長らく私の部屋で行方不明になっていた本書真顔

 

《地政学》なんて聞くと―、

 

 なんだかとっても難しそうです。しかし―、

 

 実の所、心躍るような描写がとにかく楽しい本でした。

 

 今回は、そんな"風景”の数々をつまんでみたいと思います。

(取り敢えず①にしておきます)

 

「海の地政学 海軍提督が語る歴史と戦略

ジェイムズ・スタヴィリディス著 北川知子訳 ハヤカワ文庫NF

(376頁)

 

 新米乗組員にとって幸いなことに、海は穏やかで船酔いの心配もない。艦が舳先(へさき)を真西に向けると、私は階段を数段上って艦橋に出た。ほの暗い通路を抜け出た瞬間、降り注ぐ太陽の光と潮風、ミイ渡す限り広がる海に圧倒された。船乗りになりたい。ダマスカスに向かう途中で天からの光に導かれてキリスト教徒となった聖パウロのように、私は唐突にそう思った。幼い頃から海に親しんでいたわけでもない。それでもこのとき太平洋は私の喉元をつかみ、静かに言った。「おかえり」。私は二度と振り返ることはなかった。

 

 

 著者は、父のように海兵隊将校になるつもりで、海軍兵学校に入学し、この時が初めての航海訓練でした。なお―、

 

 海軍とはそのものズバリ、海上での戦闘を行う部隊でございます。

 

 対して海兵隊というのは―、

 

 敵地に上陸作戦を敢行する精鋭部隊でして、その為に必要な陸海空の戦力を備えた総合部隊なのでございます。

 

 ※

 

 それから士官学校を卒業した著者は、海軍少尉として太平洋を横断する長い航海に出ました。

 

 この時に"とある儀式”が紹介されているのですが―、

 

《深海の悪霊ディビー・ジョーンズの王国》に入る日に行われる" 赤道越え記念式"

というのだそうです。

 

 つまり、初めて赤道を越える船員が"先輩”から洗礼を受けるのですが―、

 

 "軍隊ならでは”とも言えますし、"アメリカらしい”とも言える無茶苦茶な慣習で、少々引きますニヒヒ


 なお、幸いな事に著者の上官も赤道越えの未経験者だった為、あまり酷い目にはあわなかったそうです。

 

 ※

 

 遠い昔に誰かが海に漕ぎ出し、気の遠くなるような距離を進んで陸地にたどり着き、生き延びたに違いない。

 これほどの距離を克服するためには、工夫する力、勇気、強靱な意志が必要だ。一八〇〇年代にはネルソン提督の戦列艦ヴィクトリーのように大きな帆を掲げ、六分儀のような複雑な操縦装置を備えた大型船が登場していた。この頃の技術が太平洋の島々への定住を促したのであれば納得もできるが、実際には、人間は一万年も前に、距離を克服する手段を見出していた。

 

 これは航海の途上、オセアニア地域を前にした時の記述でございます。

 

 一万年前に、広大な海洋に点在する島々へ渡った人達は―

 

 アウトリガーカヌー(片側もしくは両側に"浮き”を付け安定性を向上させたカヌー)で、潮の流れに乗り、星空を頼りに新天地を目指したのです。

 

 推進力は人力―つまりは櫂(かい)だけですから、本当に驚きですゲッソリ

 

 ※

 

 フィジーからニュー・ジーランドへと航海は続きまして―。

 

 次に私たちはオーストラリアに向かった。シドニーの素晴らしい天然の港を目指したのである。白い軍服に太陽の光が注ぐ。海に突き出た岬にあるガーデン島海軍基地に艦を停めると、豪華なシドニー・オペラ・ハウスが海に浮かぶ白い帆のように輝いて見えた。

 

 この白と―記述はありませんが―青のコントラストが印象的な描写で、ちょっとウットリしてしまいましたデレデレ

 

 ※※

 

 今回、主にご紹介した《太平洋》の章では、他にマゼランやクックと言った、"海の先人”に関するモノや、日本に対する(第2次大戦以外の)記述も見られます。

 とっても平易な文章で書かれているので、情景を思い描きながら読み進め事が出来ますウインク