4月24日(土) 吉田蓑助さん引退
千穐楽最終公演がとれず、前日のチケットを握りしめ日帰りで大阪国立文楽劇場へ。
しかし、結局緊急事態発令で25日(金)の公演が中止となったため、この日が引退公演となった。
私と吉田蓑助さんの出会いは、1992年のニューヨークでした。
そして、その時に拝見した「曽根崎心中」がいまだに私の見た舞台芸術すべての内で最高峰です。
「文楽がニューヨークにくるんだ、、へぇ、曽根崎心中か、観てみたいな」と軽い気持ちで友人たちを誘い、シティセンターへ。
そこで、繰り広げられた人形浄瑠璃劇文楽は、私の想像をはるかに超えた時空に、あの劇場にいた日本語が全く分からない人達も含めて連れて全体を連れていきました。
最初は太夫さんの勢い、表情が凄すぎて、びっくりして太夫さんみるやら、人形遣いの人が気になるやら。しかし、物語が進むにつれ、三業一体の洗練された技が、かえって己の存在を消して行き、しまいには人形しか目に入らなくなり、人形がその場で息をし、悩み苦しんで最後は心中する。その青白い光線に浮かぶ姿のこの世のものとは思えないほどの美しさ。
その後は長く海外に暮らしていたのでなかなか拝見する機会がありませんでしたが、その最後のシーンが常に瞼の裏に刻まれていました。
それから大病されて復活され、私も帰国し、少し余裕ができてこの数年足しげく国立劇場小劇場に通っていました。毎公演、力を振り絞って人形を使い続ける姿に、本当に文楽への愛と人形遣いとして覚悟を感じていました。
令和元(2019)年 2月の国立文楽劇場の鶊山姫捨松の中将姫雪責の段の中将姫はもう、舞台下手からわなわな、と、でも、さ~っと、中将姫が出てきて一瞬で空気が変わりました。思い出しても鳥肌が立ちます。
あれは何だったんだろう。全身で示される哀れさ、無力さ、でも若さと美しさは健在という。
一緒した文楽初体験の友人が発した「すさまじかった」という言葉がぴったりでした。
前置きが長くなってしまいましたが、今回は国姓爺合戦、初めて見る演目でした。
何とエキゾチックで豪快なストーリーだと改めてびっくりしました。セットもすごくて、こりゃ江戸時代においては現代のラスベガスショーぐらいのインパクトがあっただろうと感心しきりでした。
そして蓑助さんが遣う錦祥女の登場。もう全然違う。息をしてそこにいる。
そして服に覆われているにもかかわらず、この方のデコルテすごい美しいんだろうと思わせる。なぜ?腕から方、首顔の向き、反対側の腕から手先まで、もうそれはそれは美女です。
闇夜に輝く美女です。こんなに美しいのに、夫思いで親思いで心も美しい。
本当に素晴らしものを見せて頂きました。
そしてこれが、本当に引退公演となるとは。見届けることができたとは。
一目見たときから、蓑助さんをずっと心のに留めてきて、事あるごとに文楽いいよ~と熱弁してきたご褒美でしょうか。
最後のセレモニーでは蓑次郎さんが号泣しっぱなしでした。
蓑助さんは拍手に対してガッツポーズで両手を上げて応えていらっしゃいました。
鶴澤清治さんが花束をもって登場されたら、嗚咽をもらされ、あのいつもクールな鶴澤さんも目を真っ赤にされていました。
蓑助さん、私の人生を豊かにしてくださって本当にありがとうございました。
ちょっとゆっくりしてください。そしてその後はぜひ後続を指導しつつ、長生きしてください。
たまにはテレビに出たり、寄稿してくださったりお願いいたします。