『君の名は。』『天気の子』の新海誠監督の最新作
『すずめの戸締まり』
先週金曜 11/11に公開され、私も初日に観に行きました
そして翌日11/12(土)には「新海誠監督ティーチイン」という公開記念舞台挨拶が複数の劇場であり
私はMOVIXさいたまで行われたイベント上映回に参加してきました
で、すぐにも感想などを書いておきたかったのですが
この週末は何かと忙しくブログ更新もままならず
少し時間が経ってしまいましたがようやく映画の感想などまとめておきたいと思います
プロモーションコピーには
「新海誠 集大成にして最高傑作」
とあって
その宣伝文句を私の場合は額面通りに、
『君の名は。』や『天気の子』だけでなく
本作はそれ以前の新海作品をも凌駕する感動作なのかな?と捉えていたのですが
この作品を観てみるとどうやらそういう意味での「最高傑作」ではないのだなと
個人的にはそう感じました
これは各種インタビューの中で監督が話されてますが
『すずめの戸締まり』は東日本大震災から10年を経て
また新海監督の年齢・キャリア的にも色々な経験を重ねてきた集大成として今
ようやく描き上げることが出来た作品ということで
来場者プレゼントの冊子の中でも
「すずめの戸締まりのような作品は今でなければ作れなかった」
と語られていて
そういう意味での「最高傑作」なのだなと私は捉え直しました
要するに正直に言ってしまえば
『君の名は。』などで描かれたような予想もつかない展開からの感動に代表されるような、物語のギミックに未体験の刺激を感じるエンターテイメント作品の魅力 という意味においては
私は本作ではそのようには感じませんでした
つまり誤解を恐れずにぶっちゃけて言えば、
そのようなエンタメ作品のノリでリピート鑑賞を繰り返したい作品だとは思わなかった ということです
が、
ではつまらない作品なのか?と問われれば全くそんなことはありません
とてつもない感動作であることは間違いないと思っています
ただ、その「感動」のニュアンスが今回はちょっと違うのです
ここからは核心のネタバレは無いものの正直な感想を書くうえで少しだけ物語の中身について触れますので、まだ作品を未見の方はその点をご注意ください
これはどこかで聞いたことがある話なのですが
新海監督の『君の名は。』から始まって『天気の子』
そして本作『すずめの戸締まり』までの三作品を
「災害三部作」と呼ぶそうです
確かに前2作とも災害が物語の中心にあったわけで
当然、そのインスピレーションは3.11の震災に影響を受けていたことは明らかだったものの
それらの作品の中では直接的に3.11に対する新海監督の解が示されているというものではありませんでした
『君の名は。』では災害を無かったものにしてしまったし
『天気の子』では災害から世界を救わない選択をした主人公の物語だったし
ところが『すずめの戸締まり』では
ド直球で3.11の、
しかもひとりの震災孤児に焦点を当てた物語になっていて
災害三部作の三作目にして初めて、ストレートに3.11に向き合った作品になっているのが特徴だと思います
私自身は震災の被災者ではないので現実の被災者の方々の本当の痛みは想像の遥か上であろうと思うのですが
そんな私が本作を観ても
あまりにも痛いのです
苦しいのです
実際、3.11を被災地でなくとも共通の痛みとして感じた日本人にとっては
この作品に出てくるいくつかのシーンを見るだけで
それだけで胸が締め付けられる感情を少なからず抱くのではないかと思えるのです
それほどにリアルに3.11の記憶を蘇らせる内容だと感じました
少しだけ具体的なシーンを例に感じたことを書いてみると
主人公の少女 鈴芽(すずめ)が生まれ故郷の東北に向かう途中
彼女を乗せてクルマを走らせていた芹澤という大学生が小高い丘の上から眺める風景を見て、
その場所からは例の原発らしき建造物もはっきり見えているのですが
「ここはこんなに綺麗な場所だったんだな」
と鈴芽に言ったときの鈴芽のリアクションとの対比が描かれてるシーンがあって
この場面などは、10年経とうがまったく傷の癒えない被災者と被災していない者との、意識・認識の違いを痛烈に風刺している と私は受けとめました
新海監督の話の中で
「これ以上、そこに触れるのが遅くなってはいけないという気持ちもどこかにありました。
~中略~
観客の中にも、この映画を観ても震災を連想しない方が1/3から半分くらいはいるんじゃないでしょうか。
だからこそ、今のうちにこの映画を作らなければいけないという思いはありました。」
(出展:『すずめの戸締まり』来場特典「新海誠本」)
ということを語られていて
上にあげたシーンなどには
「災害があったことを忘れないで」という
強いメッセージを監督がこの作品に込めていると感じるのです
そしてまたこの作品では、主人公の鈴芽が幼い頃の辛い記憶に自分の意志で自ら向き合って自分なりの答えを出し、そして新しい一歩を踏み出す姿が描かれていて
そこからは、例えが違うかも知れないけど「がんばろう日本!」のキャッチフレーズのように被災地の方々を勇気付けるような
未来の希望を信じて今を生きていくことの大切さや尊さ
のようなメッセージも感じられました
それにしても本作は、物語の後半に出てくる景色は3.11後の東北の姿そのものなのです
そしてそこで描かれる物語に込められた心情は、多分日本人でなければ真の理解は出来ないと思われるのです
例えば高くそびえ立つ防潮堤で海が見えない海岸通りの風景などの場面を見ても
海外の人にはそれの意味するところなどわかるはずもないでしょうし
そういった意味では『すずめの戸締まり』は極めてドメスティックな、
作品の隅々まで真に理解出来るのはあくまでも日本人限定の作品のような気もします
重苦しい話は別として
作品のカラーとしては、良く言えば「This is 新海作品」が第一印象です
超美麗でリアルな背景描写などはもちろん
会話やコメディパートのリズム感や見せ方
劇伴曲のイメージも前2作と重なる曲調が目立つし
中にはまんま同じ劇伴と思われる曲もインサートされてたし
東京大好きな新海監督らしく相変わらず東京ファーストな風景描写が出てきたり
なので悪く言うと私的には、前2作と似た演出が目立つ部分はマンネリ的にも正直感じてしまうのですが
「災害三部作」という前提で考えてみれば
意図して前2作のイメージ、というか匂いをわざと入れている
とも言えるのかも知れません
個人的には新海監督の次回作にはここまでの三部作からガラッと変わった新しい演出の境地も見てみたいな と
そんなことも鑑賞後に思ったりしました
子供が見ても楽しめるディズニーやジブリ的なファンタジー要素も多いので、三部作の中では視聴対象年齢がより幼い子供に向けても意識されているように思えたのですが
やはり個人的には鈴芽の幼少期(子すずめと呼ぶそうです)のシーンなどは特に
現実の被災者の方々の悲しさや喪失感、心の叫びを見せられているようで
言いようのない胸の締め付けられる思いが観るたびに重くのしかかってくるのです
そのことが個人的には繰り返し何度もリピート鑑賞したいという動機を少し遠ざけている印象が自分の中にはあって
そういった意味でも『君の名は。』や『天気の子』などのようなド直球のエンタメ作品とは一線を画しているように、『すずめの戸締まり』は感じました
来プレの新海誠本
読み応えあります
公開記念舞台挨拶 @MOVIXさいたま 11/12
トーク中の新海監督