漆たちの住むアパートはかなり都心から離れた郊外であるためか、ほかに入居者はなく大家も趣味でやっているだけだから、といっていたし、多少騒がしくても問題はないはずだ。
漆たちの住んでいる1室は単身者用らしく二人ですむにはもちろん手狭だ。
二人で過ごしているのにもちろん理由はあるのだがそれはまた別の話だ。
*
「早くそれに着替えて布団片づけろ。今日始業式なんだろ?」
未だに一人で起きることのできない中学3年生…世間的にどうなのだろうか…
頭の中で苦笑しつつ、さっさと布団を片してネクタイの裏に1枚の黒い羽根を差し込む。
「烏丸~。もういいよな?」
衣擦れの音も止み、ばふっという布団を折り畳む音も聞こえたし、きっと大丈夫だろう。
間仕切りをさっさと取り払ってしまうと、床にお姉さん座りした烏丸が制服姿で目をゴシゴシこすっていた。
「ほら、眠いのもわかるが、顔洗って、食卓の準備。おまえの仕事だろ?」
その言葉にいつも通り烏丸がピクンと反応を示した。
(相変わらず、扱いやすいな…)
「お仕事…しなくちゃ…」
烏丸は漆からいくつかの”お仕事”を命じられている。
基本的にそのお仕事には忠実で絶対にこなそうとする。
直接漆から命令されたときも同様の反応を見せる。(ただし、寝るときに服を着なかったりなど、命令やお仕事で縛れない行動は存在する。)
ゆっくりではあるが動き始めた烏丸から目を離す。
今朝は朝食も昼食作らなければならず、大変忙しいのだ。