中村吉右衛門さんの嬢景清。
古典を新たに補筆して作った作品。序幕、二幕目があることでしっかり頼朝と景清のお互いに対する気持ちが表れ、だいぶ全体の印象が違っていました。
序幕の玉依姫役の米吉さんの品のある口説きと、三保谷四郎国時役の歌昇さんの地面に響き渡るような口調のとの対比がすばらしく、また流れで頼朝の思慮深さ、慈悲深さが示される、とても歌舞伎らしい華やかで素晴らしい幕。
二幕目で、大仏法要の場で、景清登場。吉右衛門さんの口調で、さわやかで豪快な、武勇と忠心の景清の人柄が伝わる。立ち回り、三保谷四郎との相撲勝負と見どころ満載で、最後に自ら目を潰すところまで、スピード感も迫力もすごい。
三幕目の花菱屋は、そんなに変わらず。東蔵さんの女房おくまと旦那の歌六さんすてき。世話物でほっこりする幕。雀右衛門さんが糸滝を熱演。
四幕目の吉右衛門さんは、年月も経ち境遇もかわり、一幕目とはまるで様子は違うが、しかし芯は変わらない同じという景清という部分を見事に出しておられました。そして、最後の船を追おうとする場面の姿は鬼気迫るものがありました。
最後は、文楽とは違う、糸滝と景清が同じ船で都を目指す、ハッピーエンド風の大上段の終わり方。
今年は文楽でも娘景清を見て、玉男さんと景清と蓑助さんの糸滝を見たばかりだってこともあり、とても興味深く見ました。
新たに始めの二幕を足し、最後糸滝と同じ船で終演を迎える演出により、どちらかというと、親子の情愛と、娘をこんな運命に落としてしまった絶望というよりは、頼朝と景清の深い信頼のストーリーになったような、そんな印象を受けました。
根っから男前の吉右衛門さんらしい演出かと思いました。