私の父は、蕎麦を打つ人でした。
どこで覚えたのか聞き忘れましたが、水は使わずに大きなすり鉢で山芋を擦って、卵をよく混ぜたもので蕎麦を打っていました。
およそ職人とは言えない、田舎のお蕎麦です。
器用な人だったんですが、毎回茹で上がるた蕎麦は太くて短い、いわゆる「ドジョウ蕎麦」だったので、大人になるまで蕎麦屋の蕎麦と家の蕎麦が同じものだと気付かないほどでした。
ラーメンを『中華そば』って言うじゃないですか。
なので、ドジョウ蕎麦っていうジャンルがあると思い込んでました![]()
気付かなかった理由は、食べ方にもあります。
蕎麦を打つ日には、朝から煮干しと鰹節、味醂、酒、醤油を煮て、濃い出汁を作っていました。
大みそかには、河童の絵が描かれた燗瓶がストーブに乗っていたのを覚えています。
茹でた蕎麦は蕎麦湯と一緒に器に盛って、燗瓶の出汁で自分の好きな味にして食べます。
蕎麦を洗わないので、つるつるした口あたりです。
「頭がよくなるから」と空になった器に蕎麦湯を注がれていました。
…以前も何かで書いたけど、私の実家には食べ物で頭を良く使用という謎の思考が働いていました。
残念ながら、効果はなかったようですが。
家の蕎麦には、天ぷらどころか、蕎麦に使った山芋も乗った事がなかったです。
いつも、大根おろしと鰹節、炙って揉んだ海苔、ネギでした。
父は還暦を過ぎたころから体調を悪くして、私が家を出てからは蕎麦を打つ事はなかったみたいです。
実家に帰った時には思い出話の一つでしたが、蕎麦屋で食べる味に慣れてしまって自分で作ろうとは考えませんでした。
そして、十年程前に、母と出雲大社に参拝ついでに祖母が生まれた松江を散策していたところ、蕎麦屋のショーケースに懐かしい蕎麦を見つけて、私たちが食べていたのが出雲の『釜上げ蕎麦』だった事を知りました。
おばあちゃんが教えたんだ!?
おばあちゃんは謎の料理スキル持ちだったから、蕎麦を打てたのかもしれません。
ちょうど昼時だったのでお店に入って釜上げ蕎麦をお願いしたら、懐かしいお蕎麦が出て来ました。
出汁の感じも、薬味も実家と同じ。
母と大興奮で箸を入れたら、職人さんが打った蕎麦は長くて、「そりゃそうよね」と、思わず笑ってしまいました。
なぜ、突然蕎麦の事を書いたかと言うと。
先日の家出の際にそば粉がついた生蕎麦を買ったので、久しぶりに釜上げ蕎麦を作ってみたんです。
燗瓶はなくても、令和には美味しい『麵つゆ』があるじゃないですか![]()
昔はほぼ半日かけて作ったお蕎麦が、今は30分足らずで食卓に上ります。
美味しいけど、やっぱり蕎麦粉が少ないのでお上品な味です。
蕎麦打ちなんて面倒だと思っていたけど、濃い蕎麦湯の釜上げ蕎麦が食べたくなりました。
以前、母ににすり鉢の事を聞いたら、引っ越しの時に捨ててしまったとの事でしたので、どこかで大きなすり鉢が手に入ったら、ためしに蕎麦を打ってみるのもいいかなと思います。
※画像で見ると平べったく見えますが小石原焼の丼です。


