『ミス・マープルの思い出話』 『黄色いアイリス』(ハヤカワクリスティー文庫2004年)より | 実以のブログ

『ミス・マープルの思い出話』 『黄色いアイリス』(ハヤカワクリスティー文庫2004年)より

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早川書房サイト

 

 

 

先日訪れた上田の駅前通りでジャーマン・アイリスが美しく咲いていたので
今月の本レビューも『黄色いアイリス』からにすることにしました。夕方の写真なのでちょっと暗いのはご容赦ください。


この短編集唯一のマープルもの。ミス・マープルが一人称で語るミステリー。ほんの少しの常識で自分よりずっと頭のいい人たちを困惑させた難事件を解決した思い出話。

 

ある夜の9時頃…ミス・マープルが法律や財産の面をまかせていたペサリック氏がローズ氏という40歳前の紳士を連れてやってきました。ローズ氏の様子を見て並々ならぬ問題を抱えていると思うミス・マープル。ローズ氏の方は不機嫌でなんでこんなばあさんのところへ連れてこられたのかわからない…でもこのままでは彼は絞首刑に…ミス・マープルも報道で知っていたバーンチェスターのホテルで起きた事件、その被害者こそローズ氏の妻だったのです。


事件の夜、憂鬱症ぎみだったローズ夫人は夕食後すぐ寝室へ入り、ローズ氏は隣室で古代の火打石についての本を執筆。十一時頃、就寝前に妻の様子を見に行くとペーパーナイフとして使っていた短剣で刺されて絶命していました。

 

ローズ夫人が寝ていた部屋にはローズ氏の寝室に通じるドアの他に廊下へ出るドアもありましたがそのドアも窓にも内側から鍵がかかっておりました。そしてローズ氏が書いていた部屋を通って被害者の部屋に入ったのは湯たんぽを持ってきたメイドのメアリ・ヒルだけ。この部屋の周りにいた客や廊下で仕事していた電気工事人も出入りしたのはローズ氏以外に出入りしたのはメイドだけと証言。勤続年数が長く、証言にも怪しいところがないメイドの犯行とは考えにくく、ローズ氏は容疑者となってしまったのです。

 

ローズ氏の弁護を担当する王室弁護士マルカム・オールド卿は精神的に不安定だったエイミー・ローズ夫人の自殺とすることで夫を助けようと考えますが、夫から見ても妻は自殺するタイプに思えません。

 


ミス・マープルはローズ夫人の人柄とホテルに滞在していた客の中の人物に注目して真犯人のヒントを相談者に与えます。



以前にこのブログに取り上げた『鏡は横にひび割れて』と似ているのは被害者の性格が事件につながっていること…自分の身辺に起こった出来事にたえず粉飾を加えている、ロマンティックなほらふき…バナナの皮をふんですべったことが危うく死ぬところだったとなってしまう…彼女がこういう言動をする背景は周囲の関心をひきたい、特に夫からの愛情を得たいからなのでしょうが、それがうまくいっていなかった、今一つ気持ちが通じ合わない夫婦だったことが読んでいて感じられます。結婚前に起きた、夫人をおびえさせていた出来事も話していたのに、その恐怖と不安を受け止められなかったローズ氏は感じのいい賢い娘さんと再婚して赤ちゃんが生まれ、ミス・マープルに名づけ親を頼んでハッピーエンド?

現場のクラウン・ホテルには夫に守ってもらえなかったエイミー・ローズの亡霊が出たりしないといいのですが…クリスティー文庫は2004年初版の時、マープルものは全て入手するつもりでこの『黄色いアイリス』も買いました。当時は何とも感じませんでしたが、今、再読してみると望んでいたものを得られないまま死んだ被害者のつらさを感じます。ローズ夫人と似たところのある人と現実で知り合ったせいでしょうか。…

それにしてもペサリックとローズがマープル邸を訪ねたのは夜の9時。
日本人にとっては複雑な用件で老婦人を訪問するにはいくらか時間がおそい、寝る時間?…そしてミス・マープルは客間の暖炉に火を入れるのはもったいないからと食事室に二人を通し、メイドに命じて出したのはチェリー・ブランデー。興奮ぎみのローズ氏にはノンカフェインのハーブティーかなんかの方が良かったのではないかと思ってしまいます。

ともあれ、ミス・マープルの応接間で紅茶を飲んでいる気分で楽しみたい短編です。

 

ブログ中の写真はアイリスは上田駅前通り、バラは通っている耳鼻科近く、

アマリリスは近所の公園のものです。