彼女が空を飛んだわけ 5 | 紫苑の扉

紫苑の扉

主にストーリーと詩を書いています。
あるがままに、そのままに・・・。
徒然に気ままに

 すでに季節は紅葉の秋となり、窓を開けると外は冷たい風が吹いている。肌寒かったが美紗子にとっては心地良く感じられた。
 今夜は大好きな伯父に会うことになっている。
 電話がかかってきて、二人で美味しいものでも食べに行こうと誘われたのである。伯父と会うのはずいぶん久しぶりだ。
 両親を亡くした美紗子は、母親の兄である伯父夫婦の元に身を寄せた。伯父夫婦には息子が一人と娘が二人いるが、美紗子とその従兄妹たちとは仲が良かった。伯父夫婦は自分たちの子供と美紗子を分け隔て無くかわいがってくれた。
 働き始めて間もなく美紗子は叔父の家を出て一人暮らしをはじめた。多少の援助は受けても、なるだけ自分の力でやっていきたかった。いくら血の繋がった叔父でも、いつまでも甘えてはいられないと思ったのだ。
 部屋の掃除と洗濯を済ませた後、幸子から送られてきたパソコンを使ってメールのチェックをする。
 今までメールは携帯で十分だったからわざわざパソコンが必要だとは思わなかった。しかし、いざ使ってみると色々なことに活用できるし便利だとわかった。何よりもインターネットを活用して色々なことを調べるのが美紗子は面白くなってきた。
 美紗子は楽しそうに鼻歌交じりにキーボードを打つ。送られた理由などの脳裏から締め出し、まるで思わぬ贈り物に嬉々とする子供のように・・・。 
 ふと手を止めて美紗子はクローゼットに目を向ける。その中に、彼女のロッカーにあった黒いバックを隠している。その存在はいつも暗雲が立ち込めるように、心に広がっては重く圧し掛かり忘れることはできない。持ち帰ったものの中を見る勇気が無くて、無造作にバックを突っ込んだままだ。
 彼女を追い詰め自殺させるほどの秘密を暴いたとしても何になる?平穏な生活をかき乱すかもしれないものを・・・。何事も無かったように眠らせてしまえばいいのだ。所詮は他人事であり、たとえ暴いたとしても誰が得をするというのだろう。そんな思いが美紗子の心を占めた。
 ああ、なぜ私にこんなものを託したの?平凡なデパートの店員に過ぎない私に何ができるというの・・・。美紗子は頭を抱え込んで唸った。

 待ち合わせの場所に早く到着した美紗子はとりあえずコーヒーを頼んだ。伯父のことを考えながらコーヒーを飲んでいると自然と頬が緩んでくる
 伯父は温厚でおっとりしたタイプの男で、家庭第一であり何より奥さんを大事にしている。たまに仕事上の付き合いで会社関係者を家に招いて食事会を開く。そんな時は普段とは違う伯父の側面を垣間見ることがある。部下には厳しいが尊敬され信頼できる上司と思われている。家庭的な雰囲気で親睦を図ろうと家に招く伯父なりのやり方だったが、今ではわざわざ食事に家まで招待することは減多に少なくなっていると言う。
“そろそろ誰かいい人を見つけて結婚したらどうだ?”
 伯父がいつも美紗子に言うことは決まっている。今日もきっとそう言って最後には大きな溜息を吐くのだ。自分の娘のように育ててくれた伯父をがっかりさせるのは心苦しいが、物事はそう簡単にはいかないものなのだ。
「よう、来てたのか・・・」
 白髪交じりの丸みのある温厚な顔立ちと、貫禄のあるがっちりした体格の男性が美紗子をにこにこしながら見下ろしている。美紗子も負けないくらい明るい笑顔で答える。
「伯父さん、お久しぶりです。お元気でした・・・」美紗子の声は途中でしぼんだ。
 美紗子は伯父がひとりでないことに気づいた。伯父は誰かを連れて来る時は事前に知らせるのが常なのだが・・・。
 伯父は美紗子の向かい側に座り連れの男性を手招きした。初対面の相手をぶしつけに観察するわけにもいかず、さりげない仕草でその場をしのぐしかない。とは言うものの不器用にコーヒーカップを近づけて飲むのが精一杯だ。美紗子はその男性と向き合う形になりどういうわけか気まずかった。
「紹介しよう・・・。私の姪で美紗子だ。こちらは・・・。まあ、子供じゃあるまいし自分で挨拶してくれ・・・。挨拶は後にしてまずはコーヒーを二つ頼むか」
 美紗子は伯父は店員に向かって手を上げるのを見ながら心の中で溜息を吐く。紹介を省略して相手にそれをやらせるとは伯父には呆れる。相手はそんなことは一向に気にしていないらしくさりげなく外に目を向けている。美紗子はチラッと相手を盗み見る。横を向いてはいるが口元はおかしそうに緩んでいた。















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