寒い冬を除き、天気の良い日は毎日のように、車の通行の少ない農道を自転車で一回りする。
田植えの時期、田に水が張られ、小さな用水路に水が流れるようになると、小さな亀が道路を横切るようになる。石ころぐらいの大きさで、車では気付かれにくい。ひかれてしまってはかわいそうと、水路に戻してやる。
亀は手足を引っ込めるのもいるが、首をもたげ口を大きく開けて威嚇してくるものもいる。そこで自転車の前かごにはいつも、軍手をいれている。
戻す時にはいつも心の中で「恩返しに来てね」とつぶやくが、来てくれたことは一度もない。彼岸を過ぎると水路の水もなくなり、軍手の出番も無くなる。今年は2匹を水に戻した。
でもよく考えると、恩返しに来てくれる昔話は亀ではなく、鶴だった。この年になり、竜宮城に連れて行かれても困る。
今でも元気でそこそこ仕事もできるし、食べ物もおいしい。友達もいっぱいいる。みんな亀のおかげと思うようになった。
ここ5年で7匹、水路に戻した。日記には赤ペンで、返した順に大きくナンバーをつけている。
熊本日日新聞2017.9.29朝刊 おんなの目
村上登代子さん 73歳 玉名市 の投稿より引用
身近な生活風景がユーモラスに表現され、そしてやさしい気持ちが伝わってきます。