水中考古学という学問のお話でございます。
「沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う」
山舩晃太郎著 新潮文庫
(260頁)
著者である山舩(やまふね)先生の事は、私も帯にある通りテレビ番組で拝見しておりました。
そして、彼が駆使します《フォトグラメトリ》という最新技術に心を踊らされた一人でございます。
これは言ってみれば、3DCGを作成してそこに精緻なデータも載っけるという感じでございます。
いや「3DCGなんて、最新でもなんでもないじゃないか」とお思いの皆様―。
確かに現在ではハンディースキャナーでもってデータを取れますし―、
それこそPerfumeのお三人様なんて、ことある毎に最新の3Dデータを取られてます。
(Liveで"自分達のCGとリアルタイム合成する”という神業をやったのも、もう10年程前です)
しかし、それはあくまで地上のお話
水中でレーザースキャナーとか使えないんです。
(現在は使えるかもしれませんが―)
そこで使われるのが写真(=フォトグラフ)でございます。膨大な写真を様々な方向から取り、それを元に3DCGを構築いたします。
このCGが―、
活動時間が限られ、透明度によっては視界さえも遮られる、水中という環境下での発掘・研究と相性が良いのです。
※
そもそも著者の専攻しておりますのは、水中考古学の中でも《船舶考古学》なるモノでございます。
これは海底に沈んでおります木造船の構造を調べる事で、歴史に迫るという学問でございます。
本書の冒頭は、中でも肝心要とされております"キール(竜骨)”を発見する場面でございます。
昔の船というもは、ひっくり返しますと真ん中に船首から船尾までを貫く強固な部材がございました。
コレが"キール”でございまして、そこに交差する様にフレームという外側や内装なんかの部材をはめ込んでいく形でございます。
ですので、フレームを肋骨と考えれば、キールとは正に船の背骨と言ってよいかもしれません。
それで、このキールの形状などから、大まかな時代や国籍がわかります。そうすると、地上の資料と合わせることで、航路や積荷へと繋がっていきます(勿論、積荷自体が見つかる事もあります)。そうすれば、当時の交易や海上交通の様子にまで迫る事が出来るのです
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本書の各章は、概ね様々な現場での発掘作業の様子なのですが―
第3章は著者自身の留学体験を綴ったモノでございます。
水中考古学を学びたくて、単身単身テキサスA&M大学へ行った著者。
実は英語が出来なかったんです‥‥‥それも壊滅的なレベルで
それでも、何とか日常会話が出来るレベルになり、勇躍《船舶考古学概論》なる授業に参加したのです。しかし―、
判るわけないんです
教授の説明とそれに対する学生の質問も皆、専門用語の応酬なんですから
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そんな状態からスタート致しまして、著者は今や世界中で活躍をされているおります。
やっぱり突き抜けた情熱というのは凄いモノですね。
ちなみに冒頭でご紹介しました《フォトグラメトリ》という技術―。
机上では水中考古学との相性は抜群と考えられたのですが、当初はソフトウェアの精度が悪く、実際の研究には使えないと評されていました。
では、どうしていたのかと言いますと―、
記録を取って作図するという極めてアナログな作業でございます
著者はこのソフトウェア自体を研究し、その特性を掴みました。そして、"これまでの考古学者達”が作成したモノとは段違いに精巧な3DCGを生み出すことに成功します。
精度の問題も確かにあったのでしょうが、それを使いこなせる人材もいなかったというのが本当の所となのでしょう。
著者は《フォトグラメトリ》を使いこなせる水中考古学者として、文字通りの第一人者となっていきます
※
その《フォトグラメトリ》の技術でもって、"カリブの海賊船”の謎に迫る第6章は圧巻の面白さです。
見つかった積荷から、その船の国籍を調べ、辿り着いたその船の正体(つまり海賊船ではなかったんです)と、本来の"目的”は―。
まさに、章のタイトル通り"沈没船探偵”でございます
※
なお著者は、水中考古学というモノを広く知らしめ、未来の"水中考古学者”たる人材を増やしたいと思い、本書を執筆されたそうです。
なお、水中考古学とは―、
積荷などの金品―俗にいう財宝です―目当てのトレジャーハンティングとは全く別モノでございます。
場合によっては舟の遺構を破壊しさえする"トレジャーハンター”は、大きな問題となっており、各国で厳しく取り締まっているそうです。
ただ、そうすると今度は"自称水中考古学者”みたいな輩が出てきているそうで‥‥‥。
※
それにしても、海底に沈む沈没船‥‥‥浪漫があります。
ならば早速―。
「とりゃぁ!」
!
!?
「おおぉっ!?」
(おしまい)