都市農業を取り巻く社会情勢の変化を背景に,平成27年4月に都市農業振興基本法が施行され,国は翌平成28年5月に都市農業振興基本計画を策定しました。都市農地の位置づけが,「宅地化すべきもの」から「あるべきもの」へと大きく転換され,本格的な農業振興施策を講ずる方向にかじが切られました。都市農地は農産物の供給だけでなく,防災,景観,環境の保全等の多様な機能を果たすものとして積極的に保全・活用を図っていくことが示されています。

 そうした流れの中で,本年6月に生産緑地法等が改正されました。基本法が施行され,早2年が経過し,都市農地の位置づけが「宅地化すべきもの」から「あるべきもの」へと大きく転換されたことを重く受けとめて,市は速やかに頭を切りかえ,今後の都市農業振興,農地を生かしたまちづくりを推進できるよう施策を講ずることが必要です。(末永けい 本会議一般質問)

末永けい

①平成3年に生産緑地法が改正され,平成4年に指定が開始されました。一般的に生産緑地に指定されている農地の多くは,平成4年と5年に指定を受けています。生産緑地制度が始まった平成4年から現在までの本市の生産緑地の団地数,土地所有者数,面積の推移は?

②生産緑地の所有者が買い取り申し出をする場合,30年が経過するまでの間は,主たる従事者が一定の故障や死亡等の状態になった場合に買い取り申し出ができることになっています。しかし,指定から30年が経過した後は,このような故障等に該当しなくとも買い取り申し出ができるようになります。平成34年には,多くの生産緑地が指定から30年が経過します。本市において,平成34年に平成4年の指定から30年を経過する生産緑地の団地数は?

③さらに,現在の本市の面積要件500平米以上では,複数の生産者がまとまって指定されている生産緑地地区において,一部所有者の買い取り申し出等に伴い,生産緑地地区の一部の農地の解除が必要な場合に,残された面積が500平米の規模要件を下回ると生産緑地全体が解除される,いわゆる道連れ解除への対応が課題だと思いますが,最近5年の市の道連れ解除の筆数をお尋ねいたします。それから,買い取り申し出に対する市の買い取り,あっせんの実績は?

④生産緑地法等の主な改正点について

 1点目は,生産緑地地区の面積要件の引き下げです。本市の現状は,生産緑地地区を都市計画に定めるには,一団で500平米以上の区域とする規模要件が設けられており,要件を満たさない小規模な農地は,農地所有者に営農意思があっても指定できません。法改正により面積要件を市の条例で300平米まで引き下げ可能となりました。あわせて,改正された都市計画運用指針では一団の農地の考え方も緩和され,物理的に隣接していなくても同一または隣接する街区(ブロック)に複数の農地があれば一団の農地とみなして指定可能となりました。市の条例で300平米まで規模要件を引き下げることと組み合わせれば,道連れ解除の可能性も減りますし,さらには市街化区域内の農地を新たに生産緑地に追加指定できる可能性が広がることになります。小規模であっても,より多くの都市農地をきめ細やかに保全できるようになります

 2点目は,生産緑地地区における建築規制の緩和です。生産緑地地区内では,設置可能な建築物をビニールハウスや農機具の収納施設などの生産・集荷・貯蔵等に用いる農業用施設に限定されていましたが,改正後は,生産緑地内で生産された農産物等を主たる原材料とする製造・加工施設,生産緑地内で生産された農産物等または製造・加工されたものを販売する直売所,生産緑地内で生産された農産物等を主たる材料とするレストランを設置することができるようになりました。立地を生かした多様な経営スタイルが可能となり,農業経営の選択肢が広がり,都市住民の満足度が向上することが期待されます。

 3点目は,特定生産緑地制度の創設です。生産緑地の所有者等の意向をもとに,市町村は当該生産緑地を特定生産緑地として指定できます。特定生産緑地に指定された場合,市町村に買い取り申し出ができる時期は生産緑地地区の都市計画の告示日から30年経過後から10年延期され,10年経過後は改めて所有者等の同意を得て繰り返し10年の延長ができるようになります。特定生産緑地の指定は30年経過までに行うこととされており,営農者や御家族の中で将来的なことをしっかりと相談していただくためにも早目の情報提供が必要です。

 4点目は,都市計画法・建築基準法上の改正についてです。新たな用途地域の類型として田園住居地域が創設されました。住居専用地域に農業用施設等は原則として建てられない状況にあった中で,住居系用途地域の1類型として田園住居地域の指定により,宅地と農地が混在し両者が調和して良好な住居環境と営農環境を形成している地域を「あるべき市街地像」として都市計画に位置づけ,開発・建築規制を通じて,その実現を図ることになります。

 以上のような生産緑地法,都市計画法,建築基準法,都市計画運用指針等の改正は,今後の本市のまちづくりにおいて極めて影響の大きい話であり,改正された制度について市民の皆様に対してどのように周知をしていくのか。また,とりわけ市街化区域内の農地所有者の方に対しては,意向調査を行っていくことが必要であると考えますが,市の見解は?

⑤都市農業振興のあり方と農地を生かしたまちづくりのあり方を市はどのように考えているのか。

 愛知県は本年3月に都市農業振興計画を策定しております。その中では,「農と緑に恵まれた都市環境の形成には,農業政策と都市政策の双方から都市農業の位置づけを見直し,都市農地をあるべきものとして保全し,計画的に活用されるよう支援体制を整え,地域と行政が一体となって取り組むことが重要です」などとしています。都市農地,生産緑地は,本市の都市計画の中ではどのような方針になっているのか。

(市の答弁)

 初めに,市内の生産緑地につきましては,指定当初の平成4年は団地数が502団地,面積が58.55ヘクタールでありましたが,現在は団地数が300団地,面積が32.3ヘクタールとなっております。なお,生産緑地の所有者数につきましては,都市計画に定める事項ではないため,把握しておりません。
 次に,平成4年の指定から30年を経過する生産緑地は,現在の300団地のうち278団地でございます。また,生産緑地地区の一部が解除され,残った生産緑地地区が500平方メートルを下回り解除されてしまう,いわゆる道連れ解除の筆数につきましては,最近5年間で合計3筆ございました。なお,市による買い取り実績は本年度に1件ございましたが,農家等へのあっせんによる買い取り実績はございません。
 次に,生産緑地法等の改正についてですが,現在生産緑地制度につきましては,市ホームページのほか,JA尾張中央,農業委員会などを通じて周知を図っております。また,特定生産緑地制度につきましては,今後具体的な手続が国や県から示された後,市ホームページや広報への掲載のほか,所有者・耕作者への意向調査をすることで周知を図ってまいります。
 次に,本市の対応についてですが,市街地及びその周辺部にある農地は,農産物の供給や防災などの重要な役割を担っております。また,市では,これまでかすがい農業塾などの体験事業の実施や市民農園を開設する農地所有者への支援などにより,市民に対して体験や触れ合いの場を提供してまいりました。現在,農への関心に応じてさまざまな場や参加の機会を提供する新たな市民農園の整備に着手しており,都市農業に配慮したまちづくりを進めております。また,都市計画マスタープランにおいて,生産緑地は保水機能や潤いのある景観を有する緑地機能として保全に努めることとしております。

 

注意都市農地(=市街化区域内の農地)の質問をしているにも関わらず、なぜ新たな市民農園の話をここで挟み込んでくるのでしょうか。。。意味不明の答弁です。また、新たな市民農園を整備することにより、農地は減少します。農地を保全することが市のミッションにもかかわらず、逆行していることに非常に危機感を感じています。。。市民の皆さまに誤解を与える答弁は止めていただきたい。

 

末永けい

 平成5年から現在までの市街化区域内の生産緑地以外の農地の推移は?

(市の答弁)

市街化区域内におけます生産緑地以外の農地面積につきましては,平成5年が542.9ヘクタール,平成29年が174.7ヘクタールとなっております。

 

末永けい

 都市農地の把握についてなんですけれども,法改正で面積要件を500平米から300平米まで市の条例で緩和することができるようになりましたので,その検討を行うに当たっては,緩和する際に影響を受けるであろう300平米から500平米の農地についても面積や筆数などを市として把握していくことはもちろんのこと,都市計画運用指針においては,物理的に隣接していなくても,同一または隣接する街区(ブロック)に複数の農地があれば,一団の農地とみなすことが可能となったわけでありますので,ブロックごとに調査をしていくなど,300平米未満の市街化区域内の生産緑地以外の農地についても所有者数や筆数がどれだけあるのかなど,詳細に現状把握していくことが必要だと思いますので,その点については要望をいたします。

 先ほど,平成34年に指定から30年を迎える生産緑地をお尋ねいたしました。熊野桜佐地区の市街化区域に編入に伴い,追加指定したものは時期がずれていると思いますが,本市の大方の生産緑地は基本的には平成34年に指定から30年を迎えます。平成34年以降,生産緑地の所有者が自らのご意思に基づいて特定生産緑地を指定するか否かを選択していただくことになりますので,早い段階で対象となり得る可能性のある方には確実に新制度の周知を行うことが必要です。文書でのお知らせやアンケート,説明会などが必要なのではと思っております。農地保全のためには,農業継続の選択を促す材料を提示することに合わせて,生産緑地制度,都市農地保全の意義,必要性を積極的に発信し,都市農業に対する全市民的理解を育むことが市の姿勢として極めて重要だと思います。

 それから,生産緑地の追加指定についてですが,平成29年6月決定の都市計画運用指針においては,人口減少・高齢化の進行や,緑地の減少を踏まえ,身近な緑地である農地を保全し,良好な都市環境を形成するため,生産緑地地区を追加で定めることを検討すべきであると改められており,各自治体には追加指定・再指定の検討を促しています。現在,本市の追加指定の事例としては4つあると伺っておりまして,1つ目は市街化区域への編入による新規指定,2つ目は周辺を生産緑地に囲まれる農地,3つ目は生産緑地によって挟まれる小規模な農地,4つ目は土地区画整理事業の設立,事業着手が明らかな地区で,集合農地化が図られる場合は新たに指定できるとお聞きしています。今後は,本年の法改正や都市計画運用指針などを踏まえて,現在の市の追加指定の考え方も見直しが必要だと思いますが,いずれにしましても,現行の本市の生産緑地の追加指定の考え方については,ホームページなどで積極的に広く周知をし,情報提供,相談体制を構築することが必要だと思いますが,市の考えは?

(市の答弁)

生産緑地地区の指定は基本的には平成4年の1回のみであり,追加指定はあくまでも例外的な事例と考えております。市では,これまでに平成5年に生産緑地に囲まれた農地を追加した事例と,平成19年に熊野桜佐地区が市街化編入された際の事例の2回のみでございます。なお,追加指定の要件につきましては,市ホームページ等で公表しておりませんが,市では,市民からの追加指定の問い合わせがあった場合には,その都度説明して対応してまいります。

 

末永けい

 都市農地,生産緑地について,先ほど都市計画での位置づけをお聞きしました。なぜお聞きしたかといいますと,都市農地振興の意義については,農政部局だけではなく,まちづくり,都市計画の観点からも再検証していくべき状況であるからです。県の都市農業振興計画では,まちづくりと農業振興施策との連携の必要性を掲げており,「市街地及びその周辺区域の農地等は,都市の景観形成や防災力の向上,レクリエーションや自然とのふれあいの場としての多様な役割を果たすことが期待されています。このため農業振興施策と都市計画との連携により農地を保全することが重要です。都市計画区域内の農地等は,都市に存在する貴重な緑の資源として位置づけることが重要であり,立地適正化計画制度が目指すコンパクトシティの形成にあたっては,農業振興施策等と連携するなど,地域全体に目配りをした施策が重要です」としています。市のまちづくり部局を含めて,今後は都市農地の機能などの役割を再検証する中で,しっかりと都市計画など関連計画において位置づけていくように要望いたします。

 続いて,面積要件について質問します。平成4年には58ヘクタールあった生産緑地は,直近では32ヘクタールですから,約55%まで減少し,一方で,生産緑地指定されていない市街化農地については,542ヘクタールから174ヘクタールと,約32%まで減少しています。やはり市街化区域内の生産緑地以外の農地よりも,生産緑地に指定された農地のほうが農地が守られている,保全されているということがわかります。生産緑地法の改正により,500平米以上の面積要件を市の条例で300平米まで引き下げることが可能となった中で,各自治体300平米に引き下げる条例を制定しています。こうしている間にも,買い取り申し出が出て,道連れ解除が起きてしまうかもしれません。市が本気で都市農地を保全すべきという意欲があれば,道連れ解除が起きる可能性を下げて,そして,より多くの農地を生産緑地として有効活用できるように,市条例において300平米まで規模要件を引き下げる条例を早急に策定すべきだが,市の考えは?

(市の答弁)

 生産緑地地区の規模要件を条例で緩和することにより,都市農地の減少をとめることができる一方,大規模な一団の農地が減り,農地が細分化されることで営農や保全管理できない農地が増加することにより,周辺の住環境に悪影響を及ぼすおそれがございます。今後,近隣他市の動向や所有者等の意向調査の結果を踏まえ,本市の実情に合った制度を検討してまいります。

 

末永けい

 本年3月に愛知県でも都市農業振興計画が策定されました。都市と農業がバランスよく発展し,都市農業が持つ多様な機能が発揮されることで,その豊かさを農業者と都市住民がともに享受し,未来へつなぐことを目的としています。一方で,本市においては,都市農地に関してしっかりとした計画や方針が示されていません

 都市農業振興基本法の第10条において,地方公共団体は,政府の基本計画を基本として,その地方公共団体における都市農業の振興に関する計画(地方計画)を定めるよう努めなければならないとされています。この点については,他の議員からも昨年に質問がありましたが,御紹介してきたとおり,本年に入って生産緑地法,都市計画法,都市計画運用指針など,農地を保全するための法改正,スキームが具体的にたくさん出てきました。都市農業の振興に当たっては,地域の実情に合わせた施策の展開が必要であり,市町村においては,農政部局,都市計画部局,関係団体等が連携し,都市農業者や地域住民も一緒になった議論のもと,国と県の計画を参考に地方計画を策定することが求められています。本市の農地の減少には歯どめがかかっていません。しかし,農地は都市にあるべきものとして,その意義,役割を真剣に捉えるべき状況にあります。市の都市農業の考え方を体系的に示し,都市農業振興と農地を生かしたまちづくりを効果的に施策が推進できるよう,都市農業振興計画を早急に策定すべきであると考えますが,市の考えは?

(市の答弁)

 現在,国においては,都市農業振興基本計画で示されました農業振興,都市計画の観点から,相続税納税猶予のあり方などの税制面のほか,国が講ずべき施策について検討がなされているところでございます。このようなことから,近隣他市の状況も注視しつつ,本市の実情に合った活用方法について調査研究してまいります。

 

(参考)

都市計画運用指針 - 国土交通省

生産緑地法等の改正について(PDF)- 国土交通省

 

都市農業振興基本計画(農林水産省)

愛知県都市農業振興計画

生産緑地制度(春日井市のHP)←このページは私が質問通告をした後に作られました。本来であれば、市の指定基準なども分かりやすく公開するべきであり、他の自治体と比べて対応に温度差を感じます。

特定生産緑地制度について(小牧市HP)

お隣の小牧市では特定生産緑地制度の説明をHPで行っています。丁寧な対応だと思います。春日井市当局には真摯に見習ってほしいものです。