
その頃、化粧品として「プラセンタエキス」が注目を集めておりまして、うちでも作ろうじゃないかってことになり、医薬品部門のほうにその仕事が回ってきました。
でもね、化粧品にプラセンタって聞いた時には、正直「そりゃ、イメージ悪すぎるだろ。」って思ったんですよ。 化粧品ってイメージが大事じゃないですか! いくらお肌に良くたって、胎盤ですよ、胎盤!!
胎盤には、いろんな栄養素がいっぱいはいってて、古くから医薬品としても使われているとか、動物が出産後、胎盤を食べるのは母親の体力回復に効果があるからだとか・・・ そんな事はわかってても、やっぱなんか抵抗感じるんですよね。 なんにも効果なくたって「バラのエキス」とか「ハーブエキス」とか言ってる方がいい感じじゃないです?
でもまぁ、これはわたしが感じただけのことで世の女性たちは美しくなるためなら胎盤だろうとうぐいすの糞だろうと厭わないようです。 実際、高級化粧品にはでかでかと「プラセンタエキス配合!」って書いてあってそれを売りにしてますもんね。
もともと抵抗があったプラセンタエキスなのに、同じ研究室で作ったりしたもんでますます嫌になっちゃいます。 屠殺場を見た後お肉が食べれなくなるようなもんですね。
幸いプラセンタエキス担当にはならなかったので直接関わってるわけじゃないけど、何やってるかは見たり聞いたりします。
まず、原料調達。 今は狂牛病の影響で豚の胎盤を使うらしいのですが、当時の原料は牛の胎盤でした。 契約してある農家から「産まれたよ~」って電話が入ると担当者が昼夜を問わず車とばして胎盤を取りに行くわけです。 研究者っていうと白衣着て試験管振ってるイメージなのに、作業着に長靴、ポリバケツもって牛舎へ・・・ ちょっと気の毒な気もしました。
生ものなんでほとんどの作業が冷蔵室で行われていました。 だから普段は担当の研究員が何やってるかは、見ないで済むのですが・・・ ある日事件発生!!
幸か不幸かその日わたしは研究所にいなかったので後から聞いた話です。
いつものように冷蔵室で作業していた研究員が悲鳴とともに血まみれで冷蔵室から飛び出して来たのです
当時、豊田商事の会長が報道陣の目の前で殺された事件がありましたが、まるでその時の返り血を浴びた犯人のようだったとか。
いったい何があったのか
実は、胎盤が手に入るとまず最初に大きなホモジナイザーにかけるのですが、その研究員、ホモジナイザーのふたをロックせずにスイッチを押してしまったのです。

ミキサーのふたをせずにミックスジュースを作った時を想像してください・・・・


中身はバナナやリンゴなんて生易しいものじゃないです。 産まれたての牛の胎盤・・・・ 冷蔵室がどんな状態になったかはご想像にまかせます。
そんなこんなで担当者のまさに血と汗の結晶ともいえる試作品が完成しました。 当然、最初の治験は会社の職員です。
治験はプラセンタエキスのはいった液と入っていない液を使って行うわけですが、ずさんなことに2つの液の色がちがっていて、他の部署の社員はともかくおなじ研究室にいたわたしにはどちらがエキス入りか一目瞭然。 その2液を渡されて担当者から「よろしくな!」と言われれば、その苦労を見て来た仲間としては、やはり・・・ すみません! ちょっと結果を捏造しました。
(もう時効?)当時まだお肌の曲がり角ちょっと前だったんで、今みたいにシミやら皺やらのトラブルとは無縁だったわけで何つけてもさほど変わりないわけですよ。 でもアンケートには「ちょっとハリが出た」とか「しっとりした」とか書いときました。(おぃ)
しかし、あの返り血事件を思うと、いまだに「プラセンタエキス配合」にちょっと抵抗を感じるのであります・・・・
