フィクションから浮かび上がる強烈な現実 | よしすけのツレヅレなるママ 映画日記

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大好きな映画の感想をメインに、読書感想や子育てについてetc…のんびりした日々をゆるゆると綴った日記です


『両手にトカレフ』

(ブレイディみかこ 著)



STORY

私たちの世界は、ここから始まる。

寒い冬の朝、14歳のミアは、短くなった制服のスカートを穿き、図書館の前に立っていた。そこで出合ったのは、カネコフミコの自伝。フミコは「別の世界」を見ることができる稀有な人だったという。本を夢中で読み進めるうち、ミアは同級生の誰よりもフミコが近くに感じられた。一方、学校では自分の重い現実を誰にも話してはいけないと思っていた。けれど、同級生のウィルにラップのリリックを書いてほしいと頼まれたことで、彼女の「世界」は少しずつ変わり始める――。
(ポプラ社サイトより転載)


『両手にトカレフ』

刊行にあたっての

インタビューで

ブレイディみかこさんが

語られた言葉が

とても心に残っている。


「『ぼくイエ』を読んだ息子が、『この本でぼくの中学校はすごくキラキラした場所のように描かれているけれど、実際には(家庭の事情などで)クラブ活動やバンドや演劇をできない生徒もいる。そんな生徒の存在が見えなくなっている』と言ったのです。確かに息子の指摘の通りでした」


「『ぼくイエ』には、熱心な校長や、生徒のために頑張っている先生たちが登場します。でも、おそらくミアのような生徒の目には、教員の姿は『熱心』『頑張っている』とは映っていません。

ミアにとって教員は、自分を救ってくれる人でも、相談できる相手でもない。自らの家庭環境や貧困について、教員には決して打ち明けません。

息子が通ったのと同じ中学校だとしても、ミアの目には全く違う場所に見えているはずです」






日本でも貧困やヤングケアラーが

社会問題として取り上げられるようになり

これまで見えにくかった存在が

表面化してきたように思う。

でも

取り上げられることはあっても

具体的な支援が

なされているかどうかは微妙だ。


いまの貧困は

見た目に分かりにくいこともあるけど

当事者が他人に気づかれないように

深く注意を払って暮らしているから

ということもあるだろう。

プライドに関わることだから

当然なのだけど。


貧困問題は

置き去りにしてきた政治

無関心な社会

存在を知られたくない当事者

それらががっちりと絡み合い

まるで解けない縄のように

なっているのだと思う。


ふと

自分の胸に手を当てて

気づいたことがあり

ギョッとした。


私は内心で

誰かの困窮に気づきたくないと

思っているということだ。


困っている人に

手を差し伸べるのが

優しさだと理解しているのに

その反面で

そうすることで

自分が相手を

見下してしまっているのでは

ないかと

思ってしまうからだ。


それにもし

親しい人が

困窮していると

知ってしまったら

私はそのことに

ひどくショックを受けてしまう

と思うから。


いずれにせよ

これは

そう思う私の心の問題であり

私が大切なことから

目を背けていることに

変わりはない。


しかしながら

我が家だって

ギリギリ

カツカツの生活。

いやそれ以上だな。


だけど

他人に前では

決して

そんな素振りは見せない。

それはやっぱり

プライドに関わることだから。


いまの状況から

ふとした拍子に

転落してしまっても

不思議はない。


だからこそ

より一層

他人に気取られないよう

注意深く振る舞うのだと思う。


公的支援が

遍く行き届くのがベストだけれど

そこに辿り着けない人もいる。

子ども食堂のような

民間組織もあるけれど

そこへ行くのを

ハードルが高いと思う人もいる。


だからって

それらの支援が

全部ダメだとは言わない。

セフティネットは

何重にもあった方がいいと思うから。


そして

それらだけに頼るのではなく

もっと身近な

同じ地域に暮らす人間同士として

何かできることがあるんじゃないか

とも思う。


共助も大切だけれど

それはあくまでも

公助が先にあってこそ活かされる力。

いまの脆弱な公助では

共倒れになってしまうし

簡単に個人が手を出せるほど

個人には余力がない。

時間的にも

金銭的にも

精神的にも。


そうすると

やっぱり貧困問題は

政治が占める役割が

大きいのだと思う。

経済的な要素

社会的な要素

色んな側面があるけれど

包括的に政治が

担わなければならない問題だ。


貧困問題は

根が深く難しい問題。

一筋縄では解決できない。 

いま現れているのは

これまで先送りにしてきた結果。

先送りにしてきたのは

為政者だけではない。

見ないふりをしてきた

私たちも共犯者なんだと思う。


いま窮地に

立たされている人たちの

ためだけでなく

いまの世の中

自分もいつ

窮地に立つか分からない。

そう思うと

貧困問題は決して他人事ではない。


ブレイディみかこさんの初小説。

これまで彼女が

目にしてきたであろう景色。

フィクションでありながら

突きつけられるシビアな状況に

むしろ強烈な現実を感じ

心は震え

涙止まらず。


絶望のどん底にある人に

他人ができることなんてあるのか

と諦めてしまいたくなるけど

解決できるとか

できないとか

そんなこと考えるよりも

まず手を差し伸べる。

たとえ

その手を拒まれたとしても

何度も何度も。


人は人に傷つけられもするが

救われるのもまた

人だったりするから。


青少年から大人まで

誰もが読める内容なので

老若男女問わず

多くの人に読んでもらいたい一冊。