恋が切ないものならば
愛は苦しいぬくもりか
今月今夜この月夜
秋の夜空の恋人よ
潤む光と朧影
夜は短し酔い難し・・・
という事でみなさんこんばんは。 夜のストーリーテラー 中村皇月です。
今夜から始まる1000年前の古典に習う恋のサクセステクニック。
得るものは多いです。
私は歴史学者でも文学者でもありませんので、正確に読み取れたり説明できない部分もあるかと思いますが、いつものお目汚しですので気にならない程度にお付き合い下さいませ。
さ~それでは。 はじまりはじまり。
源氏物語・・・今夜は桐壺更衣(きりつぼのこうい)のお話です。
源氏物語の登場人物はすべてあだ名というか、それこそ源氏名の起源でもある呼び名で書かれており、その名前の付け方のセンスも見所です。
今夜は桐壺更衣の生き方と恋の獲得と末路を見ていきましょう。
桐壺更衣は大納言と北の方の娘として生まれますが、特別な後ろ盾が無かった事とそれほど身分が高くなかった・・・はずなのに・・・
帝である桐壺帝(きりつぼてい)の寵愛というか偏愛を受けてしまう・・・
まさにシンデレラストーリーが1000年前にあった!
帝(みかど)と同じ桐壺という名前が当てられているところからも、その寵愛ぶりと物語の核となる布石になっている部分が色々と感じられます。
事実・・・この桐壺更衣は物語終盤までそこはかとない存在感を示します。
怖いぐらいに。 本当に・・・
桐壺更衣の更衣というのは身分を意味するというか、お仕事の名前です。
帝の妻としては二軍でもなく三軍なのです。
後宮の女性にはいろいろとランクがあり、できるだけ身分の高い女性で男子を産んだ人が?皇后となったような感じでしょうか。
皇后がまず一番ですが正妻として同資格を持つのは中宮(ちゅうぐう)です。
平安時代の女性の身分をランクごとに見ていきましょう。
中宮(ちゅうぐう)・・・皇后正妻と同資格・女御から選出
女御(にょうご)・・・皇族、大臣の娘から選出
更衣(こうい)・・・帝の衣替え、寝所に従事 大納言以下の娘から選出
ここまでが帝の妻。 次にお役所勤めの女官として
尚侍(ないしのかみ)
典侍(ないしのすけ)
掌侍(ないしのしょう)
その他諸々・・・
このようなランク付けの身分制度だったようです。
その他抑えておかなくてはならないのは・・・
斎宮(さいぐう)・・・伊勢神宮に奉仕する皇女(未婚者)
斎院(さいいん)・・・賀茂神社に奉仕する皇女(未婚者)
家柄で身分や仕事まで決まってしまうというのが・・・非効率的でもあるわけですが、王朝が2600年続くという事はそういう事なのです。
更衣という身分ですが、一応・・・帝の妻としての可能性があるかもしれないけど期待はしないように・・・的な地位というわけですが、多くの高貴な女性達の住まう後宮の中で、しかもそれほど身分が高いわけでもなく、特に後ろ盾も無い女性が・・・
帝からの最大のご寵愛を受けてしまった・・・
というのがいきなりの大事件であるのはすぐに分かると思います。
そしてこれが物語を生み出すビッグバンなのです。
平安時代は婿入りが基本というのは前回お話しましたが・・・
ようするにそれなりの男子が出世をするために、力のある財力のある家の娘を探して結婚して、それも一人ではなく数多くのふさわしい娘を探して結婚して親戚関係となり、どんどん力を付けて行き、その男子が出世してしまえば一族親戚縁者の将来が安泰である。
というものであるわけですから、家と家との婚姻による親戚関係そのものが将来の安泰を意味するわけです。
力関係がありますから、どの家と親戚関係を結ぶのが今後有利になるか・・・男子目線では政治的にそのような事を考えているわけであります。
日本という国は一夫多妻制が普通でしたから、嫁が多くていいなと思う人もいるかもしれませんが、とんでもない。
一族親戚のすべての命運を背負うわけですから、ただ単にナンパであったという事ではありません。 むしろどれだけ多くの妻とその家族の将来を担えるのかという事で、妻の親からの信頼があるかという事が重要ですので、将来性のある男しかモテません。
「いいから黙って全部俺に投資しろ!」
と自信と責任を持って言える男に将来を託す賭け・・・なわけです。
家系に優秀な男子を持つ事も重要ですが、どこに出しても恥ずかしくない姫を育てる事のほうが政治や権力の中に入っていくには早かったかもしれませんし、むしろ姫こそ政治を動かす裏の主役とも言えるわけです。
桐壺更衣の父親はすでに亡くなっていた・・・
後ろ盾が無いのであればこのままでは家の存続も危うい。
一発逆転、御家再興の手段として、娘を立派に育て上げ、なんとか入内させて・・・あわよくば帝のご寵愛を受ければいわゆる・・・
勝ち組に!!
桐壺更衣の母親は入内をためらっていたもしくは反対していたふしがあります。
しかし娘の意志はそうではなかった。
政治的に男達に振り回されたのではなく、自らの意志で亡き父の野望を胸に、家のために後宮へと赴くという女一代浪花節!!
そして思惑通りに帝のご寵愛を受けたというのはもぉ・・・
あっぱれ! サスガッス!
そのうえで男子を身ごもり、無事出産。 これがまた後の光源氏やがな!
そんなもんネエサン、勝ち組どころかボロ勝ちでっせ!
物語序盤でいきなりクライマックスのような勢いなのです。
零落しかかった貴族の姫が後宮へ赴くという設定は、紫式部自身がそうですから、
「家に力が無くとも女子力だけで成功してみせる」
という部分になんとなく紫式部の心意気を感じます。
よく考えれば更衣という身分、帝の身支度の世話と寝所で付き従うという距離感。
これ以上の一発逆転のチャンスがある距離感はありません。
なんとしたたかな戦術。 後宮の恋は戦いなのであります。
実際に身分がそこそこある後宮の女性達は、会いたいからとか心配だからという単純な理由だけで帝に会う事ができなかったようです。
四六時中帝の傍にいられるというのが最大のチャンス。
紫式部だからこそ見つけられた後宮の穴なのかもしれません。 たくましい。
ではなぜ桐壺更衣は帝に気に入られたのか・・・これ不思議ですよ。
帝という職業というか地位にもヒントがあるかもしれません。
皇族、帝とはいえ、最高権力者とはいえないむしろ政治的に利用されたり翻弄されやすい立場。
後ろ盾(大臣)がどのような状況か、もしくは後ろ盾の機嫌を気にしながらでなくては何かといつどのような事にもなりかねない存在なのです。
そんな中、
何の後ろ盾も無いのに強い意志を持つ女性である桐壺更衣の存在感。
これは魅力的に感じるでしょう。
義理があるから可愛がるのとはわけが違います。
帝は本当の恋に堕ちてしまったわけですよ。
愚かな男として誤解されやすい桐壺帝ですが、むしろ立場やしがらみを気にせず本気を貫いた姿勢は大変評価できると思いますし、私は好感の持てる肉食王だと思います。
そして。
「ウチのお父ちゃん誰々やねん」とか、「俺は誰々と親戚やねん」なんていうしがらみだのステイタスだの、そんなものと無縁であったというのがこの桐壺更衣の最大の魅力でもあったというわけです。
さてさて・・・しかし・・・この二人の恋物語。
無事には済まないのが紫式部の手腕であります。
めでたしめでたし・・・では終わらないこのリアリティ。
後宮の女性や大臣達からすれば・・・「なんでやねん!」 そりゃそうです。
二人は数々の散々なバッシングを受けてしまいます。
桐壺更衣に対する様々なパワハラ。
桐壺帝に対しては進言と忠告に楊貴妃を愛した玄宗皇帝を引き合いに出すやからが。
子供の光源氏に対しては「良い人相だけど帝にしてはならない」と暗に母親の身分への皮肉を込めた裏工作が伺えます。
そんな事が続いてしまい、ついに心労で桐壺更衣は病に伏してしまいます。
桐壺更衣の唯一の肉声が・・・
「かぎりとて 別るる道の悲しきに いかまほしきは 命なりけり」
もっと長く生きていたかった・・・桐壺更衣は家のためではなく、本当に恋をしていたという言葉を残し、この世を去るのです。
最愛の女性を失ってしまった桐壺帝は
「たづねゆく まぼろしもがなつてにても 魂(たま)のありかを そこと知るべく」
と、桐壺更衣の魂を探してくれるつてがあればと後悔します。
本当の恋と好きな女を守りきれなかった男のどうしようもできなかった悲哀を感じさせます。
平安時代。 高貴な身分の人は政治的な婚姻のみに忙しかった反面、本気の恋がなかなかできなかったようです。
そこに一瞬だけ刻まれたきらめきの刻・・・
昔は古事記のように格調は高くてもどうしてもおとぎ話的な読み物しか楽しめなかった時代。
大変現実的な恋愛話でしかもめでたしの恋バナで終わらない、主人公達の苦悩まで描いてしまった源氏物語が出てきた時は・・・
おそらく大変な驚きを持って迎えられたのではないかと思います。
今でもみなさん驚いているのではないでしょうか。
出版当時は女子供の慰み本として扱われてしまったような感じがあるのは残念ですが、女性目線のただの恋愛サクセスストーリーではない、フィクションでありながら心をえぐられるほどに現実的な内容であるというのは・・・
これ書かれたのが1000年前ですよ・・・本当に凄い事だと思います。
桐壺更衣。 物語序盤で亡くなってしまうのですが、ここでは終わりません。
さんざん苛められた恨み節ではありませんが、物語全体の登場人物達に今後容赦なく、少なからず影響を与えていきます。
源氏物語の女性達、私が思ったのは当時の男にとって「つまらない女」はちゃんと愛されない傾向があるように思えます。
この時代の男が愛するにふさわしいそそられる教養や面白み、センス、覚悟、一本筋が通っている・・・等の際立った特徴のある女性しかちゃんと愛されません。
意外な事に家柄の良い教養もありたしなみのある、どこに出しても恥ずかしくない女性のほうが難があるように、また面白味のない女性として描かれている・・・
この点、零落した貴族の姫君である紫式部の女子力とリアリティと皮肉を込めた文才の光る描写ではないかと思います。
加えてハッピィエンドにはしない・・・というのが肝なんだなぁ・・・
次回も楽しみです。
本日もご拝読ありがとうございました。
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