ヴァイオリン、チェロ、フルート、トランペット…
ピアノ以外のどんな楽器でも、初期の段階から音楽らしい音楽をしようと思ったら他の楽器との合奏が必要である。学校のバンドで基礎訓練を始めた吹奏楽器の奏者はもちろん、鈴木メソッドで最初の曲を弾いたヴァイオリニストは最初からピアノ伴奏を付けてもらう。

ところがピアノは最初の4~5年、悪くするともっと長いこと、誰とも合奏せずに来れてしまうのである。一人で何声も一度に弾ける楽器だし、他の楽器と弾かなくてもソロのれパートリが一番豊富な楽器でもある。そして音符の数が他の楽器よりもずっと多いので一つの曲をマスターするまでに他の楽器よりも多くの練習時間を要するし、また吹奏楽のようにちょっと弾いたらすぐ休むと言う肉体的制限が無いので、何時間でも練習できる。ピアニストになる人の多くが一匹狼的なちょっと変わり者が多くなるのは、そうやって幼少時から一人で練習している時間が長いからではないだろうか?

ところがいざプロになってみると、一人で練習することにお金を払ってくれる人は居ない。教えるほかにピアニストの大きな収入源は他の楽器やコーラスの伴奏。そして室内楽も、ソロよりも演奏依頼の機会が多かったりする。さらに、これは音楽界外ではあまり知られていないかもしれないが、オーケストラの中のピアノ・パートと言うのも在って、まあ19世紀後半以降のレパートリーに限られるのだけれど、これも収入源になる。こういう仕事をうまくこなせるのは、小さい頃から練習室にこもって堅実に間違えの無い、ものすごい指裁きの演奏をするピアニストでは無く、むしろ練習はそっちのけで交友関係が広く、少々間違えても気にしないくらいの肝っ玉がある、と言うピアニストであることが多い。

ピアニストが他のピアニストと弾く機会、と言うのはあまり無い。連弾や2台のピアのためのレパートリーと言うのは結構あるのだけれど、連弾はともかく、2台以上の演奏に同等に耐えうるピアノがそろっている演奏会場と言うのは少ないし、在っても2台のピアノのレンタル、そして調律と言うのは一台で済ますよりも高くつく.でも、そう言うまれの機会と言うのは普段、他の楽器が弦楽器は弦楽器、木管は木管、金管は金管と大勢でお互い群れる中、いつも一人で孤立し勝ちなピアニストにとっては自由に息のつける、本当に楽しい時間なのである。

スカぴあ、万歳!