写真はイメージ

 

 私はあと3カ月で88歳になる。妻は認知症で87歳。〝2人で1人″の暮らしである。友人知人も鬼籍に入り、音沙汰がない。

 安部首相も多忙だが、あれは仕事であり、金も出る。私は八面ろっぴの活躍をしたとしても何も報酬はない。しかし、できぬとは言えない。

 認知症のためか、妻がイライラして文句を言う。糟糠の妻であり、突き放しはできない。朝から晩まで「財布がない」「物がなくなった」と騒ぎ、2人で家中ひっくり返す毎日である。

 私は病院に5軒行くが、どこへ行っても「高齢のため治らぬ」と先生が平気で言う。私も仕方ないので「アハハアー」と笑っている。治らぬ病気で病院に行くのも根気がいるが、行かぬよりはましだろう、

 原稿を書く暇がないので病院の待ち時間を利用するが、みんなが「変なおじさん」といった顔で見てくる。それでもめげずに通っている。

 スーパーに4軒行く。卵が安い、肉が安いと走っていると、子どもが目を白黒させる。「あの人 男みたいだが、女かなあ」といった目だ。

 ほかに行くところは市役所、銀行、郵便局。おまけに、よせばいいのに図書館で本を10冊借りてくる。貧乏性である。3時には防犯パトロールに出かける。

 私は何をやっているんだろうとも思うが、せっかくの人生だ。生きるだけ生きてピンコロリと逝きたい。多忙で死んでる暇がないが、あと10年、何とか生かしてほしいと、神様に祈っている。

熊本日日新聞 平成29年3月14日朝刊 読者ひろば 藤本長明さん 87歳 元会社員の投稿より引用

 

 今回はいつもの「いい話のおすそ分け」シリーズとは傾向の異なる投稿をご紹介します。

 老いの生活をユーモラスに描かれている文章だと思います。一つ一つの文章は切実なものがあるのですが、筆者ならではの受け止め方と機転で上手に人生を過ごされているようです。脳トレとしての執筆活動も老後の趣味としてヒントになると感じました。