この1月は、歌舞伎座、新橋演舞場、浅草公会堂と歌舞伎ファンにとっては贅沢三昧のめでたい月でした。ほんの数か月で歌舞伎がすべて中止になるなんて夢にも思わず…楽しんでいました。
役そのものの、己之助の平右衛門、米吉のおかる
この1月はもちろん歌舞伎座も素晴らしかったですが、一番心に染みたのは、この新春浅草歌舞伎の七段目の己之助さんの演じる平右衛門でした。
義兄勘平が仇討ちに加わるため、家族全員が一丸となって、いろいろ工面していたのに、なんの因果か父も義兄も死んでしまいます。
平右衛門がせめて兄勘平に代わって仇討ちをと望んでも、仇討ちに参加さえさせてもらえない、足軽身分の悲哀。その純粋な口惜しさがく~っと滲みでて。また、妹お軽を不憫に思う兄の気持ちもあふれ出て。こんなにいい平右衛門を見たのは初めてだったかも。己之助さんはきっとまっすぐな方なんだなと思えるぐらい、平右衛門さんと重なって、これがいわゆる仁にあったお役というものかと思いました。また、この年齢だからこそでる良さもあり。
また、米吉のおかるも、まだ分別もつかない、可愛らしい一途な思いをつのらせる若い女の子が、勘平と父をいっぺんに無くしてしまい、悲しくて悲しくて、もうどうしょうぞ~、という感じが本当にかわいくて、可哀いそうで。
己之助くんの平右衛門と米吉君のおかるの兄弟愛、絆もよく出ていて、思い出しても不憫で泣けるぐらい。衝撃を受けるぐらい良いおかると平右衛門でした。またこの二人で見てみたい。
米吉さんによると、仁左衛門さんがご指導されたそうですが、平右衛門は三津五郎さんのやり方を踏襲されていたとのこと。なるほどそうだったのか。だから、あの実直さ、必死さがでていたのか。平右衛門をやっていた己之助君を思い出すと、まるで後ろに三津五郎さんが重なるようなそんな幻想さえ出てくる。そして涙が…。またご指導された仁左衛門さんの愛情にも涙が…
絵本太功記
隼人さんが十次郎、米吉さんが初菊。
前半、出陣するまで、隼人さんも米吉さんも硬い、というかお人形さんが振りをしているようで、なんか芝居をしている感じがしなかった。米吉さんの初菊はふわふわしてて、なんとしても夫婦になりたいという必死さは感じない。十次郎は後半の傷を負って帰ってきた時の方が芝居になっていた。でもそれは歌昇さんが光秀として出てきて、空気をつくってくれたからかもしれません。
ストーリー自体がそれほど深くない太閤記を見せるためには、やはり型と存在感なのかもしれません。隼人さんの折り目正しさは向いてると思いました。
観劇日:2020年1月13日(月)