この状況をうまく切り抜けるには槙野に頼るしかない。美紗子は思い切って顔を槙野に向けてぎこちない笑みを送った。
「槙野さん、いつもいいところに来てくれるのね。専務と熱心に話し込んでいたので、声を掛けずに出てきたのよ」
「待っていればよかったじゃないか。食事に行く約束を忘れていたわけではないだろうな」槙野は不満そうな表情を浮かべて美紗子を見た。
「え?」美紗子は思いもよらない言葉に驚いて槙野を見返した。
「え?じゃないだろう。また上の空で聞いていたのか?しょうがないな…」
「ごめんなさい」
倉田は二人の会話を聞きながら、険悪な視線を槙野に向けて投げかける。
「槙野、邪魔しないでくれないか。彼女は私と話をしているところだ」
「悪い、倉田さん。今日は彼女と食事をする約束をしている」槙野は美紗子を引き寄せると、勝ち誇ったように倉田を見返す。
「倉田さん、せっかく誘ってくださったのに…。すみませんが失礼します」
美紗子は槙野と腕を組んで歩きだすと、間の抜けたような表情の倉田の横をすり抜ける。美紗子はただ少しでも早く倉田から離れたかった。
「一体どういうことだ。倉田さんが君を食事に誘うとはね」槙野は歩きながら怒ったように言った。
「まあ、ひどい言い方だわ」
「何がひどいって?」
「私が男の人と食事をするのが、そんなに不思議?とても失礼だと思いませんか?」
「何を言っている。倉田さんは君が高藤の秘書に選ばれて面白く思っていない。そんな男が君を食事に誘うのには、何か魂胆があるに違いない。君はそう思わなかったのかい?」
美紗子は顔を赤らめながら槙野の腕を振り払った。
「そのくらいわかります。槙野さんが来なくても私はちゃんと倉田さんをうまくあしらうことはできました。余計なお世話だわ」
「そうは思えない。あの男を見くびるとひどい目にあうぞ。君は知らないかもしれないが…」
「それは、それはどうも、助けていただいて感謝します。さようなら・・・」
「その態度は何だ。とても感謝しているという態度には見えない。人が心配して…」
美紗子はむっとしながら槙野から顔をそむけた。腹を立てながらも、自分が槙野に対して何かを期待している自分が許せなかった。
「心配していただかなくても結構です。私もバカではありません。私一人でもちゃんと対処できます」
「私は別に君を馬鹿になどしていない。君は確かにしっかりした女性だが、感情的になりすぎて突っ走る傾向がある。それを心配しているだけだ」
自分は何をそんなに腹を立てているのかと、美紗子は自分でもわからなくなっている。いや、気付かないふりをして自分の感情を槙野に知られたくなかっただけだ。
「ごめんなさい。でも心配しないでください。倉田さんと食事するつもりはありませんでした。今日はなんだかとても疲れて…」
「大丈夫かい?車で送るよ」槙野は美紗子の腕をつかんだ。
「いえ、大丈夫です。バスはすぐに来るから…」
「黙って、君はすぐに反抗的になる。人の親切は素直に聞くものだよ」
「槙野さん、いつもいいところに来てくれるのね。専務と熱心に話し込んでいたので、声を掛けずに出てきたのよ」
「待っていればよかったじゃないか。食事に行く約束を忘れていたわけではないだろうな」槙野は不満そうな表情を浮かべて美紗子を見た。
「え?」美紗子は思いもよらない言葉に驚いて槙野を見返した。
「え?じゃないだろう。また上の空で聞いていたのか?しょうがないな…」
「ごめんなさい」
倉田は二人の会話を聞きながら、険悪な視線を槙野に向けて投げかける。
「槙野、邪魔しないでくれないか。彼女は私と話をしているところだ」
「悪い、倉田さん。今日は彼女と食事をする約束をしている」槙野は美紗子を引き寄せると、勝ち誇ったように倉田を見返す。
「倉田さん、せっかく誘ってくださったのに…。すみませんが失礼します」
美紗子は槙野と腕を組んで歩きだすと、間の抜けたような表情の倉田の横をすり抜ける。美紗子はただ少しでも早く倉田から離れたかった。
「一体どういうことだ。倉田さんが君を食事に誘うとはね」槙野は歩きながら怒ったように言った。
「まあ、ひどい言い方だわ」
「何がひどいって?」
「私が男の人と食事をするのが、そんなに不思議?とても失礼だと思いませんか?」
「何を言っている。倉田さんは君が高藤の秘書に選ばれて面白く思っていない。そんな男が君を食事に誘うのには、何か魂胆があるに違いない。君はそう思わなかったのかい?」
美紗子は顔を赤らめながら槙野の腕を振り払った。
「そのくらいわかります。槙野さんが来なくても私はちゃんと倉田さんをうまくあしらうことはできました。余計なお世話だわ」
「そうは思えない。あの男を見くびるとひどい目にあうぞ。君は知らないかもしれないが…」
「それは、それはどうも、助けていただいて感謝します。さようなら・・・」
「その態度は何だ。とても感謝しているという態度には見えない。人が心配して…」
美紗子はむっとしながら槙野から顔をそむけた。腹を立てながらも、自分が槙野に対して何かを期待している自分が許せなかった。
「心配していただかなくても結構です。私もバカではありません。私一人でもちゃんと対処できます」
「私は別に君を馬鹿になどしていない。君は確かにしっかりした女性だが、感情的になりすぎて突っ走る傾向がある。それを心配しているだけだ」
自分は何をそんなに腹を立てているのかと、美紗子は自分でもわからなくなっている。いや、気付かないふりをして自分の感情を槙野に知られたくなかっただけだ。
「ごめんなさい。でも心配しないでください。倉田さんと食事するつもりはありませんでした。今日はなんだかとても疲れて…」
「大丈夫かい?車で送るよ」槙野は美紗子の腕をつかんだ。
「いえ、大丈夫です。バスはすぐに来るから…」
「黙って、君はすぐに反抗的になる。人の親切は素直に聞くものだよ」
「ごちそうさまでした」
「どういたしまして」
結局のところ槙野に押し切られる形で一緒に食事をすることになった。槙野と二人だけで食事をするのは久しぶりだ。
「一人で食事するよりいいだろう。それに君とゆっくり食事をするのは久しぶりだ。何度か君に食事に誘おうと思っていたが、いつもタイミングが悪くて、その機会を逃してしまったから…」槙野は苦笑いを浮かべた。「今日は倉田さんのおかげで君と食事して話ができて良かったよ」
確かに槙野が何度かそういう素振りを見せていたが、美紗子はわざと気付かぬふりをして避けていた。高藤の秘書として一緒に働き、ただ同僚として同じ時を過ごしているだけで、それ以上の関係になることはできないと思っていた。
河内幸子のことがなければ、二人は出会うことはなかったし、高藤の秘書になることもなかった。いたずらか偶然かわからないが美紗子は槙野に出会った。そして、知らず知らずのうちに槙野に惹かれ始めていた。叶うことはないとわかっていながら…。
「何か私に話したいことがあるんじゃないのかい?」
美紗子は察しのいい槙野のことだから気付くだろうと思っていた。もう少し時間が欲しかった。槙野と一緒に過ごす時間を引き延ばすことができたなら…。どんなに良かっただろうか…。
「あなたは知りたかったのよね。河内幸子がなぜ高藤のもとを去ったのか、なぜ彼女は自殺したのか…」
「君はその答えを知っているんだね」槙野は目を細めて鋭い視線を投げかける。
美紗子はゆっくりと頷いた。なぜなんだろう、こんなに胸が痛むのか…。もうすぐ私の役目は終わるのだ。
「そうか、君は知ってしまったんだね。河内幸子が自殺した本当のわけを…」
「それはどういう意味?彼女が自殺した本当のわけって…」
「彼女は自分の心が壊れていくのを恐れ、人としての感情さえも失くしてしまう。そうなる前に彼女は自ら命を絶った…」
「あなたはそれを知っていたの?なぜ?」
「君が河内幸子のことを調べていたのは知っている。私に何も言わず…」
「わかっていて、ずっと…」
「そうだよ。君と同じように色々調べていた」
「そんな…」
「なぜ、私に黙って調べていたんだ。なぜ私に手を貸してほしいと言わなかった」
美紗子は呆然とした。槙野は自分よりも先にその事実を知っていたのだ。美紗子は顔を覆った。
「すべては高藤のためなんだろう?そこまで彼を思っていたんだね」
美紗子はゆっくりと顔を上げた。湧き上がってくる激しい感情は何だろうか、怒りかそれとも…。
「君は優しい人だから、彼がそれを知ってさらに苦しむと思っていた。だから…」
「褒めていただいてうれしいわ…。確かに高藤さんの為に調べていたわ。でも、それだけではないわ。私が知りたかったのは、彼女がなぜ私に謎めいたメッセージを残したのか、その疑問を解くために色々調べてきた。それなのに、知りたくもないことまで色々わかって、人間不信にもなった。あなたは高藤さんの為に私に近づき私を試したのね。あなたの言う通り、私は本当にバカだったわ。あなたを信じたなんて…」
「美紗子さん、君…」
「あなたがどこまで知っているのかはわからないけど、私はこれ以上話すことは何もないわ」
美紗子はシートベルトを外し、ドアを開けようとする。槙野は美紗子の腕を掴んで引き留めようと手を伸ばし、かろうじて美紗子の腕を捉える。
「君は何か誤解しているみたいだが、少し落ち着いてくれないか?」
「その手を放してくださらない?言ったでしょう。私はあなたに話すことは何もないって…」美紗子は槙野の手を振り払おうとする。
「君になくても、私にはある」槙野は美紗子の腕を掴んで放さない。「君はなんでそんなに怒っているんだ。最後まで私の話を…。なんで泣くんだ」
「泣いてなんか…」美紗子は左手で涙を拭う。
「泣くことはないだろう。困ったな…。君を泣かせるほど、私は酷い男なのか?」
「手を放して…」
「君が泣くのをやめるなら・・・」
「どういたしまして」
結局のところ槙野に押し切られる形で一緒に食事をすることになった。槙野と二人だけで食事をするのは久しぶりだ。
「一人で食事するよりいいだろう。それに君とゆっくり食事をするのは久しぶりだ。何度か君に食事に誘おうと思っていたが、いつもタイミングが悪くて、その機会を逃してしまったから…」槙野は苦笑いを浮かべた。「今日は倉田さんのおかげで君と食事して話ができて良かったよ」
確かに槙野が何度かそういう素振りを見せていたが、美紗子はわざと気付かぬふりをして避けていた。高藤の秘書として一緒に働き、ただ同僚として同じ時を過ごしているだけで、それ以上の関係になることはできないと思っていた。
河内幸子のことがなければ、二人は出会うことはなかったし、高藤の秘書になることもなかった。いたずらか偶然かわからないが美紗子は槙野に出会った。そして、知らず知らずのうちに槙野に惹かれ始めていた。叶うことはないとわかっていながら…。
「何か私に話したいことがあるんじゃないのかい?」
美紗子は察しのいい槙野のことだから気付くだろうと思っていた。もう少し時間が欲しかった。槙野と一緒に過ごす時間を引き延ばすことができたなら…。どんなに良かっただろうか…。
「あなたは知りたかったのよね。河内幸子がなぜ高藤のもとを去ったのか、なぜ彼女は自殺したのか…」
「君はその答えを知っているんだね」槙野は目を細めて鋭い視線を投げかける。
美紗子はゆっくりと頷いた。なぜなんだろう、こんなに胸が痛むのか…。もうすぐ私の役目は終わるのだ。
「そうか、君は知ってしまったんだね。河内幸子が自殺した本当のわけを…」
「それはどういう意味?彼女が自殺した本当のわけって…」
「彼女は自分の心が壊れていくのを恐れ、人としての感情さえも失くしてしまう。そうなる前に彼女は自ら命を絶った…」
「あなたはそれを知っていたの?なぜ?」
「君が河内幸子のことを調べていたのは知っている。私に何も言わず…」
「わかっていて、ずっと…」
「そうだよ。君と同じように色々調べていた」
「そんな…」
「なぜ、私に黙って調べていたんだ。なぜ私に手を貸してほしいと言わなかった」
美紗子は呆然とした。槙野は自分よりも先にその事実を知っていたのだ。美紗子は顔を覆った。
「すべては高藤のためなんだろう?そこまで彼を思っていたんだね」
美紗子はゆっくりと顔を上げた。湧き上がってくる激しい感情は何だろうか、怒りかそれとも…。
「君は優しい人だから、彼がそれを知ってさらに苦しむと思っていた。だから…」
「褒めていただいてうれしいわ…。確かに高藤さんの為に調べていたわ。でも、それだけではないわ。私が知りたかったのは、彼女がなぜ私に謎めいたメッセージを残したのか、その疑問を解くために色々調べてきた。それなのに、知りたくもないことまで色々わかって、人間不信にもなった。あなたは高藤さんの為に私に近づき私を試したのね。あなたの言う通り、私は本当にバカだったわ。あなたを信じたなんて…」
「美紗子さん、君…」
「あなたがどこまで知っているのかはわからないけど、私はこれ以上話すことは何もないわ」
美紗子はシートベルトを外し、ドアを開けようとする。槙野は美紗子の腕を掴んで引き留めようと手を伸ばし、かろうじて美紗子の腕を捉える。
「君は何か誤解しているみたいだが、少し落ち着いてくれないか?」
「その手を放してくださらない?言ったでしょう。私はあなたに話すことは何もないって…」美紗子は槙野の手を振り払おうとする。
「君になくても、私にはある」槙野は美紗子の腕を掴んで放さない。「君はなんでそんなに怒っているんだ。最後まで私の話を…。なんで泣くんだ」
「泣いてなんか…」美紗子は左手で涙を拭う。
「泣くことはないだろう。困ったな…。君を泣かせるほど、私は酷い男なのか?」
「手を放して…」
「君が泣くのをやめるなら・・・」
