高藤は彼女が結婚を目前にして自殺をしたことを聞かされたのだ。そして、ホテルのバーで酒を飲み正気をなくして荒れた。自分の愛した女性が別の男と結婚しようとしていたことさえ知らなかった。彼女の裏切りがよほどこたえたのか、酒を取り上げようとする槙野を激しく野次った。
「彼女がなぜ私を騙していたことを黙っていたんだ。分かっていれば戻ってこなかった。裏切られたことも知らずに、のこのこと・・・」
「お前の気持ちは良く分かる。だが・・・」
「彼女の本性を見抜けなかった間抜けな男だと嘲笑っていたのか?」
「本気で好きになった人だろう。なぜ信じてやらない」
「どう信じろというんだ・・・」
美紗子はショックを受けている高藤に同情していたが、どうしても腑に落ちないことが多すぎる。何が本当で嘘なのか美紗子はただ混乱するばかりだ。それに槙野はいつ自分に高藤と河内幸子の関係を話すつもりだったのだろうか・・・。高藤同様に何を信じたらいいのか美紗子にも分からない。今、分かることは高藤を落ち着かせること・・・。
「もういい加減にしたらどうです。お酒で気を紛らわせるしかないわけ?」
二人ははっとして美紗子を見た。美紗子の存在にようやく気が付いたかのように・・・。
「死んだ人のことを偲ぶのならいざ知らず、思い出を汚すようなことするのは卑怯者のすることよ。結婚を目前にした彼女がなぜ死を選ぶことになったのか、その理由が知りたいとは思わないのですか?被害者ぶってないでよく考えてよ。このすっとこ、どっこい!」
別に酒を飲んで酔っ払っているわけではない。一滴も飲んではいないけれど、なんだか腹が立ってきた。美紗子は高藤の頭を拳骨で一撃する。したのはいいが・・・。
「いたっ!この石頭が・・・」
高藤は一撃を受けて頭を押さえたが、痛みよりも美紗子の突然の行動に唖然として・・・。一方、槙野はぽかんとして美紗子を見ている。そして、カウンター越しのバーテンダーはグラスを手にしたまま固まっている。この状況をどう収めればいいのかという考えなど露も知らずというように・・・。
「ま・・・・まったく。何なのよ。一口も飲んでないのに。酔っ払いでも見ているって顔しないでよ。しらふですからね」これでも十分恥ずかしい・・・。
槙野は堰を切ったように笑い出した。それも、腹を抱えて・・・。高藤はじっと美紗子を見つめている。そして、解けていくように笑みが毀れた。
「彼女がなぜ私を騙していたことを黙っていたんだ。分かっていれば戻ってこなかった。裏切られたことも知らずに、のこのこと・・・」
「お前の気持ちは良く分かる。だが・・・」
「彼女の本性を見抜けなかった間抜けな男だと嘲笑っていたのか?」
「本気で好きになった人だろう。なぜ信じてやらない」
「どう信じろというんだ・・・」
美紗子はショックを受けている高藤に同情していたが、どうしても腑に落ちないことが多すぎる。何が本当で嘘なのか美紗子はただ混乱するばかりだ。それに槙野はいつ自分に高藤と河内幸子の関係を話すつもりだったのだろうか・・・。高藤同様に何を信じたらいいのか美紗子にも分からない。今、分かることは高藤を落ち着かせること・・・。
「もういい加減にしたらどうです。お酒で気を紛らわせるしかないわけ?」
二人ははっとして美紗子を見た。美紗子の存在にようやく気が付いたかのように・・・。
「死んだ人のことを偲ぶのならいざ知らず、思い出を汚すようなことするのは卑怯者のすることよ。結婚を目前にした彼女がなぜ死を選ぶことになったのか、その理由が知りたいとは思わないのですか?被害者ぶってないでよく考えてよ。このすっとこ、どっこい!」
別に酒を飲んで酔っ払っているわけではない。一滴も飲んではいないけれど、なんだか腹が立ってきた。美紗子は高藤の頭を拳骨で一撃する。したのはいいが・・・。
「いたっ!この石頭が・・・」
高藤は一撃を受けて頭を押さえたが、痛みよりも美紗子の突然の行動に唖然として・・・。一方、槙野はぽかんとして美紗子を見ている。そして、カウンター越しのバーテンダーはグラスを手にしたまま固まっている。この状況をどう収めればいいのかという考えなど露も知らずというように・・・。
「ま・・・・まったく。何なのよ。一口も飲んでないのに。酔っ払いでも見ているって顔しないでよ。しらふですからね」これでも十分恥ずかしい・・・。
槙野は堰を切ったように笑い出した。それも、腹を抱えて・・・。高藤はじっと美紗子を見つめている。そして、解けていくように笑みが毀れた。
さて、それからどうなったか?高藤は例のごとく有無を言わせず美紗子のためにホテルの一室を用意した。男二人は別の部屋を取り飲み直すと言って、美紗子を部屋に押し込んで行ってしまった。
美紗子はシャワーを浴びながら考えた。自分でも何をするのか、どういう行動に出るのか予測できない。思っても見ない方向へと動いていきそうで自分でも怖くなる。前からこういう性格だったのかしら・・・。こんなふうになったのは全て河内幸子の自殺から始まっているという気がしてくる。
ますます河内幸子という人が分からなくなる。彼女にはまだまだ秘密があるような気がする。いくつもの顔を持つ、まるで多重人格みたいじゃない。ちょっとテレビの見すぎかしら・・・。
高校時代からの恋人と結婚することになっていた彼女、高藤会長の孫と恋人同士だったという一面、男を惑わす魔性の女という一面・・・。いったい何が本当の彼女なの?いったい彼女に何が起きたの?
美紗子は何より槙野の不自然な言動が気になるし、なんとなく彼にうまく利用されている気がして・・・・。まさか、目的があって私に近づいてきた?私は彼に好意を持ち始めている。もし、自分に近づいてきたのが計画的だったとしたら立ち直れない。
美紗子はベッドに横になり、枕に顔をうずめて唸ると手足をばたばたさせた。本気で好きになったら、もっと惨めかもしれない。高藤だけでなく、槙野も河内幸子が好きだったのではないかという疑いが頭をもたげてくる。槙野は河内幸子が自殺した本当の理由を探っているということかしら。
高藤が私を自分の秘書にすると言ったとたん一変したわね。それは、私が秘書になったら困るってこと?私に関わらせたくないのは、私に知られたくないことでもあるから?何か自分に不都合なことがあるから、自分が高藤の秘書になると言い出したとも考えられる。でも、変よ。ありえないわ・・・。
どちらも裕福なお坊ちゃま。両親も兄弟もいない何のとりえもない私みたいな女など相手にするはずがないじゃない。ああ、ますます卑屈な女になりそうだわ・・・。
美紗子はシャワーを浴びながら考えた。自分でも何をするのか、どういう行動に出るのか予測できない。思っても見ない方向へと動いていきそうで自分でも怖くなる。前からこういう性格だったのかしら・・・。こんなふうになったのは全て河内幸子の自殺から始まっているという気がしてくる。
ますます河内幸子という人が分からなくなる。彼女にはまだまだ秘密があるような気がする。いくつもの顔を持つ、まるで多重人格みたいじゃない。ちょっとテレビの見すぎかしら・・・。
高校時代からの恋人と結婚することになっていた彼女、高藤会長の孫と恋人同士だったという一面、男を惑わす魔性の女という一面・・・。いったい何が本当の彼女なの?いったい彼女に何が起きたの?
美紗子は何より槙野の不自然な言動が気になるし、なんとなく彼にうまく利用されている気がして・・・・。まさか、目的があって私に近づいてきた?私は彼に好意を持ち始めている。もし、自分に近づいてきたのが計画的だったとしたら立ち直れない。
美紗子はベッドに横になり、枕に顔をうずめて唸ると手足をばたばたさせた。本気で好きになったら、もっと惨めかもしれない。高藤だけでなく、槙野も河内幸子が好きだったのではないかという疑いが頭をもたげてくる。槙野は河内幸子が自殺した本当の理由を探っているということかしら。
高藤が私を自分の秘書にすると言ったとたん一変したわね。それは、私が秘書になったら困るってこと?私に関わらせたくないのは、私に知られたくないことでもあるから?何か自分に不都合なことがあるから、自分が高藤の秘書になると言い出したとも考えられる。でも、変よ。ありえないわ・・・。
どちらも裕福なお坊ちゃま。両親も兄弟もいない何のとりえもない私みたいな女など相手にするはずがないじゃない。ああ、ますます卑屈な女になりそうだわ・・・。
美紗子は目覚めてから、昨夜のことを少しずつ思い出す。それから、問題はここをどうやって出るかということだった。彼らは何処にいるのか知らないし、現金も持っていないのだ。ホテル代は高藤のことだから支払いは済ませてくれただろうけれど・・・。ぐずぐずしているとノックが聞こえてきた。慌ててベッドから出てドアへ近づく。ドアを開けると手に紙袋提げた槙野が立っていた。
「おはよう。よく眠れたかな?」
「ええ・・・。まあまあ」
「ここで少し話さないか」
美紗子は変な気分だった。槙野と出会ってから、まったく二人きりだったことはなかったからだろうか・・・。二人でいることがとても息苦しいというか、どきどきするというか・・・。
槙野は窓辺に立ってからくるりと向きを変えた。美紗子をまっすぐに見つめてくる槙野はいつもと少し感じが違っていた。
「正直言うと、最初から間違っていた。気付いていると思うが、君に近づいてきたのは河内幸子の自殺の動機を知りたかったからだ。彼女は良く君の話をしていた。だからよほど親しい間柄だろうと思い込んでいた。君は彼女のことを良く知らない。そうだね」
美紗子は頷くしかなかった。いいようのない寂しさが心の中で広がる。仕組まれた出会いだったという事実・・・。
「何もなかったことにすればいい。私は高藤の御曹司と河内幸子がどういう関係かも知らないし、知りたくもないわ・・・。あなたのことだって、私にとってはストーカーぐらいにしか思っていないわよ。デパートで会ってもこれからはお互いに知らないもの同士、声もかけないから心配しないで・・・。それに秘密は誰にも漏らさないから・・・」
「すまない・・・」
美紗子はベッドにどっかりと据わって腕を組む。
「それよりも、この格好では帰れないし・・・」
「服は適当に用意した」
「申し訳ないけど、少しお金を恵んでくれない?」適当に用意しただって・・・。ふん!
「紙袋の中に封筒がある。少ないけれど・・・」
槙野の足元に紙袋が置かれてあるのを美紗子は虚しい思いで見つめた。
「どうして、そんなに芝居が下手なの?少しはすまなさそうな顔をしなさいよ。何で、そんなに平気な顔していられるのか信じられないわ・・・。散々振り回しておきながら・・・。それから、この服は返すから外で待っていて・・・」
「それは君に贈った物だ。返す必要はない」
「形のあるものは残るのよ。このドレスを見るたび思い出すわよ。あなたが処分して頂戴」
「君も芝居が下手だな。怒っているふりするのはよせ。今にも泣きそうなくせに・・・」
「泣きたいどころか、あなたたちと関わらないでいいと思うだけで踊り出したい気分よ。それと、バックやアクセサリーもちゃんとお返しします。さあ、早く出て行って・・・」
悔しいけれどまともに顔も見られない。目を合わせれば気持ちを見抜かれそうで怖いけど、そんなわけにはいかないわよね。美紗子は顔を上げてまっすぐに槙野を見つめた。案外簡単じゃない。笑う余裕さえあるわよ。
「意外と強いな・・・。度胸もあるし・・・」
「ええ。もちろんあるわよ。この通りにね・・・」
美紗子は拳を握り締め、思いっきり槙野の横面に一発・・・。槙野の頭はぐらりと後ろへ傾きそのままひっくり返った。美紗子は腰に両手を置いてひっくり返った槙野を見下ろし鼻で笑った。だが、美紗子の目には涙が滲んでいた。それは拳の痛みの為なのか、心の痛みなのか・・・。
「おはよう。よく眠れたかな?」
「ええ・・・。まあまあ」
「ここで少し話さないか」
美紗子は変な気分だった。槙野と出会ってから、まったく二人きりだったことはなかったからだろうか・・・。二人でいることがとても息苦しいというか、どきどきするというか・・・。
槙野は窓辺に立ってからくるりと向きを変えた。美紗子をまっすぐに見つめてくる槙野はいつもと少し感じが違っていた。
「正直言うと、最初から間違っていた。気付いていると思うが、君に近づいてきたのは河内幸子の自殺の動機を知りたかったからだ。彼女は良く君の話をしていた。だからよほど親しい間柄だろうと思い込んでいた。君は彼女のことを良く知らない。そうだね」
美紗子は頷くしかなかった。いいようのない寂しさが心の中で広がる。仕組まれた出会いだったという事実・・・。
「何もなかったことにすればいい。私は高藤の御曹司と河内幸子がどういう関係かも知らないし、知りたくもないわ・・・。あなたのことだって、私にとってはストーカーぐらいにしか思っていないわよ。デパートで会ってもこれからはお互いに知らないもの同士、声もかけないから心配しないで・・・。それに秘密は誰にも漏らさないから・・・」
「すまない・・・」
美紗子はベッドにどっかりと据わって腕を組む。
「それよりも、この格好では帰れないし・・・」
「服は適当に用意した」
「申し訳ないけど、少しお金を恵んでくれない?」適当に用意しただって・・・。ふん!
「紙袋の中に封筒がある。少ないけれど・・・」
槙野の足元に紙袋が置かれてあるのを美紗子は虚しい思いで見つめた。
「どうして、そんなに芝居が下手なの?少しはすまなさそうな顔をしなさいよ。何で、そんなに平気な顔していられるのか信じられないわ・・・。散々振り回しておきながら・・・。それから、この服は返すから外で待っていて・・・」
「それは君に贈った物だ。返す必要はない」
「形のあるものは残るのよ。このドレスを見るたび思い出すわよ。あなたが処分して頂戴」
「君も芝居が下手だな。怒っているふりするのはよせ。今にも泣きそうなくせに・・・」
「泣きたいどころか、あなたたちと関わらないでいいと思うだけで踊り出したい気分よ。それと、バックやアクセサリーもちゃんとお返しします。さあ、早く出て行って・・・」
悔しいけれどまともに顔も見られない。目を合わせれば気持ちを見抜かれそうで怖いけど、そんなわけにはいかないわよね。美紗子は顔を上げてまっすぐに槙野を見つめた。案外簡単じゃない。笑う余裕さえあるわよ。
「意外と強いな・・・。度胸もあるし・・・」
「ええ。もちろんあるわよ。この通りにね・・・」
美紗子は拳を握り締め、思いっきり槙野の横面に一発・・・。槙野の頭はぐらりと後ろへ傾きそのままひっくり返った。美紗子は腰に両手を置いてひっくり返った槙野を見下ろし鼻で笑った。だが、美紗子の目には涙が滲んでいた。それは拳の痛みの為なのか、心の痛みなのか・・・。
