【1701】コロナ私見#638(これは酷い)

 

先回、2022,2023は超過死亡が多いと言ったので、念のため国立感染症研究所の発表する最近の超過死亡のデータを見て驚きました。2022年は確かに超過死亡が多いのに、2023年の3月以降は超過死亡が全くありません。そんな筈はないと思いました。

 

 

超過死亡は過去5年間の傾向から外れる死者数です。下の私の図でも2023は従来延長線より15万人も多いのです。0の筈がありません。2022年と同じ程度の筈です。

 

どうしてこんなことになるのかネットの記事を探したら、計算方法が悪いと専門家有志が公開質問状を感染研に出しているのを知りました。下記はその抜粋です。今年の1月です。

 

 

 

質問状の趣旨は、コロナの影響を見るためには過去5年間にコロナの3年間を入れたら意味がないと言うものです。私のグラフで言うと、コロナの前からの延長線を基準にすべきというものです。極めて常識的な考えで、私の感覚に合います。それなら、2023年は死者増は15万人になります。しかし、感染研の言うように過去5年のデータを基準にするにしても、2023年は2018年から2022年までですので、コロナの影響が大きく出ているのは2022年だけですので、5年間で見れば影響は薄まる筈と思います。

そこで、感染研のデータに前年度のデータを重ねてみました。赤が前年度のデータです。

これを見ると、超過死亡はほぼ前年度からの増減で決まっているようです。5年間と言いながら、実際は前年度を一番重視する計算方法になっているようです。2023年は死者が多かった2022年をベースにしているので超過死亡が殆ど無いような結果になったのです。

 

これは酷いデータ処理の方法です。質問状を出した人の疑問ももっともです。前年度を最重視しているとは質問者も思っていなかったのではと思います。2023年を計算するのに、超過死亡の多かった2022年をベースにするなんて最悪です。政府の専門家委員会の座長の脇田氏を所長とする国立感染症研究所は真に国民のためを思って行動しているかはなはだ疑問がわきます。この質問に対する回答はどんなものだったのでしょうか。多分過去ずっとこの計算方法だったという回答だと思いますが、何年にもまたがるコロナのような病気に対しては無効だということは研究者ならすぐわかる筈です。わかっていてそのままにしているのだと思います。もしコロナに対してだけ計算方法を変えているようならば完全に犯罪です。

 

 

参考

質問状の全文です。

 

2024 年 1 月 11 日

 

 国立感染症研究所 所長 脇田隆字様 国立感染症研究所の超過死亡発表についての公開質問状

 

前略 新型コロナウイルス感染症(以下,新型コロナ)の蔓延に伴う,1)新型コロナ罹患に起因する死者数,2)医療全体への影響による新型コロナ以外の死者数増加の推定には超過死亡の解析が重要であり,貴研究所は,この目的で超過死 亡データの収集,解析に尽力なさっていると理解しております.新型コロナの5類移行に伴い,感染者数や死者数の情報を速やかに得ることが困難になっており,また,救急搬送の逼迫に伴う死亡者の増加も指摘されています.適切な社会的意思決定に必要な基礎データとして,超過死亡者数解析の重要性がさらに高まっていることは明らかです.

貴研究所が 2023 年 12 月 8 日に掲載した「超過死亡の迅速把握 2023 年 11 月 15 日までの報告」およびそれ以前の一連の報告における「参加全自治体」のグ ラフによると,2023 年3月以降,超過死亡が全く観察されていません一方, 厚生労働省が 2023 年 11 月 24 日に発表した 2023 年 9 月の新型コロナ感染に伴う死者数は,1 ヶ月で最大5千人超と試算されています.消防庁の救急搬送困 難事例についてのデータからも,救急搬送一般に深刻な影響が慢性的に生じて いることが明らかですから,救急患者の治療開始の遅れに伴う死者が少なからず発生していると推測できます.しかし,それらのデータと,貴研究所が公表している超過死亡のデータは整合していません.無論,超過死亡データは新型コロナ以外の様々な公衆衛生に関わる条件が交絡しうるものです.しかし,新型コロナによる死者発生数と,救急医療逼迫に伴う死者発生数の合計を覆すほどの交絡が発生しているのであれば,これは公衆医学的に見過ごすことができない重大な現象が存在することになります.しかし,そのような重大な事象の報告,指摘は現在までありません. この状況から,貴研究所が発表してきたデータに関して,次のいずれかの問題が発生していると考えられます.

 

 1. 新型コロナによる直接の死亡者増加,救急医療逼迫に伴う死者の合計を覆すほどの,医学的に重大な現象が起こっている.

 2. 貴研究所の超過死亡数に関する解析手法が新型コロナによる超過死亡推計に適切なものではない.

新型コロナの影響による超過死亡数を評価するには,実際の死亡者数と,当該感染症が流行していない場合に生じるはずの死亡者数(予測死亡数)との差で定義される超過死亡者数を調べる必要があります

(式1).

超過死亡者数 = 実際の死亡者数 – 新型コロナウイルス感染症がない場合の予測死亡者数 (式1)

 

一方,貴研究所が公表している参加全自治体合計の超過死亡数グラフを見ると,2022 年以降の「予測死亡者数」がそれ以前のデータ変動の傾向から大きく 逸脱し,急上昇していることが速やかに分かります.そこで,貴研究所の解析手法が掲載された論文(ダッシュボードに記載されているもの)を参照すると,予測死亡者数は,対象とする年の1〜5 年前のデータから統計学的に外挿することで求めていることが分かります.もう一つ参照されている資料(我が国における超過死亡の推定(2020 年 4 月までのデータ分析))においても「5 年前までの前後 3 週間をデータとして用いて推定を行う」と明記されています.このことは,日本の超過および過少死亡数ダッシュボードに記載されているコード, R_code.R でも再確認できます. この事実から,国立感染症研究所が行っている 2023 年の超過死亡解析では, 2018 年〜2022 年の死亡者数データから「予測死亡者数」を推定していると考えられます.しかるに,2020 年,2021 年,2022 年は新型コロナウイルス感染症の流行が既に起きている年ですので,その死亡者数には新型コロナによる死亡者が既に含まれています.2020 年〜2022 年の死亡者数を用いた推定による 「予測死亡者数」と,2023 年の「実際の死亡者数」とを用いて超過死亡を解析 する貴研究所の方法は,新型コロナウイルス感染症による超過死亡者の推定には論理的になりえないと考えられます. このように,貴研究所の超過死亡推定では 2021 年以降,新型コロナによる死亡者数増加を含んだ過年度データを用いて「予測死亡者数」を推定しているように思われます.仮にそうであれば,このような解析は,感染症の影響をみるために超過死亡を使うという目的にあったものと言えないはずです. 貴研究所が公表してきた超過死亡者の推定値は,新型コロナウイルス感染症 流行に由来する超過死亡者数の(本来の)推定値(式(1))より過小なものであり,その過小評価は年を追う毎に深刻化し,新型コロナウイルス感染症の実態からかけ離れたものになっている可能性があります.

ここまで述べた背景から,国立感染症研究所に以下の点について伺います.

1.貴研究所の 2021 年以降の超過死亡解析では,既に新型コロナが流行している時期(2020 年以降)の死亡者数を用いて予測死亡者を推定している,との私たちの理解は正しいでしょうか.

2.貴研究所が新型コロナとの関連で発表してきた超過死亡のデータは,2021 年以降,「感染症の影響をみるために超過死亡を使う」という目的に照らし,適切な解析方法で得られたものだったのでしょうか.

3.貴研究所が公表してきた超過死亡数は,2021 年以降,感染症の影響を見るための適切な解析方法(式(1))で得られるはずの死亡者数に比較して過小評価されてきたのではないでしょうか.

4.貴研究所の発表は,テレビ,新聞などを含めたメディアで,感染症の影響を調べる目的で得られた超過死亡者数として繰り返し報道され,世論形成 や政策決定にも影響を与えてきました.したがって,これが「感染症の影 響を見る」という目的に合わない超過死亡者数であったならば,記者会見 を行う等の方法により,これまでの発表内容が新型コロナに関わる超過死亡としては不適切であったことを明確に説明・訂正する義務があると考えますが,如何でしょうか.

5.貴研究所の発表を直接,Web などで目にしてきた市民に対しても,同様の 訂正・周知義務があると考えますが,如何でしょうか.

 

既に述べたように,貴研究所の超過死亡解析が新型コロナウイルス感染症の影響を調べる目的に合致していたか否かは,解析に用いたアルゴリズムの詳細な検討を必要としません. 2021 年以降の予測死亡者数の推定に 2020 年以降のデータを用いていたかどうか,この一点を調べるだけで直ちに判明するはずです. ついては,ご回答を速やかに,遅くとも 1 月 18 日(木)まで,メールにてお送りくださるよう,お願いいたします.

 

草々

質問者:

本堂 毅 東北大学大学院理学研究科 (事務局)

牧野淳一郎 神戸大学大学院理学研究科

御手洗 聡 結核予防会結核研究所

森内 浩幸 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科