劇作家・シェイクスピアの誕生前夜(?)のお話でございます。
「ロミオとジュリエットと三人の魔女」
門井慶喜著 講談社文庫
(359頁)
本作は"パスティーシュ”と謳われております。
コレは―、
設定やキャラクターを原作のまま使用し、新たなストーリーを構築したモノでございます。
昨今では"二次創作”と言ったほうが、通りが良いかもしれませんね。
日本では"薄い本”を含めましても、お馴染みの分野でございますし―、
海外でもシャーロック・ホームズなんかはよく目にする気が致します。
ただし、私はシェイクスピアの作品に明るくありません。
ザックリとした知識の他は、古代ローマに関連だけでございます。
すなわち―
- クレオパトラを黒髪オカッパのイメージにしたのはシェイクスピア。
- カエサルに「ブルータス、お前もか!?」と言わせたのもシェイクスピア。
(たぶん、諸説あります)
※
本作は、おそらくシェイクスピアについて知っている人が読めば、ニヤニヤしっぱなしなのだと思われます。でも―、
"4大悲劇を薄~く”程度の私でも、十分に楽しめました。
※※※※
舞台となっておりますのは、アドリア海に浮かぶイリリア島でございます。
この人口300人程度の小国の領主の館にご厄介になっていたのが、24歳の道化師・フェステことウィリアム・シェイクスピアでございます。
彼は元々イングランドの田舎町の生まれです。若気の至りで"出来婚”したウィリアムは、その後3人の子宝にも恵まれたのですが、ふと―、
『こんな人生でいいのか?』
となりまして―
かねてより憧れていた俳優になるべく(勝手に)家を出たのです
※
何とかロンドンで海軍大臣がパトロンの一座に潜り込んだのですが、観劇に訪れたエリザベス女王から「あの下手くそな役者は誰だ?」と言われてしまいます。
そんなこんなで海外武者修行(?)の旅に出て、このイリリアへやって来ていたのです。
※
真夏の日差しに辟易したウィリアムが領主の館の庭でへたり込んでいると、なにやら男女の言い争う声が聞こえてまいります。
そのまま、やって来た若いカップルとウィリアムの間でひと騒ぎがあるのですが、そこで飛び出すのがこのひと言でございます。
「どうしてあなたはロミオなの?」
―そう、この二人はロミオ(14歳)とジュリエット(13歳)なのでございます。
共にヴェローナの名家の子女である二人は婚約しています。
仲の良い親同士が結婚を決めてしまったのです(!)。ただし、当人同士はとにかく馬が合わない。
それで「二人で旅でもすれば心も通じ合うはず」という具合で、それぞれの親が後見人付け、イリリアへやって来たという訳です。
※
その夜の晩餐会の席で―、
館の主・オーシノー公爵夫妻を始め、ロミオ&ジュリエット達からも「道化師にしては、品が良すぎる」と言われてしまうウィリアム―。
渋々『本職は役者です』と告白するのですが―。
―当然ながら、場は気まずい雰囲気に包まれます。口々に「演技が下手すぎるよw」なんて言っていた相手が、役者だったんですから
※
そんな流れで、公爵から"イギリス人の偽道化師”を敢えて歓待していた訳が語られ、さらに座は深刻なモノになります。
※
時は1588年―。
スペインが誇る無敵艦隊(アルマダ)がイングランドの艦隊に完膚なきまで敗れたいわゆる"アルマダ海戦”の直後なのでございます。
情報は錯綜し、各国はそれぞれの出方を伺っている状態でした。
そんな折、この海戦に参加したイングランドの兵士3名がイリリアへ迷いこんだというのです。
現在は、公爵の義弟である伯爵・セバスチャンの屋敷にいる彼等の内の一人が―、
「自分は女王陛下の寵臣だ」
と女王直筆の手紙を見せたというのです。
※
「スペインの国王・フェリペ2世の命で、その3名を捕縛する為の兵がこの島へやって来ている」
そう打ち明けた公爵は苦い顔です。イリリアは、難しい選択を迫られているのです。
- 同じ旧教徒で、未だ精強に見えるスペインに着くのか。
- 新教徒だけれど、そのスペインの無敵艦隊を破った新興国イングランドにつくのか。
イギリス兵を突き出すべきか、匿うべきか、
それが問題なんです
※
公爵の依頼により、その"自称寵臣”が、本物(サ-・ジョン・フォルスタッフという面白ジジィ)であると確認したウィリアムに、さらなる試練が降りかかります。
スペイン兵達のイリリア滞在中の娯楽として、劇を提供することとなり―、
その脚本をウィリアムが手がけるハメになってしまったのです
かくして"大根役者”ウィリアムの手による喜劇『ロミオとジュリエットと三人の魔女』が開演となるのですが―。
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本作には、きっと色んな作品のキャラクターが登場しているのでしょう。ざっくり見当が付く程度でも面白かったです
なんなら、シェイクスピアもかじってみようかなぁとも思っていたのですが―、
この作品より楽しく読める気がしませんので―
やめておきます。