「ご飯のつかない、しゃもじ、スプーン、食卓にあるモン、だいたい、燕(ツバメ)の」

「薬缶を一枚の金板から叩いて作るんだよありゃ芸術だよ」

新潟から訪れた、初老のお客さんが、地元の町工場について嬉しそうに話した言の葉を

僕は、丁寧に折り畳んで、身体にしまった。


一年前、六本木でギャラリーに誰も来なくて途方に暮れていた時、雨の中、

迷い込んで奇跡的に出逢ったときの事を重ね合わせて、そういう、忘れそうになっている

記憶の断片が、キラキラと、その夜のピアノニストのコンサートの指先の鍵盤を弾く

音色を聴く度に、鮮明に思い出されるもんだから、たまんなかった。

アンコールで月の光が流れて、僕の瞳は、目前をマトモに映そうとしてくれなかった。

そういうときは、ミッドタウンのリッツカールトン最上階から観る夜景のように、何気ない町並みでさえも

光の粒やリズムに変わるのだ。

ホールを出て見上げた月が歪んでしゃもじのように見えていたなんて日記に書いてるヤツがいたら

僕ならムカつく。




けど今日は許して






後、20時間、がんばります。