咀嚼が起こす食べる喜び

 

 人間の本能である食欲。ほかの本能よりも一番強力で最後まで残る食欲。これには誰もが関心があり、興味が尽きません。TVでも食べものをテーマとした番組が必ず放映されます。飽食で肥満の時代でありながら、食へのあくなき追及は人類の性なのでしょう。

 歯科の仕事はその食欲を全うするための大事な職業と思うのですが、食を全うする場面でなかなか認識されずに埋もれています。

 

例えば松坂牛の希少部位を食べる場面を想像してください。料理長が「これは1頭からわずか数百グラムしか取れない超希少な肉です。それを極限まで熟成しじっくり焼き上げます。天然塩だけでお召し上がりください。」お客さんはもうこれだけで生唾ごっくん「・・・」です。

 目の前でステーキが焼き上げられお皿に盛りつけられます。外はこんがり、中は肉汁したたるレア。

さっそくそれを一口ほおばります。「う、うまい」「こんなにうまいステーキは初めて食べた」となるでしょう。

 

 もし歯科医である私が実況するなら下記のようになるでしょう。

「そのお肉をほおばると心地よい快感が口の中に広がる。噛むこととはこんなにも心地よいものか。歯に肉の線維がつぶされて舌の上でまじりあうマジック。決して柔らかすぎず固くもなく唾液と共に溶けてのどの奥に流れていく。・・・」

歯根には歯根膜というセンサーがあって、脳に触感を伝えています。カリカリ・サクサク・グニャグニャ・・バリバリ・・・それらも大切な味覚の一つです。至高の食を極限にまで高めてくれる歯と顎の役割に気づいて欲しいと思います。

 そしてそれを支えている歯科医療関係者の努力にも心を寄せてほしいと思います。