初めての入院(その1)/繰り返し求められる「本人確認」 | 直球オヤジの自由奔走生活

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座右の銘は「"行きたい"、"やりたい"、"欲しい"と思った時が"その時"」。55歳で早期退職し、高齢者と呼ばれるまでの今が"その時"。趣味のバイクや自転車は年齢的に待ったなし。エコノミーな生活で趣味を楽しむ。これをどう追い求めるかが、このブログのメインテーマです。

入院が決まると、すぐに私の手首にバ―コードが印字されたリストバンドを通された。そして、その後の入院生活で度々求められたのが、「お名前と生年月日を言ってください」というフレーズだった。

町の医院ならば、「○○さ~ん、診察室の中にお入り下さい」と言われるが、この大病院に入院したら、名前を呼ばずに、「
お名前をフルネームで、生年月日もお願いします」と言われた。病室のベッドに横たわり、検査の為に採血されたり、点滴を始める時、またレントゲンやCTの撮影時も、その度に本人確認を行ったり、リストバンドに印字されたバーコードを読み取ってから行われた。こんなまどろっこしいことは、何のためか。先日、偶然読んだ本「間違い学」(松尾太加志著/新潮新書)に、そのいきさつが書かれていた。私はこの一件を以前から知っていたが、改めてコトの顛末を知ると、「こんな間違いする?」という疑問と「あるかもね」という思いが入り交じる。ことの顛末はこうだ。

1999年、横浜市立大学付属病院で
患者の取り違え事故が起きてしまった。何と!心臓の手術をする予定の患者(Aさんとする)に肺の手術をし、肺の手術をする予定の患者(Bさんとする)に心臓の手術をしてしまったのだ。その日、同時刻に手術が予定されているAさんとBさんを寝かせた2台のストレッチャーを、病棟の看護師は一人で押し、病棟から手術室のある区画に搬送した。そして、その区画に着くと、患者2人とカルテを手術区画の看護師に引き渡した。その直後、この2人が入れ替わってしまったのだ。

患者のカルテと患者本人が乗るストレッチャーは、紐で繋がれている訳ではないし、カルテに患者の顔写真は印刷されてもいない。細かい部分は割愛するが、同時に2人の患者を搬送してきて、手術直前の引き渡し作業となったが、もちろんその場でも本人確認は行っている。引き渡された看護師が、「
Aさん、昨夜は眠れましたか?」、「Aさん、寒くはないですか?」というように話し掛けたが、この時点から間違いは始まった。Aさんとして話し掛けられたBさんは、自分の名前とは違うような気はしたが、それを否定せずに「はい」と受け応えをしてしまった。その時点での患者の心理からしたら、よもや間違って手術されるとは思ってもいないし、自分の名前がどう呼ばれようが、これからの手術のことで一杯一杯だろうから、そう反応するのは当然だろう。手術室に入ってからも、本人確認はあったが、これも同様に間違った名前を呼ばれたのにスルーとなった。

同様なことがBさんにも行われ、これまた同様にスルーの連続で、Aさんとして手術されてしまったのだ。こんな漫画のような話、それも高度な医療を提供する大学病院で起こったなんて信じ難いが、間違いに気づくきっかけになったかもしれないいくつかのステップも、
ことごとく突破されてしまった。こうして、本来は手術を要しない部位を施術され、手術は終了。その後、手術後集中治療室に運ばれ、体重を測定した時に、疑義を抱いた医師が間違いに気づいたそうだ。当時、この病院では、患者さんに自ら名前を名乗らせることはしていなかったし、患者のIDや氏名を印字したリストバンドもまだ普及していなかった

この事件、いや医療事故は社会的にも大問題となり、以降再発防止として、
患者本人にフルネームと生年月日を言わせ、更にリストバンドによる認証をするようになった。今回私が入院した時も、律儀に何度も繰り返し本人確認を求められた。病棟から手術棟へは一人の看護師が私を寝かせたストレッチャーを押し、手術棟の受付で他の看護師に引き渡した。その後手術室に運ばれ、麻酔をされるまでの間、何度自分の氏名と生年月日を問われただろうか。少なくても3回はあった。

手術後、病室に戻されると、その
4人部屋の住人の中に私と同じ苗字の人がいた。私の苗字は地元では多い苗字だから、こういうことは大いにある得ること。看護師が「〇〇(私の苗字)さ~ん、お薬の時間でよぉ」などと言って病室内に入って来た時には、看護師さんは私ではないもう一人の同じ苗字の患者さんに対して言ったのに、思わず私はそれに反応してしまった。名字だけでの確認の怖さはここにある。

間違って他人の薬を飲んでしまったり、間違った点滴をされたりして、それが命に関わるようなことはありうること。何度も何度もフルネームと生年月日を問われても、決して面倒がってはいけない。気が短いキレる高齢者になってはいけない。ほんの20数年前に起きた重大医療事故の再発防止として、今ではこの形が確立されている。ミスの連鎖が繋がり、自分の命が脅かされることも在り得るのだから、ここは素直に従おう。こんな
些細な事、それでいてすごく重要なことも、入院で初めて知ったことの一つだった。