ホール内で話すには、僕の方が意心地悪く、喫茶店で話そうと誘うも、近所に喫茶店はなさそうだった。
それで昨日に引き続き、知人の車の中で話すことにした。
僕がここで知人のことを彼女と呼ばないのは
二人がまだ恋愛の域に到達すらしていないからだ。
だから僕自身が独りよがりに彼女と言うなんて、とてもとても…
知人は時間がない中で、時間を作ってくれたのは、僕が昨日自分を大事にしてくれて嬉しい故の、その気持ちに応えてだった。
二人の精神的な絆が強まった瞬間だった。
だけど…僕らは車内でキスすることなく、今回もプラトニックなまま別れた。
駅での別れ際、お互いがまた逢うことには合意した。
だからフラれたフったとは全く違う。郷ひろみの
逢えない時間が愛育てるのさ…
の、よろしく哀愁を小声で駅のホームで口ずさみ、涙が出そうなのを僕は必死に我慢して…
そうして博多駅について時間はまだ2時間近くあるのに待合室からとうとう動かずだった…
いや、思い出に耽って動けず、が正しい表現になるのだろう…
もちろんそれは知人を想ってだったが、ランマスも同じくらい脳裏に過った。
どうやらランマスとは最後の1台になるまで僕も戦いを続けることになりそうだ。
それが例え僻地のホールであっても、自分が納得する結果を求めて僕は挑み続けるだろう。
ランマスは僕にとって、忘れていた僕の闘争本能を甦らせた機種と言えるからだ。
昨日がランマスとの最後の戦いのつもりが、やはりサドンデスになった。
ランマスは最後の1回転で何が起こるか分からない機種ですからねぇ。
ランマスの開発チーフプロデューサーの謙遜の中に、自信の籠った物言いを思い出した。
そう、知人とはお互いの気持ちが通った時点で、僕の全てを話した唯一の人。
僕が高校生の時に冤罪事件に巻き込まれた話を始め、身障だった父と妹の話もしたし、僕がなぜ麻雀屋をすることになったのか?その訳も、それこそ今に至るまで何もかも…
誰にも話したことのない僕の過去を知人にだけ、ありのまま全部話していた。
そして知人には先にジャッジしてもらい、その上で知人から逢ってもらえた現実…
心は通った…
だけど…
それでも僕の脳内は安心の花園にはなっていない。
むしろ今まで以上に冷静になっている。
そして…最後の1回転でいつ知人との仲がご破算になるかに怯え、未来は荒野が佇む景色。
そう、いつかも話したように、それが僕の心情なんだよ。
ランマスに魅いられた男は、自分が滅ぶのを承知の上で全てに挑み続ける。
そう、ランマスの最後を見届けるのも、僕の仕事なんだと言い聞かせて…