松本清張『隠花の飾り』
隠花、つまり日陰の女、何かではずれをひいてしまった女性たちを
描いた短編集。 殺人が出てくるお話もありますが、推理小説と
言うよりは登場人物たちの心理描写を味わう本でした。
裏表紙のキャッチコピーは「愛を求めるあまり転落してゆく女たちを描く
傑作短編十一編」 この言葉にぴったりなのがいわゆる不倫の愛の葉てを
描いた『足袋』、『百円硬貨』、『遺墨』。
端然として威厳を感じさせる謡の師匠が商事会社の総務部長への
想いを断ち切れずストーカー風になってしまう『足袋』
愛する男の妻に離婚を承知させるための金3000万円を届けに行く伴子。
ところが降りた駅で男に電話するための小銭がなくて追い詰められる
『百円硬貨』。1万円札しかなくなってしまった理由が男を喜ばせるために
シューマイを買ったからというのが切ないですね。 携帯がなく、
出先では公衆電話を使っていた時代のお話です。
『お手玉』 かわいい題名ですが、地方の温泉街で起こった男女のもつれに
よる殺人のお話。特に謎解きがあるわけでもなく、ワイドショーの再現ドラマ
のように顛末が語られているだけなのですが、それでも面白く読めてしまいました。
年老いた男性と女ざかりの女性とのカップルも登場します。60年代、戦火のベトナムを旅する金髪の女性の恋を日本人たちの目から描いた『北の火箭』。
『箱根初詣で』
年末年始の温泉と初詣の旅の途中で偶然、亡くした夫の同僚の妻絹江を見かける慶子。十五歳年上の夫弘吉は「死んだ妻の前夫が、一流商社の若いエリート社員だったことにいつまでも嫉妬を持ちづづけていた」。 慶子と絹江の夫は出張先のニューヨークで交通事故死―というのは表向きだけで、
エリートにふさわしくない事件で命を失っていた。 行きの飛行機の中では
連帯感を持っていた3人の未亡人が帰りの飛行機では険悪に―甘酒を飲んだり、餅花を買ったり、見た目は楽しげに箱根を旅していながらも人生の苦さをかみしめるヒロインの心理。
個人的に一番好きなのは作家を目指す主婦の物語『再春』。 中央の新人賞を得た和子は郷土史会の会員仲間川添菊子にに新作の題材について相談します。 菊子はこの地方の信望厚い名流夫人。菊子から聞いた話で
和子は会心作を書きますが、なぜか盗作だと非難されることに。
清張はあとがきで「三十枚でも、百枚にも当たる内容のものをと志向した」
と言っております。確かに短編でありながら、女性たちの人生の流れも
見通せるような小説集でした。
