幼い頃、近所に子供を褒めるのが上手なおばあちゃんがいた。その日も子供たちの頭をなでながら「M子ちゃんは鼻筋の通ったべっぴんさん」「F子ちゃんはお目めパチパチかわい子ちゃん」と褒めていたが、私の番が来てふと言葉が詰まった。

 

 私1人だったら、口から出任せに褒めることが出来るが、子供は正直で残酷だ。下手に褒めたら「うそー。かわいくなーい」などと言い出して、この子が傷つくと思ったのだろう。「美子ちゃんの髪は、ほんにきれいか。市松人形のごたる」と言ってくれた。

 

何とうまく切り抜けたことだろう。家に帰って喜んで報告する私に、母の返事はひと言「ふーん」。母は優しい人であったが、妙に素っ気ないところもあった。惨めな気持ちになりかねなかった私に、母は気付いていただろうか。

 

 6歳だった私に、頭をなでながら言ってあげたい。「良かったねえ。おばあちゃんも本当に美子ちゃんの髪、きれいと思っとったよ」

 

今では白髪が増え、髪の量も減り、昔の面影はない。天国のおばあちゃんに今の私を褒めてって言ったら、困るだろうなあ。困った顔見たいなあ。

 

 

 やさしいおばあちゃんや昔の情景が目に浮かぶように生き生きと描かれています。昔の自分に声を掛けてあげるなんてなんと切なく素敵なことでしょう。みなさんもこういうひと時をいかがですか。

 

 寺田美子さん(58) 熊本市の作品

熊本日日新聞2018.4.10朝刊「おんなの目」より引用