ディランにあったらよろしくと #3 | 鳥肌音楽 Chicken Skin Music

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発売が遅れていたブートレグ・シリーズの第9弾『ジ・ウィットマーク・デモ1962-1964』もアマゾンから届き更に盛り上がるボブ・ディラン祭りの続きです。今日はディランをBGMにしながら読んだディラン本の中で興味深かったことを少し書かせていただきます。

ボブ・ディランのレコード・デビューはいつかというとアルバム『ボブ・ディラン』がアメリカで発売された1962年の3月19日になります。61年10月アルバム・デビューのビーチボーイズより半年遅く、62年10月に「ラヴ・ミー・ドゥ」でデビューしたビートルズよりは半年早いそんな時期のデビューでした。

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では日本でのレコード・デビューはいつだったのかといいますと今回読んだディラン本「ボブ・ディランを語りつくせ!」の中に64年4月に日コロ(日本コロムビア)から出た『オールスター・フーテナニー』というオムニバスに「風に吹かれて」が収録されており、これが日本で初めて紹介されたディラン・ナンバーとなるようです。フーテナニーというのは「形式ばらない祝賀パーティー」という意味ですが、当時行われていた歌手だけでなく聴衆も一緒に声を出して唄うフォークの集会のことをフーテナニーと呼んでいました。アルバムにはディランの他にもニュー・クリスティー・ミンストレルやピート・シガー、クランシー・ブラザース、ブラザース・フォー、オリー・スミス、ジョニー・キャッシュといったシンガーが収録されており当時のアメリカでのフォークの盛り上がりを日本に伝えるために発売された一枚のようです。(解説を書いた中村とうようさんによると”日本編集”であったと書かれていますがそちらの収録曲は探しても見つかりませんでした。おそらくはこのUS盤をベースに編集されていると思われます。)

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『All-Star Hootenanny』日本では別ジャケで発売されました。

「風に吹かれて」は63年の5月に発売された『フリー・ホィリーン』に収録されており6月にはディランと同じくアルバート・グロスマンがマネージメントするピーター・ポール&マリーによってカバーされ全米2位のヒットになります。本人版のシングルも8月にアルバムからカットされ当時の公民権運動のテーマ・ソング的に歌われディランは一躍時代の寵児となっていきます。

PP&M / Blowin' In The Wind


そんな状況もあってか上記のオムニバスでも並み居る先輩たちを差し置いてトリの位置に「風に吹かれて」は置かれています。日本盤が64年4月とほぼ当時としてはリアル・タイムに近い時期に発売されていますがこの時点でディランがアメリカ並みに日本で注目されていたのかは疑問です。編集/解説がとうようさんなのでアメリカでの状況を説明されていたこととは思いますが、一般的にはPP&Mのヒット曲の作者といったくらいの認識だったのではないかと思います。

オムにバスを編集した経緯をとうようさんが語っている文章が見つかりましたので引用しておきます。

とにかくフォークについてはいちばん最初から雑誌にも紹介記事を書きましたし、レコード会社に働きかけて出すように動いたり、ライナーノーツを書いたりしました。ボブ・ディランはね、当時CBSの原盤を持っていたのが日本コロムビアで、最初は単独のアルバムを出しきれなくて、ボブ・ディランやピート・シーガーなんかの4アーチストぐらいをそれぞれ2~3曲ぐらいずつ引っ張ってきてまとめたレコードを作って、ぼくが解説を書いたんです。63年頃、ピート・シーガーが初めて日本に来たときもいろいろ話を聴いて(63年10月)、そのときに“ボブ・ダイランって誰?”って質問したら、ダイランじゃなくディランだとピートの奥さんが教えてくれたんですけどね。その頃音楽之友社で『ポップス』という雑誌を出し始めたんです。初代編集長は鈴木淳一郎。「小指の想い出」(伊東ゆかり・67年)を作曲した鈴木淳ですね。60年代の中頃じゃないですかね。ぼくは『ポップス』はお手伝いしてました。レコード・レビューのページは、ジャズ、タンゴ、ラテン、シャンソンと並べて“フォーク”というのをやれと。“フォーク・ソング”だといかにもダサいし、フォスターの民謡みないなイメージしかないから、たんに“フォーク”といったほうがカッコいいということで、“フォーク”というジャンル名でレコード評をしたわけです

ディランが最初ボブ・ダイランと記されていたのは有名な話ですね。そのくらい当時は情報がなかったんですね。とうようさんの努力も虚しくディランの素晴らしさは日本では中々浸透しなかったようで、次にレコードで紹介されるのもオムニバスの中でした。『フォーク・ソングのすべて』(おそらく日本編集)の中に再び「風に吹かれて」と「くよくよするなよ」が収録されています。YS-527Cというレコード番号から推測するとおそらく65年に発売されていると思われます。65年といえばすでに「時代は変わる」や「マギーズ・ファーム」といったシングル・ヒットがあったのになぜ古い「くよくよするなよ」を入れたのか?これもおそらくはPP&Mのカバーが日本で知られていたからではないでしょうか?この時点まではディランって一般的にはあくまでPP&Mありきの存在だったのかもしれないですね。

PP&M / Don't Think Twice,It's all Right


ただし、さすがにこの頃になると日コロも本国でのディラン人気を無視できなくなったのかようやくディランのシングルを発売することになります。タイトルは「ホームシック・ブルース(c/w彼女は僕のもの)」です。ホームシック・ブルース?そんな曲ディランにあったっけと一瞬思ったのですが「サブタレニアン・ホームシック・ブルースSubterranean Homesick Blues」のことですね。Subterranean(地下の、地下に住む人etc)という単語があまり馴染みがないのではしょっちゃったんでしょうけどこれじゃ単なるカントリー&ウェスタンみたいなタイトルですよね。

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しかし、日コロとしては”フォークの神様”=ディランを紹介しようとしてシングルを切ったのかもしれませんが、選りにもよってディランがエレキ化しフォークと決別していく「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」とは皮肉な気がします。

この後ようやくディランのアルバムが日本発売となるのですがこれがまた興味深い内容のものなのですが、今日はここまで続きは明日以降に。


おまけ
ディランは音源管理が厳しくてYOUTUBEにアップされてもすぐ削除されてしまいます。なので「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」もディランバージョンでは紹介できないので3121さんのブログで知ったアル"変人”ヤンコビックの秀逸なパロディでお聴きください。

"Weird Al" Yankovic - Bob


お気づきになった方もいらっしゃると思いますが、歌詞が全て回文(タケヤブヤケタとかいうアレです)になってるんですよね。これってディランの歌詞の意味を深く深く追求して悦にいっているマニアックなファンを皮肉っている意味合いも感じます、ディランの歌詞なんてお遊びだよって。やりますねヤンコビック。