国木田独歩『鹿狩』(講談社文庫『武蔵野』より
母は危ないと言うが、父は勇壮活発の気を養うために行けという鹿狩に行った少年の話。
鹿狩は日帰りではなく、船の中で一泊して「さの字浦」に行ってそこにある漁師の大きな家に迎えられ、どうも地形的には岬となっているところでの狩。メンバーは銀行の頭取や判事など土地の上流階級。
その中で少年が好きになったのは一番声が大きく、元気でおもしろそうなの大酒飲みの「今井の叔父さん」。
少年は仕留められた鹿を気の毒に思いますが、
今井の叔父さんと弁当を食べた後、眠気をおぼえていた時、現れた鹿を叔父さんの鉄砲で仕留めます。少年の冒険的行為をほめる今井の叔父さん。帰りの旅で
判事さんが「渓流の岩の上に止まっていた小さな真っ黒な鳥」を撃って今井の叔父さんにプレゼント。少年は不思議に思います。
後日、少年の家にもたらされたのは今井の叔父さんの一人息子の自殺の知らせ。その息子鉄也さんは四、五年前から気が狂って廃人になっており、狩の帰りに
得た黒い鳥=岩烏も狂気の薬だったのです。そして少年は今井の叔父さんの養子になります。
前回の本レビューで書いた『源叔父』は子供を失った男がその代わりを得ようとして失敗するお話でしたが、少年とその養父はうまく行ったようです。養父の十三回忌に懐かしげに鹿狩りの思い出を話すのですから。でも…
少年が今井の叔父さんに気にいられたのは初めての狩、初めての鉄砲で大物を仕留めたから。実子の鉄也さんの死因は鉄砲腹、つまり自分の腹を鉄砲で撃って―他愛のない思い出話のようでいて、どこかに暗い、悲しみの影を感じる短編です。