2019年の観劇より―劇団昴『他人の金』
お正月のお休みにすることと言えば…どうしても前年のやりのこし…
2019年6月に観た舞台を今頃…本当は観劇後、すぐに書くべきなのでしょうが時間がとれなかったり、心に受けたものをなかなか言葉にできなかったり。
劇団昴サイト
http://www.theatercompany-subaru.com/public_2019.html
参考サイト
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/255806
『他人の金』は登場人物わずか5人にも関わらず、構成にむだがなく
企業買収という大きなテーマを私のようにあまり知識のない人間にもわかり
やすく描いた戯曲。翻訳劇のためか長台詞が多く、演じられた俳優の皆様の
力量には脱帽いたします。
親から引き継いだ電線メーカー、ニューイングランド・ワイヤー・アンド・ケーブル社を守ろうとする老会長アンドリュー・ジョーゲンソン(金子由之)、その会社を乗っ取ろうとする資本家ローレンス・ガーフィンクル。現在のケーブル社の社長ビル・コール(石田博英)はジョーゲンソンに恩義を感じてはいるものの血縁ではなく、雇われなので微妙な立場。長年ジョーゲンソンの秘書を勤め、密かに彼を愛してきた秘書のビー・サリバン(一柳みる)は都会で弁護士になっている娘ケート(米倉紀之子)に助けを求めます。ガーフィンクルとケートの丁々発止のやりとりの後、ついに天下分け目の株主総会が開かれます。
「額に汗して生まれた金こそ価値がある」、「今使われているワイヤーが
いずれ老朽化してまた需要が増える、その時にはこの会社が必要」と語るジョーゲンソンの言葉には説得力があります。「マネーゲームで湧いてくる金」を武器にするガーフィンクルよりもこちらに義があるのです。しかし結果はコールの寝返りもあり、会社はガーフィンクルのものに。
会社を失ったジョーゲンソンは2年後に死去。そして意外なことにガーフィンクルとケートは結婚します。このカップルの成り行きについて一緒に鑑賞した友人に「どう思う?」と訊かれてその時は答えが見つかりませんでした。
しかししばらくたって考えてみると不思議ではない成り行きかも…と思えてきました。
私としては自分と年齢が近く、長く同じ会社で働いてきたという点が共通している登場人物の秘書のビー・サリバンが気になります。(私は秘書ではなく、勤め先は買収屋が見向きもしない零細企業ですが)。
若きジョーゲンソンが社長業を継いだ時から愛しさを感じてきた彼女が一人でガーフィンクルを訪ね、コツコツとためてきた金とひきかえにこの買収から手をひいてほしいと頼みます。しかしガーフィンクルは「寡婦の金などほしくない」と拒むのです。ガーフィンクルは体型も太めで振る舞いもふてぶてしい憎々しげな人物として描かれますが、金に汚いだけの守銭奴ではないことがこの場面でわかります。
愛する人のために貯えを捧げようとするビーの姿は美しく気高く…も見えるのですが、娘のケートの立場からみるとそういう「情」の部分で時代に立ち向かえると思っている母親の考えがあまりにスケールが小さく、いらだちを感じていたのではないでしょうか。
古い情緒の世界にいる母への反発が ケートが新しい時代を運んできたガーフィンクルへ心が傾いていくきっかけになったのかもしれません。
近年、勤め先の世代交代、50年近く同じ地にあったところからの移転などを
経験して私にとってとても考えさせられる観劇でした。
