相場はよく寄る居酒屋で夕食を済ませ紅影に向かっていた。
紅影の前に来ると店から友美と園田が出てきた。相場は木の陰に身を寄せる。マスターである園田が鍵を閉める間、友美はじっと待っている。やがて二人はゆっくりと歩き始める。
相場の心がざわざわとざわめいた。むくむくとわきあがる思いを飲み込んで相場は踵を返した。
「友美さん何か気になることでも?元気がないようですが・・・」
「私、相場さんにプロポーズされました」友美は俯き加減に言った。
園田は一瞬言葉を失ったが、すぐにいつもの笑顔を向けた。
「良かったじゃありませんか・・・。彼ならきっと・・・」
「彼はいい人です。男性としても素敵な方だと思っています。けして嫌いではありません」俯いたまま友美は言った。
プロポーズされたというのに友美の口調には喜びは感じられない、むしろ寂しげだ。
「貴方はまだ若い・・・。亡くなったご主人に義理立てする必要はないではありませんか・・・。彼は貴方を幸せにできる男だ」
「私・・・」
伏せていた顔を上げて友美は園田を見た。園田は無理やり笑顔を作る。
「私には好きな人がいます」
園田は驚いて友美を見つめた。一体誰だ?彼なら許せる。思いを寄せている相手は相場のように若いのだろう。車に乗り込み園田は助手席にいる友美をチラリと見る。友美とその相手と抱き合う姿が浮かんだ。園田はその想像を追い払うように首を振った。
相手は自分の気持ちを知らない、自分を女としてみてはくれないのだと友美は園田に打ち明けた。彼女を抱きしめてやりたい・・・。園田はその思いを押さえ込む。
二人は車から降りると向き合う。
「送ってくださってありがとう。お店を早仕舞いして構わなかったのですか?」
「気にしないでください。客も今日は少なかったからね・・・」
「園田さん・・・」友美は自分の思いを打ち明けたい気持ちに駆られる。
「私にできることがあったら・・・」
友美は首を振って向きを変える。園田は思わず手を伸ばし彼女の手首を掴んだ。
「園田さん?」友美は驚いて振り返る。
「私には、君の力にはなれないだろうか・・・」園田は無意識のうちに、掴んだ手に力を入る。
友美はふっと力が抜けるのを感じた。よろめくように園田の胸に手をついた。
「優しい言葉をかけないで・・・」言葉とは裏腹に友美は園田の胸に顔を埋めた。「ちょっとでいいの、しばらくの間でいいからこのままでいさせて・・・」
バンチャンはむくっと体を起こして、ハウスが見える窓に近づく。
「バンチャン?」
バンチャンに千春は目を向ける。バンチャンは窓枠に前足を引っ掛けて外を眺め、窓ガラスをカリカリと引っかいた。
「どうかしたの?」千春はバンチャンに近づく。
「また猫が来たの?」
千夏は洗濯物をたたみながら、千春とバンチャンに目を向けた。
「うん、多分ね・・・」千春はカーテンを引いて、バンチャンの頭を撫でる。「良い子ね、バンチャン。さあ・・・自分のハウスへ入りなさい、お利口さんだから・・・」
バンチャンは千春を見上げて、クウンといいながらちらりと窓を振り返る。まだ気にかかる様子でもう一度千春を見上げる。
「良い子だから・・・ね」千春はバンチャンの頭を撫で、お尻をぽんと叩いた。
バンチャンは尻尾を振りながら、千春の言う通りに自分のハウスに向かった。
紅影の前に来ると店から友美と園田が出てきた。相場は木の陰に身を寄せる。マスターである園田が鍵を閉める間、友美はじっと待っている。やがて二人はゆっくりと歩き始める。
相場の心がざわざわとざわめいた。むくむくとわきあがる思いを飲み込んで相場は踵を返した。
「友美さん何か気になることでも?元気がないようですが・・・」
「私、相場さんにプロポーズされました」友美は俯き加減に言った。
園田は一瞬言葉を失ったが、すぐにいつもの笑顔を向けた。
「良かったじゃありませんか・・・。彼ならきっと・・・」
「彼はいい人です。男性としても素敵な方だと思っています。けして嫌いではありません」俯いたまま友美は言った。
プロポーズされたというのに友美の口調には喜びは感じられない、むしろ寂しげだ。
「貴方はまだ若い・・・。亡くなったご主人に義理立てする必要はないではありませんか・・・。彼は貴方を幸せにできる男だ」
「私・・・」
伏せていた顔を上げて友美は園田を見た。園田は無理やり笑顔を作る。
「私には好きな人がいます」
園田は驚いて友美を見つめた。一体誰だ?彼なら許せる。思いを寄せている相手は相場のように若いのだろう。車に乗り込み園田は助手席にいる友美をチラリと見る。友美とその相手と抱き合う姿が浮かんだ。園田はその想像を追い払うように首を振った。
相手は自分の気持ちを知らない、自分を女としてみてはくれないのだと友美は園田に打ち明けた。彼女を抱きしめてやりたい・・・。園田はその思いを押さえ込む。
二人は車から降りると向き合う。
「送ってくださってありがとう。お店を早仕舞いして構わなかったのですか?」
「気にしないでください。客も今日は少なかったからね・・・」
「園田さん・・・」友美は自分の思いを打ち明けたい気持ちに駆られる。
「私にできることがあったら・・・」
友美は首を振って向きを変える。園田は思わず手を伸ばし彼女の手首を掴んだ。
「園田さん?」友美は驚いて振り返る。
「私には、君の力にはなれないだろうか・・・」園田は無意識のうちに、掴んだ手に力を入る。
友美はふっと力が抜けるのを感じた。よろめくように園田の胸に手をついた。
「優しい言葉をかけないで・・・」言葉とは裏腹に友美は園田の胸に顔を埋めた。「ちょっとでいいの、しばらくの間でいいからこのままでいさせて・・・」
バンチャンはむくっと体を起こして、ハウスが見える窓に近づく。
「バンチャン?」
バンチャンに千春は目を向ける。バンチャンは窓枠に前足を引っ掛けて外を眺め、窓ガラスをカリカリと引っかいた。
「どうかしたの?」千春はバンチャンに近づく。
「また猫が来たの?」
千夏は洗濯物をたたみながら、千春とバンチャンに目を向けた。
「うん、多分ね・・・」千春はカーテンを引いて、バンチャンの頭を撫でる。「良い子ね、バンチャン。さあ・・・自分のハウスへ入りなさい、お利口さんだから・・・」
バンチャンは千春を見上げて、クウンといいながらちらりと窓を振り返る。まだ気にかかる様子でもう一度千春を見上げる。
「良い子だから・・・ね」千春はバンチャンの頭を撫で、お尻をぽんと叩いた。
バンチャンは尻尾を振りながら、千春の言う通りに自分のハウスに向かった。
「ごめんなさい・・・」友美は園田の胸に顔を埋めたまま言った。
園田は友美を抱きしめたやりたかった。思わず両手を上げて彼女に触れようとする自分にはっとする。彼女の体に腕を回し、抱きしめたい気持ちを抑えて拳を握り締める。彼女が思いを寄せる相手に園田は嫉妬した。園田は大きく息を吸い込んで、友美の肩に手を置いた。
「私は君が思っている相手とは違う」肩に手を置いた手を押し戻し、友美の体を引き離す。
友美は目を伏せたまま顔を上げた。月光が友美の顔を照らす。園田はじっと友美を見つめ、わずかに顔を歪める。
「相手の男性が誰なのかは知らないが、自分が本当に好きな相手なら、自分の気持ちを正直に打ち明けるべきだ。結果だどうであれ、君が真剣に相手を思っているならそうすべきだと思うよ。このまま思いを打ち明けず、行動も起こさずに諦めるか、自らの道を切り開くかのどちらかしかない。それを決めるのは君だ。あくまでもそれを決断するのは君だ」
園田は友美から離れハウスに向かって歩き始めた。
「園田さん!」
友美は振り返ろうともしない園田を見つめた。心が叫んでいる・・・。私は貴方が好きなのよ!園田の姿はハウスの影に消えた。
園田は友美を抱きしめたやりたかった。思わず両手を上げて彼女に触れようとする自分にはっとする。彼女の体に腕を回し、抱きしめたい気持ちを抑えて拳を握り締める。彼女が思いを寄せる相手に園田は嫉妬した。園田は大きく息を吸い込んで、友美の肩に手を置いた。
「私は君が思っている相手とは違う」肩に手を置いた手を押し戻し、友美の体を引き離す。
友美は目を伏せたまま顔を上げた。月光が友美の顔を照らす。園田はじっと友美を見つめ、わずかに顔を歪める。
「相手の男性が誰なのかは知らないが、自分が本当に好きな相手なら、自分の気持ちを正直に打ち明けるべきだ。結果だどうであれ、君が真剣に相手を思っているならそうすべきだと思うよ。このまま思いを打ち明けず、行動も起こさずに諦めるか、自らの道を切り開くかのどちらかしかない。それを決めるのは君だ。あくまでもそれを決断するのは君だ」
園田は友美から離れハウスに向かって歩き始めた。
「園田さん!」
友美は振り返ろうともしない園田を見つめた。心が叫んでいる・・・。私は貴方が好きなのよ!園田の姿はハウスの影に消えた。
ハウスを横切り友美は福山家を見た。ポプラが月明かりにぼんやりと浮かび上がる。ポプラを見上げる。かすかに風が吹き、それに応えるようにポプラはさわさわと葉を揺らす。
これは罰なの?私・・・幸せになってはいけない?気づかない振りして相場さんの気持ちを利用した私・・・。
何か動く気配を感じて友美ははっと体を強張らせる。
「誰?」友美は振り向く。
暗闇から人影が飛び出してくると、友美は言葉もなくその場に凍りつくように動けなくなった。友美はパニックに陥り声を出すこともできずその場に立ち尽くす。咽喉に手を当てて声を出そうとするが声にならない。体が硬直したまま動けない。友美は力を振り絞り、声を張り上げようと口を開きかけた瞬間、肩に鋭い痛みをが走る。その場に崩れるように倒れ込む。意識が遠のき、暗闇に引きずり込まれながら友美は園田の名を呼んだ。
園田はドアに鍵をかけようとしていた。外で何か物音がしたような気がして、ドアを開けて外へ出る。園田の視界に人影を捉える。人影はハウスを横切って走り去った。
「まさか・・・」園田は嫌な予感に襲われ駆け出す。
ポプラの木の下で倒れている友美を見つけた。走り寄ると膝をつき友美の顔を覗き込む。
「友美さん!」園田は軽く友美の頬を叩く。何度も友美の名を呼ぶ。
友美は園田の声をぼんやり聞いた。名前を呼ばれたような気がしたが、頭がぼんやりしてはっきりしない・・・。やがて園田の声が大きくなり、友美は重たい目を微かに開ける。
「園田さん・・・」友美の声はかすれている。
「いいから喋るんじゃない」園田は友美を抱き起こし、髪を優しく撫でる。「大丈夫だよ」園田は胸が引きちぎれるよな思いだったが、無理に微笑んで見せた。
「そ・・・の・・・だ、さん・・・」
「シイ・・・」園田は友美の唇にそっと人差し指を押し当てた。
園田は友美を抱き上げ、福山家に向かって歩き始める。
友美の瞼から涙が零れ落ちる。歯を食いしばり友美は必死で涙を堪える。恐怖と安堵感、虚しさ・・・。そして、ときめきと・・・。色々な感情が入り混じる。
月は雲に隠れ、そして再び姿を現す。
月は暗闇を照らし、星は人を導くように煌めき輝いていた。
これは罰なの?私・・・幸せになってはいけない?気づかない振りして相場さんの気持ちを利用した私・・・。
何か動く気配を感じて友美ははっと体を強張らせる。
「誰?」友美は振り向く。
暗闇から人影が飛び出してくると、友美は言葉もなくその場に凍りつくように動けなくなった。友美はパニックに陥り声を出すこともできずその場に立ち尽くす。咽喉に手を当てて声を出そうとするが声にならない。体が硬直したまま動けない。友美は力を振り絞り、声を張り上げようと口を開きかけた瞬間、肩に鋭い痛みをが走る。その場に崩れるように倒れ込む。意識が遠のき、暗闇に引きずり込まれながら友美は園田の名を呼んだ。
園田はドアに鍵をかけようとしていた。外で何か物音がしたような気がして、ドアを開けて外へ出る。園田の視界に人影を捉える。人影はハウスを横切って走り去った。
「まさか・・・」園田は嫌な予感に襲われ駆け出す。
ポプラの木の下で倒れている友美を見つけた。走り寄ると膝をつき友美の顔を覗き込む。
「友美さん!」園田は軽く友美の頬を叩く。何度も友美の名を呼ぶ。
友美は園田の声をぼんやり聞いた。名前を呼ばれたような気がしたが、頭がぼんやりしてはっきりしない・・・。やがて園田の声が大きくなり、友美は重たい目を微かに開ける。
「園田さん・・・」友美の声はかすれている。
「いいから喋るんじゃない」園田は友美を抱き起こし、髪を優しく撫でる。「大丈夫だよ」園田は胸が引きちぎれるよな思いだったが、無理に微笑んで見せた。
「そ・・・の・・・だ、さん・・・」
「シイ・・・」園田は友美の唇にそっと人差し指を押し当てた。
園田は友美を抱き上げ、福山家に向かって歩き始める。
友美の瞼から涙が零れ落ちる。歯を食いしばり友美は必死で涙を堪える。恐怖と安堵感、虚しさ・・・。そして、ときめきと・・・。色々な感情が入り混じる。
月は雲に隠れ、そして再び姿を現す。
月は暗闇を照らし、星は人を導くように煌めき輝いていた。
