BASIC

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人を恋する気持ちって、きっと昔から変わらない。

 
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ひたすらひたすら
言葉をつづりたい自分との
対峙
さっき電話で話したとおり、今日の夕食はパエリヤにしたんだ。
昨日買っておいたシーフードがたくさんあったからね。
君も知ってのとおり僕はシーフードがどちらかというと苦手なんだけど、パエリヤだけは別なんだ。
だから安いシーフードが手にはいると、時々作ってる。

僕の作るパエリヤはいい加減だからレシピはなくて。
それにパエリヤパンっていうの?あの薄くて平べったい鍋。
あれもないから、取っ手が取り外しできるフライパンでいつも作るんだ。
それから昔ふたりで一緒に買ったガラス蓋。
あの蓋の重さがちょうどよくて、うまくパエリヤが炊けるんだよ。

つくり方は本当に適当でね。
まずたまねぎを半分とか1個、大き目のみじん切りにして、それをちょっと多いかなってぐらいのオリーブオイルで炒める。
これは弱火。
にんにくがあったらみじん切りにしてそれも投入するんだけど、今日はなかったから入れなかった。
それからお米を適当に入れる。
お米は計ってないから正確な量はわからないけど、たぶん3合ぐらい、って感じ。
それからオリーブオイルがお米に廻るまで炒める。
この時にお米をあんまりいじっちゃいけない。
お米からでんぷんが出て粘るからね。
ここまでは中火から強火。
お米がオリーブオイルとなじんでなんとなく透き通ったら、次に水を入れる。
水の量はお米の上に1.5センチから2センチって感じ。
これも計ったことがない。
少ないと炊けないけれど多い分にはまあどうにかなるから、結構ざばざば入れる。
それからホールトマトを半缶と赤ワインとマギーブイヨンも入れる。
マギーブイヨンは2つでも3つでも、気が向いたら4つでもいい。
今日はなんとなく薄味にしたかったから2つにしてみた。
それを全部入れたら全体を鍋底からかき回すんだけど、この時に必ず鍋底をこするように結構しっかりとかき回すんだ。
そうしないと焦げちゃうからね。
後は平らにしたお米の上にシーフードを並べて、ガラス蓋をして強火で5分+弱火で15分炊くだけ。
弱火で15分たっていい香りがしてきたら、お米の固さをチェックして出来上がり。
いい香りがするのは炊けた証拠だからね。
ずいぶんいい加減だけど、失敗はしたことないよ。

ああ、ごめんね。
なんだろ、話がずれてる。
別にパエリヤの作り方を説明したかった訳じゃないいんだ。
君にこんな手紙を書こうと思ったのはね。
うん、なんていうのかな。
さっき電話で言ったことは冗談ではないんだよって、ことなんだ。
全然パエリヤと繋がってないよね。
ごめんね。
さっき電話でいったことは、ずいぶん前から思っててさ。
もういつぐらいからだか忘れちゃったぐらい前から、なんだけど。
ずっと思っててさ。
ただ、言えずにもいたんだ。
君にわずらわしい思いをさせたくなかったし、君に否定されるのが怖かったのもあるしね。
ウザイとか。
重いとか。
まあ、そういうことを言われるのが自分で耐え切れなかったんだろうね。
前にも何度かそんな話をして、君に断られてるし。

それでもやっぱり言ったのは。
何でだろうね。
今日車を走らせていたら真正面に見えた夕陽がすっごくきれいでね。
日が暮れてからでてきた満月もそれはそれはきれいでね。
なんていうんだろうね。
そんな何気ない気持ちよさをね。
君とずっと共有していきたいと思ったんだよ。

僕が言ったことで君に迷惑がかかるだろうとは思った。
君が僕を捨てることも考えた。
過去にあったことも考えた。
君が出した過去の答えも。
でもそれでもやっぱり、僕は君に伝えたかったんだよ。
電話でする話じゃないし、まして電器店で買い物途中にする話でもないってことは百も承知だったけど。
それでもやっぱり。
どうしても。
今日伝えたかったんだよ。
「結婚しよ」
って。
伝えたかったんだ。
でもそれは僕の我侭だよね。

今がね、不幸せって訳じゃないんだ。
むしろ君といられることが僕にとっては本当に幸せなことで。
じゃあなんでその幸せがなくなる可能性があることを、僕は君に言ったんだろうね。

君にこうして手紙を書くのは2度目だね。
一度目は旅先から書いた手紙だったけど、君のところには届いたのかな。
僕にはもう知るすべはないけど。
この手紙も、出すかどうか迷ったんだ。
僕の一方的な思いを更に押し付けるような気がしてね。
でもやっぱり、だすことにしたよ。
君とまた逢える日がくることを祈ってる。
死臭のようにただようあきらめと
すがりつきたい
希望。
ワタシタチの言葉。
すれ違い、見つけ、励まされ、泣き、形ない空間を漂う。
ただいえるのは。
ワタシタチが言葉を通して繋がってきたということ。
見ることのできない時間という大きな流れの中で、形ない言葉でつくられた形ない絆はそれ故に強固でそれ故に揺らがない。
少なくともそうでありたいと。
切に願う。
鏡面の如く凪いだ川面。
矢のように進むフォア。
淡雪と見紛う桜色。
「お茶でもどう?」
ひとことが
言えずに終わる
バレンタイン。
いつもより1時間早く目が覚めた。
外は夏空で、今日も暑くなることを予感させた。
彼と会うのは2週間ぶりで、それだけで遠足前の小学生のように早く目が覚めるなんてと、朝から苦笑する。

彼と会う時間は決めていなかった。
それでも、やはり同じように早く目覚めたという彼と、いつもの駅で7時半に落ち合った。
週末の駅には通勤客はおらず、どこへ行くのだか観光バスが連なっていた。
彼との間に今日どこへ行くという目的はなかった。
「抱きたい。」
彼のストレートな言葉に
「うん」
と頷いて、手をつないだ。

途中で買ったサンドイッチとコーヒーを飲んで、部屋の鍵を閉めた。
洗面台で手を洗っていると、彼が私を抱きしめた。
背の高い彼はかがんで私を抱きしめて、
「会いたかった」
と耳元でささやいた。
洗面台の大きな鏡に、抱き合う私達が映っていた。

彼の手で、ベッドへいざなわれた。
彼は私をベッドに横たえ、私をのぞきこみ、そっとふれる優しいキスをした。
「会いたかったよ。」
彼の言葉にうなずいた。
「会いたかった。」
ずっと溜めていた気持ちを言葉にしたら、涙が溢れた。
涙とともに気持ちも溢れ
「泣いちゃえ」
という彼の言葉に、私は声を上げて嗚咽した。

どれだけ彼に会いたかったのか。
彼と会えない時間私はずっとその思いに捕らわれていたけれど、自分の気持ちに気付かないふりをしていた。
会えない時間に会いたい気持ちと向き合ってしまえばますます辛くなることを知っていたし、その上それは感情をコントロールできないことを露呈することでもあり、自分を変えたいと思っている私にとってマイナス点でしかなかった。

しばらく泣いた私は彼の胸から顔を離し
「ごめんね。」
と伝えた。
彼が頬に付いた涙をそっと拭ってくれる間、私はじっとしていた。
それから彼は私の目を真っ直ぐに見て
「愛してる。」
と。
そう言った。
「うん。」
私は小さくうなずいて
「愛してる。」
と。
やはり真っ直ぐに彼の目を見ながらそう言った。
愛してるの言葉には、たくさんの想いが隠れて凝縮している。
たった5文字の言葉にのせたあの想いは、彼に届いただろうか。

たくさんのキスをした。
「服を脱がせたくないな。」
そう彼は言った。
「脱がせるのはもったいなくて。」
と彼は笑った。
それでもふわりとしたスカートをたくし上げて彼の手が滑り込み。
やがて私だけ服をすべて脱がされた。
「私だけ脱ぐの?」
恨めしげに言うと
「だって俺のものなんだろ?」
彼はちょっと強気に言った後、笑った。

体と心は繋がっている。
心が彼を求めていたように、体も彼を求めた。
水音が滴る場所に、彼は自らをしずめた。
大きな彼を受け入れるとき、私はいつも吐息が漏れる。
それは甘い吐息であり、奥まであたるきつい吐息であり、彼と繋がった安堵の吐息でもある。
汗ばんだお互いを抱きしめあうと、声が溢れた。
彼が私の中でいくのを感じる。
それから。
今度は私がいかされる。
滴り落ちた彼のものと私のもので、彼の指はきっと濡れているのだろう。

お互いを求めて繋がった後、いろいろな話をした。
いつもより、もう一段階深い話をしたように思う。
どうしたら嫌いになる可能性があるか話した。
彼は、私が他の男を好きになったら必ず言うようにと、私に約束させた。
もし万が一そんなことがあったらという条件付で、私はその約束をした。
彼は自分よりいい男はたくさんいるという。
私が彼といることがいいことなのかどうか迷うという。
でも、彼を選んだのは私だ。
私が彼を好きなのだ。
2年の時間で感じた彼のすべてを好きだから、一緒にいたいと思うのだ。
だから私はその気持ちを、自分の言葉で、彼に伝えた。

私が彼を嫌いになるというのは、ちょっと思いつかなかった。
もし彼が他の女性を抱いたとしても、それが私から離れる原因にはなりえないだろうと思う。
怒って泣いて哀しくなるだろうけれど、だからといって自分から別れるとは言わないだろう。
言わないというより、言えないのだ。
自分から彼の手を離すことはもう無理だと、自分でわかっている。
彼が他の女性を抱くとか、その先のことがあっても、自分から手を離すことはできないと思う。
彼にそう伝えて、私はもう一度泣いた。

彼の夏休みのこと。
車のこと。
仕事のこと。
家族のこと。
共通の友達のこと。
書いた言葉のこと。
知り合った頃のこと。
切った髪のこと。
白いTシャツのこと。
苦いコーヒーのこと。
今までに話した彼の言葉のこと。
私が落ち込むこと。
ベクトルのこと。
嫌いなことを言わないこと。
そんな話をとめどなく、何時間も何時間も話した。

部屋を出たときは夜の10時半を過ぎていて。
ふたりで中華を食べに行った。
この前私が食べた豚骨ラーメンの話をした。
彼推奨のこのお店を、元夫は私に推奨しなかった。
「年をとると味覚が変わるんだよ。」
彼はそう言って、頭ごなしに嫌いだと決め付けずにいろいろなものを食べるんだよと、私に言った。
そういえば元夫にも同じことを言われていたっけと。
ずっと昔のことを思い出した。

中華を食べて、ビールを1杯ずつ飲んだ。
中華は思っていたほど美味しくなく、油っぽかった。
ゆっくり食べたせいで料理が冷めたことが原因かもしれない。
芥子の中に酢が入っていて、ふたりでちょっと驚いた。
彼は眠そうで、私は彼がこのままここで眠ってしまってもいいのにと。
こっそり思った。

遅い夕食の後、ちょっと強引に、今日は私が彼を送っていくと主張した。
電車はもうなかったし、歩いて帰れるほど近い距離じゃない。
走りなれた道の深夜のドライブは嫌いじゃなかったし、何よりももう少し一緒にいたかった。
夏の土曜の夜は、いつになっても気温が下がらなかった。
外気温が27度であることを路上の表示が告げていた。
夏休みの土曜の夜はいつもみかけない人種が多かった。
それでも人がいないところに車を止めて、彼と私はもういちど抱き合った。

少し眠ったようだった。
「暑い・・・。」
そう言って彼が目覚めた。
びっしょり汗をかいていた。
頭がくらくらすると、彼は言った。

いつもの場所で彼と別れた。
「ここでいいよ。」
といわれた場所に車を止めた。
キスと。
いつも交わすふたりだけの別れの挨拶。
「また会ってね。」
と、言葉を交わした。
「好きだよ。」
彼はいつもの彼独特のイントネーションでそう言ってくれた。

短い未来を幸せに積み重ねることが、道を進む楽な方法だから。
そう言った彼の言葉を思い出しながら家へ向かった。
自分の幸せは自分でしか作れないのだ。
笑って過ごそう。
そう思った。

少しでも前向きになれたら。
私にも彼にもそれはきっとプラスだ。
夜が明ける前のほんの少し前、私はベッドにもぐりこんだ。
外では鳥たちのさえずりが聞こえはじめた。
月明かりのした船を漕ぎだそう。
明るい月はあなたとともに暗い海を照らしてくれるから。
そう、どこにでも行ける。
月へ意識をあわせる。
月を受け入れ月で満たされる。
月光の下シンクロする。
期待するのはやめよう。
実数値と期待値の差。
期待値を設定しなければ落差は少なくてすむかもしれない。

原因と結果。
手放したもの、手からこぼれ落ちたもの。
そのすべてが自己由来。

もしも泣いて乗り越えられるならば、たくさん泣こう。
死ぬことはしないし、言わない。
それは約束だから。