平岩弓枝 ハサウェイ殺人事件 集英社文庫 1982年
平岩弓枝の名は子供の頃、祖母が視ていたホームドラマの脚本家としておぼえました。その頃は脚本家というのがどういう仕事なのかも知りませんでしたが。
以前に『御宿かわせみシリーズ』のどれかを読んだ記憶があるのですが、主人公カップルの人格がいかにもテレビドラマの主役風に理想化されていて、また彼らの情愛の描写がねちっこくて個人的には好きになれませんでした。テレビドラマで有名な人の作だからいたしかたないかとも思いますが。
この著者の現代ものを読むのは初めてかもしれません。現代ものと申しましても昭和30~40年代に書かれたものなので時代を感じさせるところがあります。
六編の短編がおさめられていますが表題作はハサウェイという人が殺されるのではなく、
ハサウェイというデザイナーのファッションショーでタキシードの似合うイケメンモデルが楽屋で配られた麦湯の青酸カリで死にます。ファッションショーの世界などまるきり知りませんが21世紀に入ってからはどこの業界でもあまり麦湯を配ったりしないでしょう。飲み物はたいていペットボトルで各自用意。
裏切った男への復讐、世間に知られたくない過去、一人の男をめぐる姉妹の確執―モデルと見まごう美人刑事、タレントとしても活躍する染色家、清純派スターと助監督の情事、女にだらしない病院長―表題作と『夏の翳』『オレンジ色の口紅』『右手』は筋立ても登場人物もテレビドラマ風。これもそういうドラマを制作する側の人の作だからなのでしょう。
この本の中で私が好きなのは『石垣が崩れた』。売れっ子作詞家と流行歌手の夫婦が軽井沢の別荘でガス漏れ事故で爆死。その死の背景には太平洋戦争中の東京で子供の身に起きた悲劇が浮かんできます。
『青い幸福』は戦争未亡人である姑と才女タイプで主張の強い嫁との確執がついに犯罪に? 姑が大切に育てていた草花を嫁が「雑草」と言ってのけたり、留守中に若夫婦が勝手に引っ越して別居してしまったり…こうした家庭に起きる雑事を通じて嫁姑の価値観、意識のへだたりを描き出すのはさすがにホームドラマの名手。昭和48年に書かれたとのこと。21世紀の今ならこの嫁のような女性は最初から旦那の親とは同居しないでしょうね。
