育北限近くまで分布する強健な種
◆山の上でも小川・河川のそばに育つ

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◎Ulmus procera

[英名]English Elm
[和名]オウシュウニレ
35mにもなる(自由な立地にて)

【分布】
◆ヨーロッパ西部・南部に広がる/株元には多くのひこばえを出す

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◎Ulmus laevis

[和名]テリハニレ
Procera種以外の3種(ドイツ土着種)の中では最も小さい/地味
[花期]:ヨーロッパニレ・セイヨウハルニレよりも2週間早い

【分布】
◆ヨーロッパ中部に広く分布,3種の中で一番水辺を好む
◆河口・低地の水のほとりにびっしり生える/川が氾濫してもビクともしない

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【伝承など】
◆語源がインド=ヨーロッパ語族共通
◆[ギリシア神話]:
1.眠りの神モルフェウスの木として「木陰で眠る者は奇怪な夢・恐怖にうなされる」とした
2.冥界から妻エウリュディケを連れ戻せなかったオルフェウスが悲しみに暮れて弾いた竪琴の力で生まれた
3.葡萄との関連からバッカス(ディオニュソス)の聖木とされた
◆[古代ローマ人]:ニレと葡萄の木を夫婦扱いしていた(ニレが夫・葡萄の木が妻)/これは葡萄の保護にニレの柱を用いたことを示す/葡萄が(彼らによって)イギリスに持ち込まれるとともにオウシュウニレ(Procera)も移入された
◆[古代ゲルマン人]:人類最初の女性(Embla)はニレから作られたという/家畜の伝染病のお祓いに「ニレの木を摩擦して火(needfire)を起こす」神事を行った

【花言葉】
 『尊厳・高貴』

【民俗学的なこと】
◆[目印・目標]:ヨーロッパの平地にて
◆[教会の木]:田舎の教会の傍らには大きなニレの木があることがままあった/夏場には村人が木陰によく集まった
◆[結婚・良縁のシンボル]:ニレに葡萄な蔓を這わせる習慣(中世~)から/この取り合わせを縁物とみなした
◆[死と結びつく][棺の材][葬儀の木][墓場の境界壁に植える]:イギリスには東方から伝わった風習/ニレは「実を結ばない木」だから葬儀と結びつけられた
◆[裁判の木]:ドイツのリンデンバウムに相当する(南フランス)
◆[地名]:ロンドン郊外スミスフィールドとその周辺地域は、鬱蒼とエルム(春楡:ハルニレ)の木に覆われていたので“The Elms”と呼ばれていた

【特徴と利用法】
◇秋に樹皮を収穫/伐採された木からのみ(樹皮を剥ぐと枯れてしまうから)
◇芯が自然に朽ちる傾向があるのでやつれた古木が多い。強風に思わぬ大枝が吹き折られる/突然根こそぎ倒れることがある
◇材としての珍重され度合いは「オウシュウニレ(Procera)>セイヨウハルニレ(Glabra)>テリハニレ(Laevis)」
◇セイヨウハルニレは「オークに次ぐ大木」と見なされた
◆[ポラードによる利用]:木の幹を地上から2~3mのところで切ってしまって幹の成長を止める。木は翌年の春に、幹の切られた部位から何本かの若枝を出すので.それを数年後に利用する
◇この高さは、シカなどの野獣/牛・馬などの家畜が若芽を食べない高さだった
◇しかしこの高さに梯子を掛けて斧を振るうのは楽な仕事ではない
◇ニレにはコピスも使う
◆[送水管][船の竜骨][橋げた]:材は水中でも腐りにくいので(近代なら)鋳鉄が使われる場所にどんどん使われた,<例>古いロンドン橋,リアルト橋(1,000本のニレの支柱に支えられている)
◆[巻き上げ器][鐘架][荷車][手押し車][死棺][家具][ろくろ細工][車輪のこしき“hub”][農具]:その他の材の利用方法/鋤を作るには若木をわざと曲げて育てたものを使う
◆[弓]:セイヨウハルニレ(Glabra)は強くて弾力性があるから
◆[ロープ][蜜蜂の籠]:セイヨウハルニレの靱皮はリンデンバウムの靱皮よりも繊細/適応性が大きい
◆[獣医学]:湿疹に樹皮の粉末を振りかける/煎じ汁を洗浄に使う(いずれもオークの樹皮と等量で混ぜる),羊・山羊・馬の疝痛に樹皮を粉末にして投与する
◆[ガラス工場]:セイヨウハルニレ(Glabra)の灰は多くの炭酸カリウムを含む(トウヒの灰の8倍,ブナの灰の2倍半)ので“森の灰”として高く買われた

【症状と薬効】
◇薬用は(現在)北米先住民によるアカニレ(Ulmus rubra)がほとんど
◆ただしオウシュウニレ(Procera)は古代から治療に用いられた
[下痢]:ニレの樹皮2/オークの樹皮1/トルメンティルから作る混合茶で
[リウマチ]:膀胱・腎臓を刺激する作用によって
[胃の粘膜の保護]:粘性物質(内側の樹皮に含まれている)が役立つ
[潰瘍][傷][苔癬][発疹][性病]:樹皮の煎じ汁を用いる/葉の没食子から採った水も使う
[生傷]:葉を縛りつける
※『(メモ書き)に関する注意』も必ず参照してください。ハーブティーはともかくとして人体に関わる安易な利用には注意してください


[和名]月桂樹
[俗名]“スイートベイ”
[学名]Laurus-nobilis
クスノキ科/常緑灌木
南欧原産
暖かい気候ではピラミッド型に10m以上にも育つ
[樹皮]:滑らかでオリーブグリーン
[葉]:艶のあって厚い/よく茂る/広円形/ちぎると甘い香りが漂う
[花期]:晩春
[花]:黄色/葉腋に小さな花を付ける
[実]:10月/艶のある黒い実が熟して落ちる

【分布・育て方】
◆地中海全域
◆軽い土質/水はけのよい/半日陰の場所を好む
◆成長に時間がかかるので初夏に挿し木で増やすしかない
◆雪・霜の多い厳しい寒さには弱い/(寒い地方では)外では風・霜除けが必要
◆枝の伸びる勢いが強いので年に2・3回は枝を刈り込む/生育が旺盛なので肥料が必要
◆葉に香りがあるので虫が付きやすい

【伝承など】
◆[ギリシア神話]:アポロン(音楽・詩の神)に追い詰められた美しいニンフであるダフネの化身である。この事の罪滅ぼしとして、アポロンは神木を(オークから)ローレルにしたとされる。そしてアポロンに奉納された
◇アポロンの神殿は屋根を全部月桂樹の葉で造っていた、と言われる
◆[学名の由来と歴史]:「laurus:褒め称える(ラテン語)」であり、古代ギリシア・ローマでは(この葉で編んだ輪である)月桂冠を競技/戦闘の勝者・詩人の頭上に、勝利・栄誉の印に飾った。種名は「nobilis:高貴」
◆[桂冠詩人]:月桂冠を与えられた大詩人のこと/昔の大学では修辞学・詩学の専攻卒業者に月桂冠が与えられたことに由来する(16世紀~)/麻酔性が詩的霊感を与えることも意味に入っている/芸術家にとって最高の栄誉となる
◆[薬としての歴史]:ローマ時代にはローレルの葉(生薬名:月桂葉)・実(同:月桂実)は万能薬とされた/ここから若い医師がローレルの実を頭に載せる風習が生まれた
◆[なかなか北上しなかった]:中部ヨーロッパで栽培されたのは近世(ウィーン:1576年)/イギリスではさらに遅い(16世紀末?)/しかもこれは恐らくCherry-laurel(Prunus-laurocerasus:セイヨウバクチノキ)とのこと

【花言葉】
 『栄誉と勝利』『幸運と誇り』

【民俗学的なこと】
◆[祈祷]:デルフォイの神託所では、巫女たちは月桂樹を手にし、それを振り払いながら陶酔感に浸り、神のお告げを聞いた(麻酔作用を用いた)
◆[占い]:葉が火で激しくはじければ吉/音もなく燃え尽きれば凶
◆[枯れたら凶兆]:古くから伝えられる
◆[お清め]:神殿に出入りする人が、清められた水の中に浸した月桂樹の枝で聖水を注ぎかけられた(古代ローマ)
◆[葬式に]:死者を墓地へ行く途中では、送り手は手に手に花と葉月桂樹の葉を持って行く(時代不明)
◆[超自然の力を持つ]:この木を家に植えておけば、病気にならない/悪魔の呪いにかからない/災害除けになる
◆[疫病から逃げる]:ネロ帝は疫病流行時に月桂樹の森に移り住んで、月桂樹で清めた空気を吸って健康を保った
◆[雷除け]:月桂冠を頭上に載せた(雷が苦手なティベリウス帝)
◆[厄除け]:葉をかんでいるとよい
◆[新年を祝う]:新年1月の朔日を祝って食卓を飾る・月桂樹をつける・炉の中の薪に果物・葡萄酒を注ぐ(古代ローマの儀式)/中世まで残っていた風習だが教会はひどく嫌っていた
◆[楽しい夢/夢の実現]:葉を枕の下に入れて眠ると見ることができる/見た夢が実際に叶う
◆[ヴァレンタインデーの贈り物]:中世ではローレルの枝を恋人同士が取り交わして占いに用いる/この日の祝宴では主賓席から近いところに香炉を置いて月桂樹・松の新鮮で甘美な香りを漂わせた(中世後期)
◆[去った恋人を引き戻す]:葉を燃やすと、良い香りに誘われて戻ってくるという
◆[儀式]:ローズマリー(同じ常緑灌木)とは古くからペアとしてクリスマスの飾り・結婚式・葬式に象徴的に用いられた/クリスマス後の十二夜節に他の常緑樹・何でもいいから緑色のものとともに飾られた(ロンドン:12世紀)
◆[月桂冠]:月桂樹の枝を何本か折ってそれで輪を編んで作る(『ボッカチオ』の中の1場面)

【特徴と利用法】
※以下でのページ数は『ハーブ&スパイス』でのページを示しています

◇葉・各部から採れるオイルを利用する
◇苦い/花・葉は芳香性/殺菌剤にも使用していた/全体に麻酔作用がある
◇常緑樹だから1年中新鮮な葉を摘み取ることはできる
◇葉を香味料として利用:葉を乾燥させてから/朝に摘んだ葉を風通しの良い日陰に広げる。乾くにつれて葉の縁がカールする(⇒薄い板を葉の上に乗せると良い)。収穫するのは若い葉ではなく半年以上経過したものが適している(苦みがなくなるから)
◇葉の保存:完全に乾燥すれば瓶に入れて密閉保存する。これによって葉に含まれるエッセンシャルオイルが逃げなくなる
◇石果:ベリーのよう/精油成分の他に油脂も豊富に含む(30~40%)
◇都市の女性小売商が取り扱っていた品目の中に月桂樹の葉がある(ドイツ:中世末)
◆[甘い芳香が空気を清浄にする]:防腐力がある/病人が出た家の戸口に吊り下げた
◆[ポプリの材料]:P227中程やや上
◆[衣類の間に置く]:香りを好んで
◆[浴槽の中に撒き散らす]:古代ローマ人
◆[いい香りがする食卓の手洗い水]:カモミール・マヨナラ(などシソ科の植物)・ローズマリーの何れかを入れ、これらをオレンジの皮(or)月桂樹の葉と一緒に茹でる(中世)
◇このオレンジとは恐らくダイダイのこと
◆[公共の場で燃やす]:葉が発散する匂いが(生でも焼いても)伝染病を防ぐとされた/悪疫流行時にセイヨウビャクシンとともに燃やされた(P230)
◆[防虫剤]:葉を穀物・小麦粉の容器に数枚入れておく/食料貯蔵庫に適する/ゾウムシ・ヌカガが寄り付かなくなる
◆[象眼細工]:木材は適している

【料理】
◇生の葉(やや苦みがある)・乾燥した葉(甘く強い独特の芳香)のどちらも好みで料理に加える。台所に無くてはならないほど利用価値は大きい
◆[ブーケガルニ][マリネ][シチュー][肉料理][魚料理][牛乳を使った料理][ソース]:ベイリーフは欠かせない
◆[セルリアック(カブラミツバ)風味のウサギ肉]:P190左上
◇セルリアックは元からあったセロリの品種改良によって生まれた(16世紀末)/セロリの小さな根を肥大化させたもの(このセロリは野生種のこと)
◆[バーベキュー]:P193上
◆[パテ][ピクルス][酢漬け][油漬け]:これらの食品に加えるのには香味付け・防腐力を期待された
◆[基本的なマリナード]:P164左下
◆[ゆで野菜]:鍋に1枚入れると風味が良くなる。香りがよく出るようにするには、葉の数ヶ所に手で切れ目を入れておく
◆[スープ][ゼリー状の肉][ワイン]:中世ではこれらに香味付けとして使った
◆[チーズ]:凝乳酵素を葉で包むと香りがつく(P182下)
◆[煮リンゴと直火で焼いたプロヴァンス産イチジク]:上に月桂樹の葉を載せた。『パリの家長』(14世紀)によると最初に出す料理のうちの1つ
◆[カスタード]:風味つけ(P204中程)
◆[スパイス・ミックス]:P160下
◆[調味料]:カンゾウ(リコリス:Glycyrrhiza-glabra)・干しイチジクとともに束ねて使う/保存・防腐作用を利用する
◇このカンゾウは古代から地中海世界で用いられてきたもの/ヨーロッパの北での栽培は少し後(13世紀~)
◆[偽造葡萄酒]:商人達が低質のワインをローマニィワイン(比較的高価で人気もあった)に見せかけるために粉を入れた(中世)

【症状と薬効】
◇生薬には根・葉・実から取る蒸留したエッセンシャルオイルを用いた
◇刺激のあるハーブ/消化促進作用あり
[消化管機能不全][食欲不振][疝痛][ガス]:内服する
[肝臓][伝染病][肺結核][咳]:根を薬に使う(イギリスの伝統)
[ヒステリー][てんかん][狂気][月経不順][寄生虫][便秘]:葉・実は刺激性があるものの昔は内用薬として用いた/何でも効くと信じられていた頃の用法
[フケ症][捻挫][打ち身][耳痛][リューマチ][無力性潰瘍][疥癬]:果実を搾ったオイルを外用に使う(P277上)/オイルを内服すると嘔吐を促す
[ニキビ]:果実の粉末を蜂蜜と混ぜて顔に塗る(or蜂蜜液に顔を浸す)
[堕胎]:実を内用する