満月から八日前後過ぎた頃、月の出は徐々に遅くなり、夕方には月の姿が見えなくなってきます。
 その代わりに日の出頃の時刻、西の空に月の残像が見えます。
 この月を「残月」と呼び、右半分が欠けた半月「下弦の月」です。
 それ以降、月はその姿を隠します。
 か細い光は、次第に闇の中へ消えてゆくのです。

 昔の人は、欠けてゆく月は、衰弱や喪失感を連想するため祝福する行事は行わなかったそうです。
 この時期の月の影響は、郷愁や過去の回避願望を強め、私たちの感情はモラトリアムの渦に引き寄せられます。
 でも、欠けてゆく月はネガティブな存在ではありません。
 月のサイクルの中でも極めて意味深いプロセスです。
 作物を収穫するように、それまでに積み重ねてきた経験や知恵に成熟をもたらしてくれるのです。
 将来に向けて「残すべきものは何なのか」と、見極める知恵を授けてくれるのです。
 闇の中に月の光が消えて、生まれ変わる月を待つこの時期は、闇とはひとつの世界の終わりであり、同時に新しい世界の始まりであることを教えてくれます。
 古来より果てしなく続くこの月のサイクル、月の運行は、人生のサイクルともリンクしています。このような月の移ろいは、私たちに時間の大切さを教えてくれているのです。