呉の次は広島。広島と言えば路面電車。ここは日本一長い路線を敷いている路面電車大国。そこに新たな魅力が加わった。これは興味深い。行ってみよう!
今回の旅の一番の目的は、広島市内の路面電車(広島電鉄。以下広電)に新たに開通した路線に乗ること。その距離、僅か1.1kmほどだが、全国の鉄道に完乗している私にとっては、この路線ができたことで再び未達成状態になってしまったから、短くても無視はできない。そういう自己満的達成感のためであることは確かだが、今回はそれだけではない。路面電車のアクセス向上のために、JR広島駅の駅ビルの中から路面電車が発着できるようにしたという。しかも二階から発着するという。新路線にも興味はあるが、広島駅構内の電停とはどういうものかの方が私にとって大きな関心事。その広島駅に向かった。
呉からJR呉線に乗って広島駅に向かう。呉線に乗ったのは今回で4~5回になる。電車で約40分、呉と広島は隣同志のイメージがあったが、思ったより離れている。しかし、風光明媚な海岸沿いを走る呉線は絶景路線に入れていいほどで、退屈することはない。そうして、広島駅に到着。さすがに人が多い。外国人観光客も非常に多く、アジア系よりも欧米系の人の方が断然多い。「しっかり見ていけよ、原爆を投下した実態を!」と強く思う。
広島駅は在来線の線路やホームは地上階(一階)にあり、そこから二階のコンコースのある階に上がる。以前の広島駅の記憶はあまり鮮明ではないが、30年ほど昔、出張で初めて広島駅に降りた時、「中国地方最大の町なのに、ちょっとショボいな」と感じたことを憶えている。広島の町はJR広島駅と繁華街が離れている。大きな町では往々にしてよくあることで、広島駅もそのひとつだった。それを補っているのが路面電車で、広電の路線は市街地に路線を張り巡らせ、西は宮島まで伸びている。路面電車がある町は、私においてはそれだけでワンポイント・アップとなるが、日本一の路面電車の町として広島は一目以上置いている。
その広島駅、以前の路面電車のアクセスが悪いとか、不満を抱いたという印象は無い。それなのに、今回は駅ビルから発着できるようになったという。しかもコンコースのある二階から。いったいなぜそんな大胆な変更を企てたのか。電停を二階にするとなると、車両はスロープで二階まで昇り降りすることになろうが、鉄道は急斜面に弱い。そこをどう克服したのか、この点が最大の疑問だった。それが今確認できる。
改札を通過し、広い広いコンコースに出た。私を含め多くの人の足は、自然と市街地が広がる南の方向へと向かう。100mも歩かない内に、コンコースの端の大部分が、そのまま路面電車乗り場になった。全く迷うようなことはない。コンコースを少し歩けば、複数のホームを有するくし型の電停にバリアフリーで自然と突き当る。この動線の素晴らしさに感動すら覚える。ホームはA~Dの4箇所で、各ホームから様々な行き先や路線に分かれて次々出発していく。
駅構内から路面電車が発着するのは、路面電車界隈における近年のトレンドで、富山市の路面電車(富山地方鉄道市内軌道線)がその先駆けになった。富山駅のこのアクセスも素晴らしく、私はいたく感心したが、広島駅のそれは更に一歩その上を行く。とにかくコンコースを歩いていれば、自然と路面電車乗り場にぶつかる。ホームの構成がくし型だから、どのホームに行くのにもその動線に無理が無い。
早速、新路線に乗ってみよう。ここでの一番の疑問は、二階にある電停と地上(路面)を走る線路をどう結んでいるのかだ。電車は緩い斜度でないと走れない。どうやってこの高さの差を解消したんだろう。するとすぐにわかった。広島駅のすぐ近くに猿猴川(えんこうがわ)という太田川の支流が流れている。多くの川でそうであるように、川の土手部は地上の高さより盛り上がっている。その少し高い土手部に向かって新路線を走る電車は緩やかに降りていく。もし普通に一階部分の地上まで電車を降ろすとなるとかなりの高低差になるが、川の土手が一階の半分ほどの高さになっているので、思っていたほど高低差はない。広島市街地は多くの川が流れ、それが交通渋滞の原因の一つでもあるが、その川を逆手に使ったということか。「そうかぁ、こういうことだったのか」と感心した。こうして駅を出発し、1.1kmの新路線に乗り、再び全線完乗コンプリートだ。
駅ビル内の電停から、正面の猿猴川の土手に向かって緩やかに下っていく
下のホームは旧電停
広電の路線は複雑で長い。このまま乗り続けたかった。しかし、その日は線状降水帯が発生するとの予報が出ており、JRの路線では既に運休が相次いでいた。さっき乗った呉線も止まっている。在来線では、もう広島からほぼ出られそうもない。となると、かろうじて動いている新幹線で移動するしかない。さっきまでいた広島駅は大勢のインバウンドも含め混んでいた。これは大混乱になるな。私はその日、兵庫県の姫路まで移動する予定だったが、これだけ鉄道が乱れているとどうなるか、容易に予想できる。のんびりと路面電車に揺られていたかったが、新路線を乗り終えて下車し、再び広島駅に向かった。案の定、窓口や自動券売機は超々長蛇の列。さて、どうするか。ちょっと大変だが、おもしろくなってきた。




