もうすでに売れていると思うのですが………。
「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」
原田ひ香著 中公文庫
(337頁)
これは、売れるでしょう!
大ヒット作「三千円の使い方」のように、ジワ売れて欲しい……と言うか口コミでグングン売れるんじゃないかなぁ
家族―特に母と娘(息子もいた)を軸にした短編が6つ収録されております。
これまでの原田ひ香先生の作品同様、出てくるのはちょっと残念だけど、だからこそリアリティーのあるキャラクターばかり―。
そんなトホホ具合がたまらないんですよ
※
それにしてもこのタイトル―、
実に上手いですよねぇ。これだけでウンウン頷けてしまう
進学や就職などで実家を離れ、一人暮らしを経験した事のある方には確実にぶっ刺さります。
まだ、自炊に慣れていないけど、毎日外食するような余裕もない。
そんな時に実家から届く、お米や野菜、そして日持ちのするお惣菜―。
懐かしい郷土のお菓子と……どこでも買えるスナック菓子。そしてこれでもかと詰め込まれているタオル類
「いや、こんなのこっちでも買えるって」
なんて言いながら、入っていたお菓子の袋を開ける…………
※
まず、本作を読んで嬉しかったのは―
『第一話 上京物語』で、岩手から上京してきた主人公が、新居を探すシーンで―、
《相場不動産》が登場したことでございます。
原田ひ香先生の「東京ロンダリング」に登場した、愛すべきキャラが顔を出してくれました
そして、そこから続くのは《ママはキャリアウーマン》《疑似家族》《お母さんの小包、お作りします》《北の国から》《最後の小包》の5編でございます。
特に異彩を放っているのが《疑似家族》でございます。
テーマである家族の上に、"疑似”という不穏な単語が乗っかっております。
こちらは主人公・愛花(アイカ)が、交際している男性についた小さな嘘に悩むお話なのですが―。
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愛花は毒母親から逃げる為、群馬から上京しました。アルバイトと奨学金をやり繰りし大学生活を終え、その後人材派遣会社へ就職(勿論、派遣する側です)、現在に至ります。
お相手の幸多(コウタ)は、東京出身で親戚に医者やら学者やらがゴロゴロいる良家の次男―。
家庭環境のお陰か、穏やかで人間性も申し分ないハンサムガイ―。
愛花は、日々の節約&キャバクラ勤務等で奨学金を返済し終えたしっかり者です。しかし幸多と一緒にいればいるほど、家族に対する引け目を感じてしまいます。
―引け目どころか、父親もとっくに家を出ていましたから、実質、愛花には家族がいないんです。
※
二人が出会った頃に、なんとなくついた『群馬の実家から、傷物の野菜なんかが届く』的な嘘―。
まだ、先々の事―数ヶ月後に告白され、同棲までしています―なんてわからずに言った、その場限りのでまかせ。
勿論、話の流れでそんな会話がツラツラ出来たのも、愛花が同じような内容の小包を定期的に受け取っていたから―。
それは、群馬のとある農家が傷物野菜を破格の値段で販売している通販―。
最初『とにかく安いから』と購入した傷物野菜―特にサツマイモ・紅はるかの美味しさに愛花は打ちのめされてしまいました。
そこからすっかりリピータになっていた愛花は、その出品先・〈ありんこ農場〉と注文の際にちょっとしたやり取りをするくらいにはなっていました。
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〈ありんこ農場〉から、届く野菜で幸多にご飯やお弁当を作り、その幸せをかみしめていた愛花―。
しかし、二人にとって、避けては通れない問題が持ち上がります。
幸多から、「両親に会って欲しい」と言われたのです。そうなるとごく近い将来「いつも美味しい野菜を送ってくれるご両親にも会わせて欲しい」となるのは必定…………。
愛花は本当の親の現状を殆ど知りませんし、母親には絶対に会わせたくありません。幸多とは一緒になりたいけれど…………。
悩み抜いた愛花は、〈ありんこ農場〉こと、都築(ツズキ)めぐみに連絡を入れます。『テレビ電話でいいので―』
『私のお母さんになってくれませんか』と―。
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ちなみに、この次のお話《お母さんの小包、おつくりします》の主人公は、そのめぐみの娘なんでございます