『半七捕物帳(四)(光文社時代小説文庫1986年)より『正雪の絵馬』
年末年始のお休みの初日、銀座に出かけました。暮れに『ウルトラマンA』の美川隊員を演じられた西恵子さんの喫茶店、蕃が閉店すると聞いたのでご挨拶のために訪れたのです。幸いにもマダムと少しお話ができ、ブレンドとミルフィーユを味わいました。
その後、何故か神田明神にお参りしました。神田は長く働いた地なのでその氏神様に一度参拝しようとふと思ったのです。
仕事と父の眼病のことを祈るために500円の祈願絵馬を買おうとしたのですが、「祈願絵馬は暮れには売っておらず、新年からとのこと」。500円の縁結び絵馬か1500円のキャラクター絵馬のみ。
キャラクターもガンダムとかキティとか私の知っているものであれば買いますが世代がちがってまるきり知らないキャラでした。仕方がないので縁結び絵馬に我が家にお金と縁ができるようにと書きました―今までお金に縁が薄かったので(笑)
そんなわけで岡本綺堂の『半七捕物帳』に『正雪の絵馬』という話があるのを
思い出し、お正月に再読しました。
参考サイト
https://www.amazon.co.jp/半七捕物帳〈4〉-光文社時代小説文庫-岡本-綺堂/dp/4334732445
私が持っている本はアマゾン販売中のものとカバーがちがいます。
絵馬は今は神社か寺でしか売っていませんが、半七老人が語るには活躍した幕末のころには「絵馬は流行していて絵馬専門の絵馬屋という商売もあった」とのこと。また切手やコインを集めるように絵馬を蒐集する趣味の人々も少なくなかったとのこと。絵馬屋で買うだけでは満足できず、神社に奉納されているものを物色してもらい受けたり、あるいは無断で!引っぱずして来たり。
和田村(今の杉並区)の大宮八幡に由井正雪が奉納したと伝わる有名な絵馬がありました。横二尺四五寸、丈一尺三四寸といいますからかなりの大きさ。
絵馬蒐集家がコレクションを披露する集まりで皆を驚かせたのは油屋丸多の主人多左衛門。まさにこの正雪の絵馬を見せたのです。後で家に押しかけて
入手方法を尋ねるコレクター仲間についついそれを話してしまいます。
「ここだけの話」では済むはずはなく、お城坊主の次男万次郎に丸多はゆすられることに。
人が神に祈りをこめて捧げた絵馬を盗んだりしたら、それだけでもばちが
当たりそうですが、それがあの由井正雪、つまり幕府転覆を企てた謀反人の絵馬であることがこの物語のスケールを大きくしています。
前半は絵馬蒐集という道楽にのめりこんだ多左衛門とその家族の
悲劇。後半は多左衛門をカモにした絵馬屋と女絵師、
万次郎に恋する絵馬屋の娘の愛憎劇。短編ながら読み応えがあり、
『半七捕物帳』の中ではサスペンスとしても楽しめるほうだと
思います。
著者の岡本綺堂は子供のころからいろいろな人形を集め、中年までには
かなりの数を所有していましたが、関東大震災でコレクションを失いました。
それでがっくりした思いを『人形の趣味』『震災の記』などに綴っています。
そんな綺堂ですから趣味で身を亡ぼす者の心理をきめ細かく描くことが
できたのではないでしょうか。
21世紀でも趣味が高じて善悪の判断を失い、高額のフィギュアを盗んだ
などという事件が起こります。そういうふうにならないように
蒐集趣味のある方にお勧めの物語です。私もオタクだといわれますから
気をつけなくては。


