非常麻将(フェイチャン・マージャン)三人之会第三回公演/マグカルシアター参加公演 【横浜公演】
公演サイト
https://www.confetti-web.com/events/9149?fbclid=IwY2xjawMOScNleHRuA2FlbQIxMABicmlkETFJSEpodzZuY2pXTDNGemt5AR6LhnFSkqb4ZM5k4gYZeDmx7UyJnEWeNf_7t2z9k3_50ZEoDBZ4V2lG4hT_nw_aem_vFnBj3gFZ837k96mwR-Rpg
中国の現代演劇を生で観るのは初めての経験。
いわゆる劇場ではない交流スペースに設けられた三面舞台。とにかく眼が悪いので最前列の席で鑑賞いたしました。
登場人物は老大(ローダ)、老二(ローアー)、老三(ローサン)、老四(ロース―)の男4人。開演前に演出の奥田氏によるこの戯曲の時代背景、文化大革命による都市の青年の農村下放、今は使われないポケットベルなど理解に必要と思われる説明があり、その終わりに老二が登場し、舞台のすみに座ります。終演後のトークによれば、本来この戯曲は三人芝居で老二は登場しないとのこと。でも老二はこの場を支配しているとも言えるのです。
彼ら4人は義兄弟で今までおそらくいろいろなことをわかちあい、麻雀の集いも繰り返してきたようですが、この夜が麻雀の最後のゲーム。翌日からはそれぞれ新しい方向へ行かざるを得ないようです。
登場人物の名についている数字は年齢順。最初に立ってしゃべっているのは
一番若い老四。老二が来ないことにいらついてポケットベルに連絡したり…つまり電話を使うこの場面では背景の左隅に下げた毛筆で「电话」と書かれた布のところへ老四が行き、そこに照明があたります。時間つぶしにテレビを視るよう勧められると老四はその隣の「电视」と書いた布のところに行き、テレビ画面らしきまぶしい照明がつき、音楽などが流れます。小道具?を言葉で表現する斬新な演出ですね。
テレビも楽しめず、すぐ消してしまう老四。一番年長で麻雀も師匠格らしい老大は老四を落ち着きがなさすぎる、だから麻雀が上達しないのだとたしなめます。約束通りの時間に来ない誰かを待っている時の心地悪い気分…彼らが今までと同じでいられるのはこれが最後だというのに連絡もよこさず現れない老二へのいら立ち、明日からは新しい道を行かなければならない、でもそれには最後のゲームをしないと進めない…新しい道を行く不安、否定的な思いが来ない老二のせいにする彼ら…
舞台になっている部屋は20階建ての19階、防音が悪く、エレベーターが動く度に聞こえる大きな音。それが聞こえる度に今度こそ老二が来たのかも?と色めき立つ彼ら…ある時間になるとエレベーターも停止するので、そうなると老二は長い階段を昇らなければならないことになります。人物たちがそれぞれの思いを語る中、別の部屋の住人が水洗トイレを使う音が現実に引き戻します。
「俺たちの世代は学問がない」というセリフ…上演前の説明にもありましたが、登場人物たちは青少年期に文化大革命の影響を受け、その後の「改革開放」の世相にも乗り切れず、取り残されている…原文では自分たちを魏晋時代に隠遁した文化人「竹林七賢」に例えて「竹林四閑」と言っているとのこと。でもその竹林?の暮らしも終わろうとしています。
この戯曲は2000年初演…そういえばそのころ、つまり世紀の変わりめには日本でも何かが否応なく終わり、否応なく新しい何かの中に放り込まれる、そんなことがあったように思います。私個人にしても事務中心から接客の仕事に変わり、そのせいで…精神を病み、しばらく生きた心地もしなかった…そういえば私にも老四にとっての老大のような人がいたけどその関係が変わったのもこのころ…
閑話休題…このメンバーでの最後の麻雀が終わったらこの街を出るという老大…麻雀と易経を極めたいという老三…
老二は老大には昔行かされた農村へ戻って「地主」になるように、老四には解放軍に入るのがいいと言ったと…。ありがたいアドバイスのようで、自分以外の人間に自分の進路についてコメントされるつらさ…それによって変化する関係…
老二が来たら始まる最後の麻雀、それによって進める新しい世界…老二が来るのを待ちわびているようで、でも彼らは老二が来ないのもわかっている…なぜなら老二は既にこの世にいないから…しかし…ドアをたたく音が…
でも応対に出ても誰もいない…空耳かと思うとさらに大きな音で…
扉をたたく音がして、でも出てみると誰もいない…これも変わってゆく世界の中でいろいろと言われることをしてみたり、言われるところへ行ってみたりしても問題が解決しない社会のたとえ?
政治体制のちがいもあって日本人にはわかりにくい面も含めて、この戯曲が上演されたことはすばらしいことだと思います。中国に限らず、日本以外の国を理解し、幸せな交流をしていくために演劇や音楽を鑑賞することは
大きなヒントになりますから。